第34話 キャンパス
キャンパスはもちろんのこと待ち合わせている駅の近くにあった。
『おお~! すごい! 大きい! 綺麗!』
キャンパスに着くと、興奮した様子で仁がそう言った。確かに外装はかなり綺麗で、多くの部屋がありそうで、どんなことが学ばれているのだろうと思う。
「めっちゃ仁が喜んでるよ。すごい! 大きい! 綺麗! ってな」
なぜか主導権を奪う気配もないので、そのままを伝える。
「ならちょうどいいな。ってまあ、父さんも喜んでるのわかるけどね」
「……いいだろ別に。見たことないんだから」
なぜか大希に思考を読まれてしまう。でも、大希が笑う顔を見せてくれるだけよしとする。
「ここは、結構有名な大学でね、全国から学生が集まるんだ。学科も多くて、ここもメインキャンパスってだけで他の学科は違うキャンパスにもある。俺は用事でたまに来るが、すべては把握してないな」
大希は少しの間キャンパスを見上げ、そしてさらに足を進める。
「さあ、入ろう」
大希がお構いなく校門を通り過ぎようとするので、俺は思わず引き留める。部外者なのに、確認もされず勝手に入っていいのだろうか。
「おい、許可取らなくていいのか?」
「大丈夫だよ父さん、ここは誰もが入れる大学だぜ?」
しかし、その心配は無用らしい。警備員もあまり気にする気配はない。むしろ挨拶してくれる。
意外とガバガバなんだな、と安堵して俺は後を追って中に入る。
中はとても美しいつくりで、まるで美術館のようだった。
「ここが文系の建物、ここが理系の建物で、ここが部室棟、図書館だな」
次々と案内されるまま歩く。あちこちに感動してはいるのだが、こうやって見ているのは目的が違うような気もしなくはない。
「おい、大希、これは大学見学か?」
そう問いかけると、大希は苦笑いする。
「違うよ、それをするならオープンキャンパスの日にまた来ればいい」
おーぷんきゃんぱすというのがよく分からないが、とりあえず大学見学に来たわけではないらしい。ではなぜ来たのか。
「俺たちは今から聞き込みをするんだよ。ここにはこの大学に詳しい人がいっぱいいるからね」
そう大希はドヤ顔をして見せる。
「だが……みんな授業ではないのか?」
咲良は今日授業だと言っていた。
「この時間にある人とない人がいるのが大学だよ」
そうは答えるも、周りにはやはりそれほど人はいない。
「あ、ここに人が」
とそう言ったのはランチスペースだ。何人かが食事を取ったりのんびりしている。
「あの、すいません」
と早速大希が話しかけたのは男グループだ。声に応じて振り返ってくれる。
「テニスサークルってご存知ですか?入りたいと思ってるんですけど、教えてくださいますか?」
大希はどこかで作っていたらしいストーリーを口にする。
「ああ……知ってっけど……かなり今更だな。ってか年上さん?弟君が入る感じかな?」
話しかけた彼らは、バスケットボール部の先輩だったようだ。
「あのサークルはかなり出会い系のサークルだぜ? どちらにしても今から入るんじゃ出遅れちゃってるんじゃねえか?」
「……そうなんですか」
「ああ……ってか、知らなかったのかよ」
とそこで、大希はこちらを振り返る。
「だって」
あくまで仁が入るか迷うスタイルに変えたらしい。
「そうなんだ……ありがとうございます」
とりあえずあくまでその体でそう返しておいた。
「いいってことよ……でもまあ、あんたはなかなか多くの女を仕留めそうな顔してんな。うちでも考えてみてよ。これ、バスケットボールサークルのパンフレットな。今更と思わず全然気軽に見学に来て、待ってるわ」
「……ありがとうございます」
とりあえず礼を言って去ることにした。ややこしくなりそうだったからだ。
「……聞いてる限り、サークルがほぼ間違いないって感じだな……」
「学部については聞かなくていいの?」
「まあ、どっちでもいいけど」
とそこに、横を通りすがった男子グループがまた一つ。
「いやあ、あの子はまた簡単にころっといっちまってよ。テニサー最強だな」
思わずその言葉に振り返ってしまう。これは、まさかテニスサークルに所属している本人ではないか。
「お前、すげえな」
「俺にかかれば余裕よ」
顔は確かに整っているだろう。そして年齢層としても咲良の一つ上かそのあたりだろうな。
「いいなあ、就活ももう問題なしだろ?遊び放題じゃん」
「そうなんだよなあ……」
「そういやあれ、大丈夫なのか?今日もあったけど」
「あの話はやめてくれよ、正直うざったいんだ」
もしこいつらだったら、もしこいつらだったら……。
頭にそいつの顔を刷り込む。
「あいつら、怪しかったな」
通りすがったのを見送った後に大希がそう小さくつぶやく。
「ああ」
テニスサークルだからだけでなく、遊び男であり、そして、うざったく感じてる話がもし咲良についてなら……。
「許せねえ」
先ほどまで忘れていた感情を思い出す。許せない、許せない。
「……とりあえず駅に向かうからさ、その顔は抑えてくれよな」
そんなふうに言われる顔をしていたらしい。俺は顔をマッサージして、きわめて笑顔でいるようにした。口角を上げる。
「その顔も地味に怖いけど……いっか。そろそろ待ち合わせ時間だ」
咲良とは12時に約束していた。集合場所は指定された駅だ。今は11時半。
俺たちはキャンパスを出た。




