第36話 のろし
※今回のシリーズには、暴力的と取られる可能性がある表現が含まれています。ご了承ください。
待ち合わせ場所は、人気のない場所だ。そしてそのころちょうど由利が本土に着いたらしかった。
今どこ、というメールに俺は待ち合わせ場所を伝えるべきか迷う。
スマホを操作していた大希の肩を指で突き、それを見せると、なぜか頷かれる。
「母さん、こっちに来るってよ」
そして咲良にそう言った。つまりはこちらに呼べということだろうか。
「母さんだって父さんみたいにあいつに話したいことくらいあるだろ。親なんだからよ」
俺の表情を読み取ったらしい大希はそういうが、どう反応したらいいのかわからない。
「それに、俺は母さんだって頼りにしてるんだ。父さんは母さんがここに来ると危険なんて思ってるのかもしれないが、そう思ってるのは父さんだけかもしれないぜ?」
そう言われると確かにそうかもしれない。父親にしか言えないこと、出来ないことを俺がしてしまいたいように、母親だからこそ言えることや母親だからこそ出来ることもある。咲良のため来たにも関わらず、安全だとか何だとかでそれを止めるのは何か違う気もしなくはない。正論であるが故に大希の言葉に言い返す言葉は思いつかなかった。
「おい、来たぞ」
そんなこんなでしばらく待っていると、男が現れる。やはりあの男だ。俺は思わず睨みつける。面倒くさそうなその顔はすぐに歪む。
「あんだよ、そいつら」
律儀なことに一人で来たらしいそいつは、多勢に無勢というところだ。大変不満そうである。
「俺らは、咲良の家族だ。話は聞いている」
大希が先に出る。果たして俺はどの役で出るべきか。そういえば何も話していなかった。そこまで至っていなかったというのもあるが。まぁ普通考えれば……。
「……ふうん、兄貴と弟か、親は来なかったんだな」
どう名乗るか迷っていたが、弟で受け入れられたようだ。舐めまわすように見たそいつは馬鹿にしたように笑う。ただ、少し警戒しているのか、少しだけ顔がこわばっている気がした。
見た目ではそうとしか見られないことはわかっていた。問題はここからだ。このまま兄と弟、そして伝言を受け取った体で話をするか、もしくは……。
「なぜ、そう思った?」
とりあえず興味範囲であるがそう尋ねると、そいつは馬鹿じゃないのか、と言わんばかりな顔をする。
「どっから見たってちょっと年上か年下の人間二人だろ。そいつが父親だとか叔父だとか…叔父はあってもなかなかねえし。もしそうだとしても年は大して変わんねえだろ」
警戒から一転舐めくさった態度に変わるのは腹立たしい。俺がそう間抜けに聞こえる質問を聞いたのが悪いのだろうが。しかし、ここからどう行くべきか。
「と、お前は言うが実はここに父親がいるんだ」
と、そこで大希がどや顔でそう返す。いや、そう簡単に言っていいのかよ、と突っ込みたくなるが、多分大希がそう言わなければ永遠に話は進まなかっただろう。
「……父親?」
そいつは一瞬その言葉に表情が固まり、目が泳いでいる。そして慎重にあたりを見渡してから、首を傾げる。そりゃあそうだ、隠れているのではないのだから。
「……フェイントかけてるのか?」
「嘘は言っていないぞ」
「……へえ、なら、お前が父親か?」
「俺だ」
物珍しそうに、しかし明らかに大希を見ていうので、仕方なく俺は出ていく。大希は何でもない顔で俺を見ていたので、大希の頭にあるシナリオ通りなのだろう。
「へえ、年下に見えるのに……どこかの漫画で出てきたような展開だな。どういったわけなんだか……」
「そんなことはどうでもいい」
妙に歯切れが悪くなったのは気になるが、とりあえずこのとぼけ漫才はそろそろ終わりにしたかった。俺たちは、話をしに来たのだから。それに、もうすぐ由利が来る。由利が来るまでに、この話を終わりにしたい。
「お前、どうしてそんなことをした?法学部の学生だろ?」
と脅しをかけるとそこでまた、緊張感が戻る。
「え」
咲良が驚いているが今は黙っていてほしい。
「……ふん、放任してきたくせに、こういうことはちゃんと調べてきてんだな」
それに気づいているか気づいていないかはわからないが、そいつはそう返した。
「……俺はあくまでも妊娠させるつもりはなかった、ちゃんと対策も取った。だが生憎妊娠してしまったらしい。だからおろせと言ったんだ。それを聞かないお前の娘、かなり頑固だとは思わないか?」
腕を組みながら見下げるその目は捨てられたごみを見るようだ。目線の先には咲良がいる。
「あぁ?」
俺は無性に腹が立つ。妊娠させるつもりはなかった? 対策も取った?
もしそれが真実だとしても、それが失敗したやつの態度か?
「じゃあ尋ねるが、お互いその可能性も考慮したうえで同意のもとやったんだな?」
怒りで言葉が出ないでいると、大希が前に出て冷静にそう言う。
「あったりめえだろ。ちゃんと双方の同意があってこそに決まってるだろ、な?」
「うん……絶対大丈夫だって、言われたから……」
曲りなりに双方同意のうえで行われている。これは法律的にはどうなのかわからないが、なかなか痛いところではある気がする。
「大丈夫って言葉を信じたのか?」
「うん……ずっと、悠君の大丈夫で助けられてたから……」
「そうだ、咲良はずっと俺に頼りっきりで、家族は頼れねえって言ってたなあ。だから俺は手を貸してやったんだ」
ここぞとばかりに言う男。しかしこちらもそこにここぞとばかり反応せずにはいられない。
「だが、今は手を振り払ったと」
正直ぐっときたことは認める。だがそういうならこういわせてもらいたい。
「お前、支離破滅な発言をしていることに気付いてないんだな」
俺はそいつの顔を見ながら、そう言い放った。そいつは、顔を少し歪ませた。
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