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SaLt  作者: 蒼海 游
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第43話 挨拶

 約束の日が刻々と近づいていた。そう、その約束とはもちろん、大希の彼女との対面である。

 今までの行動にあまり女の影が見えない大希だったので、その大希がどのような女性を選んだかというのはなかなか興味深い。


『あぁ~、いいよな~、父さんは勉強のこと考えなくていいんだもの』


 そう愚痴る仁は、普段バイトと勉強とで大忙しである。バイトは別にしなくてもいいと由利からも言われたのだが、由利が働き始めた以上自分も……という気持ちが強いらしかった。


『ん?勉強わかんないなら俺もわからないながらに手伝おうか?』


 そう言ってみると黙ってしまうので結局何を求めているかはわからない。邪魔にならないよう寝るのが一番いいのだろう。が、しかし楽しみでなかなか眠れないのだった。


「仁くーん、ご飯よ」


 そんな時に由利が呼びにきた。仁はわかったーと答えてからため息を吐く。


『幸せが逃げるぞ』


 そう話しかけたが、仁は何も答えなかった。




「ねぇ、大希兄ちゃんの彼女さんってどんな人か知ってる?」


 食卓で仁は由利にそう尋ねた。大希は現在別の場所にいる。元よりあちこちに飛び回る学生であるため、居場所は安定しない。もしかするとまた海に行っているのかもしれない。


「わからないけど……あんなにも飛び回っても一緒にいてくれる人だから、相当忍耐強い人なのかなと思うよ」


 なんとなく、由利は自分達と重ねている気がした。由利は忍耐強く、俺を待っていてくれているから。


「まぁもちろん、いくら忍耐強くても待ちきれないってこともあるけどね」


 由利はこちらを見ながら話している。それがただ視線を合わせて話をするという意味なのか、俺に対しての皮肉なのか、俺には区別がつかなかった。


「ってことは、母さんも知らないんだね」


 あくまでも俺は仁の体で接し続ける。たまに二人になったりすると慎二として話したり抱きしめたりしたくもなるけれど。

 由利はそれに対し表情を変えることなく頷く。


「うん、知らないな。だけどもう一つ考えられるのは……亜里沙の娘さんかな」


 そんな馬鹿な……その時はそう聞き流していたが……。






「…まじかよ」


 俺は目の前の女性を見て呆気に取られていた。


「こんにちは。はじめまして。大希くんの彼女の堀越亜由美です。母がいつもお世話になっております」


 その女性は、亜里沙そっくりな娘さんだった。




「大希ぃ!?」


 俺は思わず大希に小声で詰め寄った。


「どういうことだよ、なんでお前が亜里沙の娘と……!」


「ははっ、お見合いみたいなもんだよ、亜里沙さんを介してのね」


 しかし大希は面白がってか笑っている。


「やっぱり父さんはびっくりすると思ったよ。仁はいいと思うよなあ?」


「うん!」


 とそこで、仁が主導権を奪いそう答える。ったく、こっちの気も知らずに……。


「結局僕だって父さんの妹の娘の緋夏と彼女なわけだし?」


 あえて口に出したのは、大希にも聞こえるようにだろう。


「そうなんだよなあ?」


 ぱあんとお互い手を打ち合わすなどしている。俺は主導権を奪い返さねばと思っていた。


「何してるの~?」


 彼女さんがこっちにやってきて、大希の肩に自分の腕を置いた。大希も避ける様子はないので、慣れているのだろう。先ほどまで由利や咲良と楽しそうに話し込んでいたようだが、話が終わったのだろうか。


「いや、弟との戯れだ」


 大希はそう言うので、もしかするとまだ言ってないのだろうかと思う。


「ああ、あの弟さんね」


 あの弟さんとはなんだと思わなくはない。この家には弟は一人しかいないのだから。


「お母さんとは知り合いって聞いたわ。なんか昔の幼馴染にそっくりな子どもだって聞いたけど」


 亜里沙あああああ! と俺は心の中で叫ぶ。謎の紹介をされてしまってそれが由利にばれてしまってはたまったものではない。


「可愛らしい弟さんじゃない!ショタ心をくすぐりそうな……!」


 と、突然抱きしめられた。こういうところもすごい亜里沙に似ている。亜里沙は昔からボディタッチが激しい。それは恋人など関係性に関係なくである。


「お母さんとは仲いいの?」


 暑苦しい抱擁を解きながらなんとなく尋ねてみる。あんな明るい母親がいれば二パターンの子どもが生まれるはずだ。友達のように仲の良い子どもと、あきれ果てた様子の子どもと。まあ、前者だとは思うが。


「うん! めっちゃ仲いいよ! 友達みたいな感じ!」


 案の定この彼女さんは前者のようだった。最初はおとなしく見えたが、実はすごいうるさそうだ。これが陽キャというやつだろうか。ただ亜里沙の子どもだというのもあるかもしれないが。


「ところで、どこがお互い好きなの?」


 さらに質問を重ねる。大希を巻き込みつつ。大希が少し慌てた様子が横目に見えて、してやったりと思う。


「私はね~、なんやかんや言って素直で優しいところ! あっちこっちほっつき回ってるけど、ちゃんと毎日おはようとおやすみの連絡はくれるし、ちゃんと記念日とかは忘れず祝ってくれるんよ~!」


 ほら、と見せてくれたトークルームには、確かにおはよう、おやすみ、元気か?などと簡潔であるが彼女さんを大切にしているのがちゃんと伝わってくるメッセージが送られていた。


「送らねえと不機嫌になっからよ……」


 大希はふてくされながらも、満更ではなさそうな顔をしている。


「じゃあ大希兄ちゃんは~?」


 あえて仁の口調を真似て言ってみた。それを大希はわかっており、さらに顔を歪めた。


「……俺は、こうやっていつでも明るく元気づけてくれるところと、気が配れるところ。実は同棲してたりしてるんだが、結構料理など家事がすごい出来るんだ」


「へえ~?」


 彼女さんはニヤニヤしながら大希を見た。そして、大希の腕に自分の腕を巻き付けた。


「ならもうずっとくっついとこっと。その方が元気になれるっしょ」


「……暑い」


 大希はそう言うが、離そうとする様子はない。


「で、そんなラブラブな二人から、皆さんにお話があってきました!」


 彼女さんはそう言って皆を集める。気が付けばあいつまでいる。いつの間に現れたのやら。


「私たち、結婚させていただきたく、報告という形にはなりますがお願いしに参りました」


「……」


 途端に真面目モードに切り替わる彼女さんはなんやかんや切り替えが上手なようだ。賢い女性なのだろう。大希は黙っているが、否定しないあたり事実であることは間違いない。


「いつプロポーズしたんだ」


 小声でそう耳元で尋ねると、不機嫌そうながらも大希は小声で返す。


「観光の日の後だ」


 あの日の後にそんなことが起こっていたとは思いもよらなかった。確かに観光した日のあと、慌てたようにこの家を離れたようだが、まさかそんなことをしていたとは。


「あら~! 私は大歓迎よ~!」


 由利は興奮した様子でそう言う。


「私も! 素敵なお姉さまができて嬉しい!」


 咲良もはしゃいでいる。


「……」


 とここでまた、俺に視線が集まる。


「……僕はいいけど、お父さんには許可取らなくていいの?」


「大丈夫よ、ちゃんとそこはクリアするから」


 そう言ったのは由利だ。ね?と言うがもしかして俺の許可をよしとするわけではないだろうか。

 そういうわけで一同は祝福モードに湧いていた。





「じゃあ俺もいいですか?」


 しかし、そう言うやつの言葉で、空気が固まる。

 そいつはいつものチャラい笑顔ではなく、真剣な顔をしていた。


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