第33話 上陸
「もうすぐ着くぞ」
ちょっとうとうとしている間に、船は大阪に着いたようだった。俺は寝ぼけた目をゆっくりと開け、身体を立ち上がらせる。
「おーい!」
船をつけると、そこにはなぜかもう大希が着いて、手を振っていた。
「連絡しておいたさ。お前さんが安心して寝ている間に」
俺は苦笑いする。船に乗る前と比べ気持ちも落ち着いてきて、寝てしまっていたのだ。おっちゃんにはかなわない。
「大希君、お前の父さんと弟をちゃんと案内してやれよ」
その言葉に少し驚いた様子の大希はしかし頷いた。
「任せて、おっちゃん!またおっちゃんも案内してやるよ!」
「頼むぜ」
おっちゃんはそう言って帰っていった。出るときは夜だったが、朝はもうすでに更け始めていた。
とりあえず咲良に連絡を取ってから連れられるまま開店直後のカフェに入り、大希に急かされるまま席に着いた。待ち合わせは咲良の大学が終わってからなので、少しまだ時間はあった。
「事情を教えてくれ」
席に着いた大希は開口一番そう言った。メニューは無難なモーニングメニューを着席早々大希に頼まれてしまった。俺は目新しいものに目移りしそうになりながらもここは真剣にならなくてはと話し始める。
「……なるほどな」
大希はコーヒーをすすりながら、そう一言呟いた。そして目頭を押さえて、さらにぼやく。
「許せねえ」
「だろ」
俺は同じくコーヒーを飲みながら同調する。今はおっちゃんのおかげでだいぶ落ち着いているが、許せない気持ちが収まったわけではない。きっと本人を目にすればまた爆発するだろう。
「なあ、父さんはどうするつもりなんだ」
「とりあえずそいつに会ってからじゃなきゃ話は始まんねえ」
「だろうな。そのあたり母さんが来るまでどうにかしないとな」
そう、由利が来るまでにどうにか父親としてのことをやってしまわなければならない。しかしとりあえず二人してサンドイッチにがっつく。空腹では戦はできない。
「でも、何か行動に移す前に多少考えなきゃいけないこともあるだろうぜ」
「その男についての調査とかか?」
「それもあるな。あと、どうやって相手に復讐するかとかな」
こんなことを話していても誰も気にしないのが都市部か。間違いなく島ではそんな風にはならない。と、今はそれどころではないのに考えてしまった。
「しかし、どうやって調査や復讐をやるってんだ。男の名前を知らなきゃどうにもならないだろうが……咲良に聞いたほうが早いか?」
俺はふと思った疑問を口にする。
「そうだな。でも俺らでも調べてみるのも悪くないとは思うんだ」
「確かこの近くの桜陽大学の教育学部だったな…それ以上は知らないが…聞きまわりか?」
考えようとすると、突然主導権を握られる。
「ネットで調べればいいじゃん」
そう言うと仁はスマホを取り出した。そしてささっと検索していく。触れている感覚はあるが、俺が操作しようとしているわけではないので、目の前で画面が操作されているのは見ていて不思議な感覚だ。まるで自動操縦のようだ。
「あった」
出したのはSNSだ。大量の桜陽大学の生徒のアカウントが出てきた。
「さすが最強コンビだけあって話が早いな」
大希はあきれているのかなんなのかわからない顔をしながらも、それをともに見る。
「実は、俺も何度かそこの別キャンパスには行ったことあるんだ。というかこの近くだがな」
「近くなのか!?」
俺は思わず主導権を奪い立ち上がってしまう。そんなこと聞いていない。
「まあまあ、とりあえず腹ごしらえをしてから行こうぜ」
大希にそう言われ再度着席しなおす。
「この学校は残念なことに、他の大学とも交流がされてるんだ」
「となると、大学に縛ると意味ないな……人数も多いし……」
「いや、あながち間違えちゃいないな」
と、今度は大希がスマホを出す。画面を操作しているのを今度は俺たちが見る番になる。
「春から桜陽、これである程度のサークルが洗える。あとは、そこにさくらって名前を付けくわえると」
魔法のようにそれは出てきた。
「咲良の写真付きの、サークル紹介が出てくるんだ」
それは大学のテニスサークルのアカウントだった。
「ここから、ある程度絞れるのか?」
「かもな」
大希は頷き、さらに画面を操作すると、一つ写真を出した。
「これが集合写真だ」
そこには多くの男子、女子がいた。咲良は女子に囲まれ、ぎこちなく笑っている。
「ここから絞るのか?」
多くの男子から絞る、それはとても難題な気がした。
「だから、絞れるわけではないんだよ。前調べってとこよ」
「そうか」
少しもどかしい。がしかし、自分たちではここまでしかできない。
「あとは、どうやって復讐するかだが……こればかりはなかなかな……」
「そうなんだよな……」
昔なら殴るだけでよかった。まあこの力をこの身体が持っているかは置いといて、だが。しかし今はへたに殴るなどすると犯罪になるという。
「まあ、このあたりは調べた候補から考えるしかないか」
そう言うと今度は大希が立ちあがった。皿はすでに空になっていた。
「さあ、そろそろ時間だ。学校を見たら咲良に会いに行こうよ」
「そうだな」
俺はコーヒーを飲みほした。




