表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SaLt  作者: 蒼海 游
浦島太郎
5/47

第4話 家族ごっこ

2025/08/21より、一部新しいエピソードとして生まれ変わりました!

 今日は日曜日。大希以外の三人が家にいる。色々面倒がある毎日だが、大分どう振る舞えばいいか分かってきて、変に思われていないはずだ。……多分。


 立てるようになり、歩けるようにもなり、歯も生えてきて喋ることができる年頃まで来た。ということで今は離乳食を食べる生活である。

 残念というべきなのか、母乳は卒業し、泣いて由利を呼ぶ必要もない。少し寂しい気もするが、歩けるようになったのだから自由に会いに行ける。

 まあ、キッチンには行けないけども。


 というのも今、由利は安全柵をつけられたキッチンで何やら料理をしているのだ。


 ……食べたいな、肉。


 母乳から卒業したとはいえ、まだ歯が十分になく、まだお粥や林檎のすりつぶしから卒業できない。目の前に広げられる料理を唾を呑んで我慢する日々だ。


 ……多分、もう少ししたら食べれる。そう、信じている。




「仁ー!」


 娘、もとい姉の咲良がツインテールを揺らしながらおもちゃを持ってやってくる。


「遊ぼっか」


 一応頷いておく。別に遊びたくないんだけど、娘に付き合って遊ぶと思えばいいい。

 何も考えず、弄る。それが正解だと知ったのは最近だ。下手に何も考えないほうがいい。子どもなんて、まだ世の摂理を知らないのだから。


 咲良はずっと明るい。だから、咲良がいると雰囲気が和らぐ。別に、由利といて堅苦しいわけではない。むしろ平日の昼は二人でいれて幸せだ。だが、そこに智か大希が入ると少し固くなる。特に咲良のいない三人の時なんかすごい静かだ。

 大希は家にいないことが多く、まだまだよく分からない。一応、俺には構うのだが何を考えているのか分からない。友達とはうまくやっているようで安心しているが、昔と性格が変わった気がする。成長のせいかもしれないが、何となく寂しい気もする。

 由利はいつも笑顔で世話をしてくれる。がしかし、由利も考えてることはよく分からない。何か隠しているような、そんな気がする。俺の勘だが。

 智は漁師だった俺と違い、サラリーマンだ。島では珍しく大学に行って、中堅の会社で働いている。何か気遣っているのか、いつも貼り付けたような笑みを浮かべている。だが、時々俺をじーっと見てくる時があるので、何か怪しんでいるのかもしれない。今もこっちを見てニコニコしている。相変わらずよく分からないやつだ。昔からよくわからないやつだったが。


 というのは今はどうでもいいとして、子どもたちの年齢を紹介しておこう。

 今は俺が死んでから五年後だ。再び生まれるまで四年のブランクがあったから、つまり俺の身体は一歳なわけだ。

 大希は十歳、育ち盛りだ。咲良は六歳、まだまだわんぱくだ。体力は大分あるけれど、付いていくのはテンションが追いつかない。由利と智の歳は計算する必要はない。一応同年齢だし、女の歳を計算するのはよくないと思う。



「仁、何してんの」


 そんなことを考えているうちにどうやら手を止めていたらしい。咲良が不満そうだ。


「そのおもちゃに飽きたんじゃないか」


 智が正しいような間違えているような答えを言う。


「そっかぁ」


 咲良は少し残念そうにしょげつつ、他のおもちゃを探しに行く。俺は思わずふっと息を吐いた。


「……お疲れかな」


 それを見ていたのか智が苦笑いして言う。

 そのうちこいつにバレそうだ。気をつけないと。俺は小さな子ども、大人ではない。相手してあげてるのではなく表向きは相手してもらっているのだから。

 とりあえず目の前のものを全力で振ってこどもらしく振る舞っておいた。


 それからしばらくすると、家族ごっこに付き合わされた。これに関しては付き合わされたと言ってもいいだろう。


「お父さんはお父さん役、仁は赤ちゃん役ね」


 とはいえなんも変わりはなさそうな役柄で、家族ごっこの意味はどこへやらと言いたくなるが、多分咲良がお母さん役をしたいのだろう。


「よーしよしよし」


 咲良はぎこちない、小さな手で俺のことを包み込む。普段の由利の姿でも見て真似をしたくなったのだろう。しばらくすると料理の真似事を始めた。


「はいどうぞ」


 そして俺に与えられたのは、おもちゃの食べ物。懐かしい料理の形に涎が出そうになりながら、そして実際に漂ういい匂いを嗅ぎながら改めて思う。


 ああ、肉食べたい、と。

 魚でもいい。とりあえず普段の食事をしたい。


「ああ、口に咥えちゃダメよっ」


 咲良はごっこ遊びを忘れて真剣に注意してきた。危うく涎だらけになるところだった。


 家族といえば、家族ごっこでも見られるように智はこちらを見ているが、夫婦間の会話はあまりない。俺の行方不明からそもそもどういう経緯でこうなったのだろう。

 由利を演じているであろう咲良も、まるでいないかのように智に話しかけない。咲良本人は気づいていないだろうし、それが普通だと思っているのだろう。


 あの夜の由利を思い出すと、もしかすると由利も、家族ごっこのように振る舞っているのかもしれないと思ったのだった。

 まぁ、俺の杞憂かもしれないけれど。


 とりあえず、早く歯が生えてまともなご飯を食べられるようになりたいと思ったのだった。

もしよろしければ、感想等いただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ