第31話 咲良のために
どうしようか……。
俺は頭が真っ白になって、何も考えられなくなった。
ニンシンシテシマッタ?学生だろ?これから就活が控えてる……んだよな?そこ辺りどうするんだろうか。
……そして、父親は認知しているのだろうか。結構そこは大事だ。しかし、何となくだが、そこについても嫌な予感がしていた。
「父親は認知しているのか?」
恐る恐る尋ねる。
『認知してなくて……俺は育てないって、家庭を持つ気はないって言い張ってるの。あれ以来連絡も取れなくて……たまたま会ったら嘲笑われて……おろせって言うの。私、嫌だよ。赤ちゃんを殺したくない』
その言葉を聞いた途端怒りがこみ上げてくる。
許せなかった。娘がそういうことになっていることが。
「待ってろ、母さんとそっちに行ってやるから」
今すぐ行かなくては。そう身体が動いていた。
『僕もそう思う』
今主導権を握れていない仁がそう言った時、無我夢中になっていた自分にはっと気づく。
『学校や勉強は大丈夫なのか……?』
受験などに響きやしないだろうか。行ってやりたいとたとえ俺が思ったとて仁の身体なしでは動けやしないし、仁には仁本位の人生を歩んで欲しいし……。
『何言ってんだよ父さん! 僕だって落ち着いてられないんだ! 姉さんの危機なのに、姉さんは一人で、危機を知らせてくれてるのに、助けを求めてるのに、僕が動かずにしてどうするんだよ!?』
仁は優しい子だ。昔からずっと変わっていない。
『それにさ、色々が終わったら向こうを見て回ろうかと思うんだ。それは勉強になるだろ?』
そして、説得力がすごい。
『とにかく急ごう、父さん。時は金なり、と言うだろ?』
身支度を済ませている俺たちは、いつでも出る準備ができている。由利は今、用事があってすぐに動けないだろうが由利に話さねば、そう思い電話を切ろうとした。
『やめて! お母さんにはまだ言わないで!』
しかし、咲良はそう叫ぶ。
『……そうなるかもしれないから、私はお父さん、そして仁だけにしか言ってないの。言ったのは今日が初めてで。お兄ちゃんにも言ってないの』
「なぜ言わないんだ! そんな大変なことになっているのに!」
俺も思わず叫び返してしまう。なぜだ、なぜ言わない!
『大変なことになってるからこそ、言いたくなかったんだよ。仁がこの電話をかけてこなかったら、言うつもりもなかった。だって、お母さんたちに迷惑がかかるじゃない……』
咲良は、ずっと自分が迷惑をかけることを悪としている。なぜだ。なぜ、そんなことを言うんだ。
「結局わかることだ、隠さなくたっていいだろ。あと、迷惑なんて言葉、絶対に言うな! 迷惑なんて思わないんだから! 俺たち家族だろ! 母さんはそういうの一番怒るんだぞ!」
そう言うと、咲良は黙り込んでしまった。
「いいか、すぐに俺はいく。大希も、母さんも、あとはどうなるかわからないが行く。それまで、なんのアクションもとらず家にいろ。迷惑なんて思うな。迷惑なんかじゃないんだ。お前は俺の子どもなんだ。甘えろ」
俺は感情をできるだけ抑え、静かに言った。本当は怒りがこみあげて仕方ない。仕方ないけど向ける相手は咲良じゃない。
『お父さん……ありがとう……ごめんなさい』
「ありがとうだけ受け取っておくよ。ごめんなんて謝る言葉はいらないからな」
『うん……』
そう言って俺は電話を切った。そして、船を待つべく船着き場に向かった。
「母さん、僕、姉さんのところに行ってくる。母さんも後でいいから来てくれないかな」
船着き場で、船を待つ間、俺はまず由利に電話を掛けた。
『どうしたの、何かあったの』
「姉さんが妊娠したんだ。それで、父親が認知しないってさ」
俺は極めて冷静に返す。俺が冷静でないと、由利が慌てることを知っていたから。
『……わかった。もう仁くんは準備できてるのよね』
「もう船着き場で、あと少しで来る船に乗るよ」
この船にはもう由利は間に合わない。あえてそうしたまでもある。なぜなら、父親として野郎には言っておきたいことがあったからだ。
「大希兄ちゃんにも電話しておくから、ゆっくり来て。急がないからさ」
『……わかった。仁くんも気を付けるのよ。大希は向こうに住んでるはずだから電話すれば迎えに来てくれるわ。私は友達に迎えに来てもらうから、お構いなく大希に頼んでちょうだい。咲良は家にいさせて』
確かに向かう先はほぼ知らない場所だ。そこに大希がいることはちょっとした安心になる。
「わかった」
『頼んだわよ』
由利の電話を切ってすぐ、大希にかける。
『もしもし、どうした』
何か感じたらしく、大希は出るのがいつもより早かった。慎二と仁、どちらで話せばいいか、答えは明確だった。
「大希、今すぐ出れるか? 咲良がピンチだ。事情はあとで後でちゃんと話すが、今から俺も向かうからどうにか助けてほしい。港に来てくれ」
そう言うと、多少慌てた様子もあったが、ああ、と答える声が聞こえた。
簡単に事情や待ち合わせ場所を話し、電話を切ると、目の前に船が来た。まだ船が着くまでは時間があるはずだが……と思ってみると、そこに乗っているのは生前からいつも世話になっていたおっちゃんだった。
「おい。船、待ってんだろ。散歩ついでに乗せてやるよ」
にかっと笑ったその顔が、神に見えた。
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