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SaLt  作者: 蒼海 游
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第41話 洗礼

今回から一応新章に入ります。

 島の外の生活は、まだまだ俺たちにとって未知なものばかりだった。そこで生活するには、元から住んでいた由利、大希、そして亜里沙の力が必要不可欠であった。亜里沙は実は二人の上京時にも世話になっていたそうだ。聞いていなかったが。


 移り住むにあたり、俺たちにとって大事だったのは進学先だった。転校手続きをするには、数多くの高校から進学先を選ばなくてはならなかった。仁は賢いと思っていた俺はしかしそこで現実を知らさられる。仁の俺が思っていた賢さはいわゆる井の中の蛙に過ぎず、こちらでは特に目立つようなものではなかった。

 しかしどうにか公立を探し、必死の勉強の結果公立高校への転学をどうにか決めた。


 金銭的負担はある程度智がしてくれることにはなっている。しかし、世帯を持ち生活する以上かなりの金銭的負担がかかることはわかっていた。

 競争が激しいこの町では居場所を確保するだけで大変で、家に関しても少し大きくしただけで値段は大きく跳ね上がった。物価も高く、周りは近所のことに対し比較的無関心であるがゆえに島であった助け合いなどはあまりない様子だ。

 だが便利だった。島とは違う目新しいものなどもあって、島以上の供給に満ち溢れていた。やはり島から出てみると面白いのだなと思うのだった。


 <さっそくだからさ~、観光行こうよ>


 移住してからしばらく経ったある日、亜里沙からそんな誘いが来た。亜里沙はどうやら俺の正体をどこかで感づいているらしく、会話するときはニヤニヤしながらこちらを見ている。そのさまはまるで智のようだ。しかしそれを由利に言わないのは褒めてやろう。


 <もちろんだよ、連れてって>


 新しいもの好きな亜里沙は東京に住んでいる。大阪にも来たことあるらしいが、新しいもの好きな亜里沙には東京が似合う。あとなにか色々と合わないところもあったのだろう。


「東京が私を呼んだのよ」


 たまに島に遊びに来る亜里沙が由利にそう言っていたのを覚えている。


「ってわけで、観光プランを練ってきました!」


 亜里沙がそう言って家にやって来ると、話を聞いてなかったのか由利は少しきょとんとしてから、すぐに目を輝かせた。


「観光!やった!」


 なんやかんや引っ越しの色々で出かけられなかった俺たちにとって久しぶりのまともな遊びである。


「メンバーは……と」


 そう言って亜里沙は部屋を見回すと、一つ頷く。謎の緊張が生まれる。なぜならそこには、例の男もいるからだ。


「家族で行っちゃう?」


「俺仲間外れっすか!?」


 とそこで案の定そいつが叫ぶ。


「いや、家族外出までついてくる彼氏知らんわ、いや彼氏かもわからないんだったわ」


 そこで大希が小さく突っ込む。それに関しては亜里沙も問題になりそうだがいいのだろうか。


「いや、でも! 俺ここにいて寂しいっすよ! 話参加したいっす……」


 ほんとこいつは犬みたいだな、と思わなくはない。これで法学部の学生というのはなかなか面白い。


「……まあ、いいんじゃないの。僕はどっちでもいいよ」


 俺は思わずそう言った。何となく仲間外れも可哀相な気がしたのだ。とりあえず肯定とも否定とも見れる答えを返す。


「私も……どっちでもいいかな」


 そこに咲良が参戦することで少し味方が増える。


「私も」


「……俺も、別にどっちだっていいけど」


 そこにテンションが高い由利と渋々といった様子の大希も加わる。賛成、というか中和意見多数で可決となる。


「ならまあ、このメンバーで行きますか」


 仕方ない、といった様子の亜里沙はしかし、参考冊子のようなものをしっかりこの部屋の人数分用意していた。それをそれぞれに配っていく。


「やった! 好き!」


 そう言って俺に抱き着いて小声でありがとう、お義父さんなんて言ってくるので、気が早いぞこの野郎と思いながらも振り払わずにいた。すると咲良が何とも言えない顔をこちらに向けていたので、そこで改めて荒く振り払う。振り払う方向が咲良の方だと気づき慌てたが、ぎゃんと鳴きながらそいつは咲良にぶつからないように倒れた。お腹にぶつけるなんてことがあったら危うく命を狙うところだった、危うい危うい。


「まず、このガキが加わったということで、こいつにもちゃんと案内してもらいます」


 亜里沙もガキやこいつ扱いをするが、あいつはあまり気にしていないようだ。


「了解です!」


 それどころかかなりいい返事をしている。


「というわけで、あとは読んでくださ~い、そんで意見があったらどうぞ」


 そしてその説明は相変わらずの適当ぶりだ。そこであいつが後ろでおおげさにこけてみせたのは関西人のノリなのだろうか、よくわからない。とにかく間違えてでも咲良のお腹に当たれば命はない。

 俺たちは冊子などに目が行っており、その時の亜里沙の表情には誰も気付くものはいなかった。




 当日。咲良の体調の都合上、車で行くことになっている俺たちは家の前で集まることになっていた。まだ朝だが、夏だけあって少し暑い。

 運転担当はあいつだ。


「もう今日はバッチリなんでお任せ下さい!」


 運転席から顔を覗かせ、強く胸をたたいて見せたそいつはお茶目に旗など持っている。いつ作ったんだそれ。

 とそこに、亜里沙が車で現れる。こちらは軽自動車だ。一応、別れて乗ることにはなっていたが……。

 咲良が助手席に乗るのを手伝っていたところに、亜里沙が現れる。


「じゃあ、私たちは初心者コース案内してくるんで、先に行ってて」


 そして俺と由利を回収する。大希はなぜか既に乗っていた。


「え! え?」


 そいつは張り切ったにもかかわらず期待外れの行動に動く皆を驚いた顔をしてみていた。


「え、え、」


 咲良は予想外れの行動にただただ訳もわからず戸惑っている。

 そう、これは家族観光に見せかけた二人の仲修復作戦だ。家族になる気があるなら仲を修復しろ、それが裏の目的である……らしい。後付けかは知らない。あとから連絡が来た。確かに二人の関係はいまだにぎこちない関係だ。しかしそれを企んで観光の予定を組んだとは、まさか思いもしまい。


「じゃあ発車~!」


 理解できないまま、しかしあいつは車を発進させた。なんやかんや亜里沙には誰も逆らえない。

 亜里沙は見送ったのち、バンに戻ってきた。運転席にはいつの間にか大希が座っている。


「さあて、私たちは家族になるかもしれない二人を見守りながら観光としますか」


 戸惑いながらも進みだす二人を見守る形で、少し離れてからバンは動き出した。


「しかし、ここからだと会話を聞くのも何もかも不便だな……」


 運転しながら大希が俺の言葉を代弁してくれる。何ともこの四人とは会話しやすいようでしにくい。


「安心しなさい!」


 とそこで助手席の亜里沙が振り返ってとあるものを取り出して見せる。まるでこの一連のやり取りは演劇のシナリオのようだ。


「だっただーん!」


 取り出したのは携帯電話……だが。


「盗聴器でっす」


 とんでもないことをさらっと言ってのける。がしかし、確かにここでは大事である。


「だから安心して~」


 なんやら声が聞こえている。それを車のスピーカーに接続し、声が車中に聞こえるようになる。


「さあ~、観光じゃ~観光じゃ~」


 これより、追跡開始である。

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