第45話 高校デビュー
九月になった。これから結婚式などいろいろあるが、俺たちにとってまだ試練が残っていた。
そう、高校への転校だ。
まだクラスメイトには会っていないが、仁はこれからどんな関わりをしていくのだろう。緋夏という彼女もいるので、そこ辺りちゃんと考えていると思うが……。
『さあて、これからまた一からのスタートだよ』
仁は気合が入っているのか、そう言ってはSNSを見たりテレビを見たり雑誌を読んだりしている。一応流行などには乗ってみたいらしい。新しい情報をまめに集めようとするその姿勢は感服する。しかし、その様子が気にならなくもない。なぜそこまで気にするのだろう。島にいる間はそれこそファッションや新しいものにも特に見向きもしなかったのに。
『なあ、お前結構まめに情報集めてるけど、高校で何したいんだ?』
しかし、尋ねてみると意外な答えが返ってくる。
『なんか、亜里沙さんに田舎もんはすぐわかるからわかったら馬鹿にされるぞって。だから新しい情報気を付けて生きてけって』
……亜里沙はだましてるのかよくわからないアドバイスをくれる。確かにそういうことはないことはないだろうが、ただ亜里沙が新しいもの好きだったからというだけな気もしなくはない。
『……まあ、あいつは大袈裟だから……ほどほどにな』
『は~い』
わかってるのかわかっていないのかよくわからない答えが返ってくる。でもまあ、新しいものを追う自体は悪くないので見守ることにした。
「高比良仁です。よろしくお願いします」
教壇で挨拶した時見た顔は、皆なんというか、整っていた。
確かに、ここに島の高校生たちが混ざると少し浮くかもしれないといったくらい、全然違った。垢抜けているというか、大学に行ったときも思ったが、なんだか同じ高校生とは思えない。あながち亜里沙の言葉は間違えていないのかもしれない。
『ひゃ~、みんなすごいよ』
脳内ではそう仁が叫んでいる。仁も戸惑っているらしい。
『ま、まあ、みんなそうじゃないしな?あとお前も結構磨いた方じゃないか?』
俺も戸惑いつつそうフォローしてみる。少し何人かを敵に回した気がするが許してほしい。仁はそれで落ち着いたらしい。
『そうかな……?とりあえず頑張ってみるよ』
仁は前とは違い、一歩進む勇気を持っていた。
「仁くんっていうんね!」
「かっこい~!」
不安は無駄だった。転校生だからか、席についてからすごい話しかけられる。
「なあ、どんなとこから来たん?」
「どんな家に住んでる?」
「彼女いるー?」
しかし……なんか思った以上に結構来るな。
「えっと…」
仁は戸惑ってしまっている。さっきとは別の意味で戸惑いがある。そりゃまぁ、一気に来られるとびっくりするよな。
「ありがと、僕は九州のとある島から来たんだ。今は家族とマンション住まいで、彼女は……島にいるよ」
最後の彼女云々はもう照れ照れで答えるものだから微笑ましい。ほんと、よかったなぁ。
「なんだとー!? 羨ましいなこのヤロー!」
「写真見せろー!」
「どんな女だー!」
そしてそれに対する男子の食いつきもすごい。
「嘘でしょー!」
「遠距離恋愛かぁ……! 素敵!」
女子もすごいが、男子とはまた違った感じだ。
「はい、……これでいいかな?」
照れながらも見せた写真に皆が群がる。
そして。
「はぁ……綺麗」
「美人だな」
「お似合いやん」
「友達紹介してや!」
皆が緋夏を賞賛するものだから、仁はもう照れてばかりだ。
「ありがと」
自慢の彼女をみんなに褒められたのがとてつもなく嬉しいらしい。気持ちはすごいわかるぞ、仁。
その日一日中、仁の周りから人が消えることはなかった。
そんなこんなでもてなされた仁は上機嫌で家に帰ってきた。何人かの友達も早くもできて、学校生活は順調に進みだしていた。
「おかえりー!」
上機嫌なのは由利もだった。島から出てから、ずっと上機嫌である。なぜかはあえて聞かないが、気になる。俺たちのいない間に何かあったのだろうか。
「母さん、上機嫌だね」
「そうー?新しい生活にワクワクしてるからかなー?」
しかしその心配が馬鹿らしくなるような明るい答えが返ってきて、俺はほっと安堵する。
「ところで新しい学校、どうだった?」
「いっぱい友達できて、面白かったよ! 島の外ってすごいね!」
由利の問いかけに仁は明るく応じる。
「そうね、楽しいね! 意外と過ごしやすいし」
由利も微笑みを浮かべながらそう返す。その笑みは本当に笑っているそれだ。由利は本当に楽しんでいるのだろう、島の外の生活を。
「これからどんどん楽しいことがあるんだろうね。楽しみだなぁ」
由利はベランダの方へ歩いてゆき、カーテンを開ける。そこには島の生活のように自然はない。大通りに沿ったマンションの三階であるため、向かいには他の建物、少し見下げると道路が見えたりする。
「観光とか、いっぱい思い出作ろうね」
その言葉が、誰に向けての言葉なのか俺にはわからなかった。




