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SaLt  作者: 蒼海 游
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第35話 待ち合わせ

 駅に着き、多くの人が通りすがる道で咲良を探す。咲良の顔は去年の成人式以来見ていないが、それほど変わっていないと信じたい。


「父さん、笑顔な、笑顔」


 そう言われるからには先ほどのがまだ引っ張っているのだろう。大希が口元に指をあてて、い~っと笑わせて見せたりして、必死に顔を和らげてくれた。


「……お父さんと仁、それにお兄ちゃん、なにやってるの?」


 とそこに、咲良が不意打ちに現れる。


「おう、咲良」


「待ってたぞ」


 二人して仲良く振り返る。咲良は、確かに顔は明るかった。しかし、どうしてもそれよりもおなかに目が行ってしまう。

 おなかはまるで普通の人のように何もない、今は。しかし、中には赤ちゃんがいるのだろう。


「ごめんね、ほんと」


 それに気づいたらしい咲良は申し訳なさそうにする。


「謝るなって言ってんだろ」


「そうだ、謝るな」


 俺と大希は交互にそう言って、背中に手をあてた。一番咲良が背は低いので、余裕で手が届く。


「とりあえずうちに帰ろう」


 うちと言ったとてそこは咲良の一人暮らしをしている家なのだが、そこに突っ込まれることはなかった。


「……うん」


 端から見るとどう見えるのだろう、そう思いながら俺たちは咲良の行く方にそのままついて行った。




 家に着くと、しんどいにも関わらず咲良はお茶を出そうとする。俺たちは先ほど待ち時間の間に用意したお茶と軽食を指さし、大丈夫だというと少し落ち着いて座ってくれた。まあ咲良のご飯も食べてみたくもあるのだが、今はそれどころではない。


「どうだ、体調は」


「つわりとかがたまにあるくらいかな。腰が痛くなったり疲れやすくはなってるけどあとはまだ大丈夫。ありがとう」


 つわりなどの妊娠初期の悩みは女性にしかよくわからない。由利はおそらくまだ向かっている途中だろうし、お袋に相談するにはまず話をしなくてはならない。それに、下手にお袋に相談するともしかすると腹を立てたお袋が腹立ちをほかの人に話してしまって島全体に話が広まるかもしれない。


 あ、そういえばおっちゃんは話を広げたりはしないだろうか。むかしからよく話すおっちゃんだとは思っていたが、そこあたりは気を遣ってくれるだろうか。いや、もしかすると咲良の夫候補を探すとか言って話してしまっているかもしれない。


 まあ、この話はどうせいつかバレるのだが、今バレるべきではない。


「由利がまた来るから、その時は助けてもらってくれ。俺らには完全にわかるわけじゃないが、手伝ってほしいことがあったら手伝うよ」


「……ありがと」


 咲良の笑顔は儚げだ。本当は辛くて仕方ないのに、笑顔を向ける咲良を見ていてつらかった。


「早速だが、その男について教えてくれないか」


 その苦しめる原因となった男のことを思い出させるのも。


「わかった」


 そう言って咲良はスマホを取り出した。操作しつつ話を続ける。


「私、言ってなかったんだけど、実はテニスサークルに入ってて。彼はそのテニスサークルの一個年上の先輩だったの」


 胸がぞわぞわする。頭の中にいるあいつに当てはまるのだ。

 咲良はスマホで画像を探していたらしい。見せてくれた写真には男と二人で映っていた。


「名前は森川悠斗。って会ったことない二人に言ったってわからないよね」


 思わず大希と顔を見合わせる。その写真は明らかにあの時すれ違ったあいつのものだった。


「どうしたの、二人とも、もしかして知り合いとかだった?」


 明らかに表情が変わった俺たちに気づいたらしい咲良は、心配そうに俺たちを見ている。


「大丈夫だ、心配するな」


「そうだ、大したことはないさ」


 とっさにそう返したが、そんなはずはなかった。それよりも体調に障るほうがよくなかった。


「そいつの連絡先を教えてもらうか連絡することはできないか」


「う、うん」


 差し出された電話は発信中となっていて、名前が書かれていた。それを大希はスピーカーにする。

 連絡はなかなか通じないと言っていた。だからしつこくかけてやる。

 何十回かけて、何百コールかのちに電話がつながる。どうやらまだ、着信拒否にはしていなかったらしい。


『……何度も何度もしつけえな。もしかしていい加減俺の言うこと聞く気になったか?』


 そして電話に出た男はやはりあの男だ。

 しかし、大希は何も話さない。その手にはいつの間にか用意されたメモがあった。


【今日、少し会えない? 話したいことがあるの】


 そう書かれたメモは咲良に向けられている。咲良に言えということだろう。


『おい! 切るぞ!』


「……今日、少し会えない? 話したいことがあるの」


 電話が切れそうな寸前に咲良はそう言った。


『あんでだよ……お前に割く時間はないって』


「お願い。最後でいいから」


 震える咲良の目線には、大希のメモがあった。すべて、大希のメモにのっとって話をしている。

 俺にも、咲良にも、どういったわけかわからないまま話は進んでいく。


『……しゃあねえな。今日だけだぞ』


 しばらくの沈黙ののち、男はやっとそう応える。


「あり……」


 と、そこでなぜか一度黙り込んだ咲良は、驚いた顔をして、そして。


「待ってるね」


 そう、言い換えたのだった。


『……いつもの場所で一時間後でいいか?』


「うん」


 なぜ言い換えさせたのかはわからない。だが、何か意味があるに違いない。

 電話を切ったのち、大希は笑う。


「よくやった、咲良。あとは任せろ」


 そして驚いた様子の俺たちを見てさらに一言付け足す。


「あいつには感謝しなくていいんだよ、むしろ謝らせに行くんだ、咲良」


 なるほど、先ほど言い換えさせたのはそういうわけだったらしかった。先ほどのメモを見るとありがとうという文字にバツがついていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!感想お待ちしてます〜!

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