第30話 静かなる爆弾
部屋に戻ると、先ほどのメールに返信すべく仁は携帯を取り出す。
そして迷うことなく、彼はこう打ち込んだ。
『島を出て、大学に行くことにしたよ。家族みんなが応援してくれてさ。島のためにも、島の外を見てくるよ』
すぐに返信は来た。よかった、お前は進学すべきだと思っていたなどと書いてあった。さすが友人というべきか、仁のことをよく知っていたらしい。ちなみにこの友人は、幼馴染とも言える、小学一年生の頃から仲がいいあの子である。
『よかったな、方向が決まって』
『うん』
俺には見えないけど、仁は笑っているだろう。なんとなくわかる。
『じゃあ早速調べてみようか』
そして仁は一歩進むべくパソコンで調べようとするが……。
『何と調べよう……』
どう調べたらいいのかわからないまま、茫然としてしまっていた。
『学部が分かれば一発だろうな』
そう言ってはみたものの、俺とて分からない。
『経済とか、そういう感じかな……?』
『医療で支えるという手もあるぞ。直美みたいに』
『なるほど……でもさすがにいきなり医療系は難しいでしょ』
『確かにな……』
こうして知らないもの同士ああだこうだと話していたが、結論として。
『咲良や大希っていう大学に行ってる先輩がいるんだから、奴らに聞けば一発ではないか?』
と出た。完全に人任せな考えだった。がしかし、あながち悪くない考えなのかもしれない。
『じゃあ電話する?』
『しようか』
ということでまず、大希にかけてみることにした。多忙なはずの大希は意外にもすぐに出た。
『え?大学は海の生物についての研究だよ。父さんが勧めてくれた通りめっちゃ面白くて楽しいよ。だってさ、海にはまだ名前のついてない生物だっているんだぜ?』
大希は熱弁を振るってくれた。あの頃大学に白い目を向けていたのが嘘のようで、なんだか親としては安心する。一方、仁の反応は特別興味を持ったわけではなさそうだった。
『それだと島で活かせるのかわからないし、僕には兄ちゃんほどの熱意がないから厳しいかな……』
仁は電話を切った後、そう言った。
むしろ海に何の生物がいるとか、そういうのを専門的に展示したりするとちょっとした観光スペースになって、わかりやすく島のためになるのではないか。頭の片隅では、海の生物を展示してちょっとした観光スペースにする構想が浮かんでいた。
仁はそれに気づいたようだが、あまり態度を変えなかった。
『それは兄ちゃんがすでに研究しているからいいよ』
確かに大希がそう言ってたこともあったかもしれない。そうきっぱり言い捨てられると、何と答えたらいいのか分からなくなった。
次にかけたのは咲良である。親としてあんまりよくないことだが、俺は咲良が大学で何をしているのか知らない。
咲良はどういうわけか大学に行くことをすぐに決め、学部なども迷うことはあまりなかったようだ。大希のように会議になることはなかったし、それほど口にすることもなかったので、結局どこに行ったのか知るちょうどいい機会だと思ったのだった。我ながら最悪な親である。
『私はとりあえず文系ってことで大学の学部を受けて、受かった学部にいるよ。えっと、文学部かな。勉強内容も面白いし、入ってよかったかなって思ってる』
咲良はそれに引き換え、控えめな回答である。それが逆に気になったらしい仁は興味を持ち、さらに質問を重ねる。
「どうやって学部を絞ったの?」
『学びたいこともあるけど、雰囲気とかは大事かな。結構大学は学部によって雰囲気が変わるから』
なかなか興味深い話だ。
「姉さんの学部はどんな感じ?」
『えっとね、明るくて話しやすい人が多いかな。いっぱい話しかけてくれて、友達もいっぱいできたよ。それで……』
と、そこで、咲良は黙り込んでしまう。
「どうしたの、姉さん。調子悪いの?」
すかさず仁はそう聞いた。咲良の性格をわかってのことだ。咲良はあんまり体の不調などを昔から言わなかった。
『……ありがとう、仁。実は最近、ちょっとしんどくて、学校を休んでるんだ……』
とそこで、咲良からかなりの爆弾発言が聞こえた。
「学校を休んでるの?」
知らなかった。何も知らせがない分、てっきり咲良は元気にやってるとばかり思っていたが……。ちゃんとご飯など食べれているのだろうか。
「どうしんどいの?」
そうさらに仁が尋ねると、しばらく咲良は黙った。
「ねえ、姉さん、大丈夫?」
沈黙が怖かった。もしとんでもない大病だったらどうしようか。若いころからがんになることだってあるし、一人暮らしではなかなか気づかないような病気にかかっていることもある。
『…大丈夫、落ち着いたから。気にしないで』
しかししばらくしてそういう答えが返ってきた。とりあえずのところは安堵したが、病名や症状などは言わない。隠されたような気がして、俺は仁から主導権を奪い話しかける。
「なあ、咲良、何の病気で休んでんだ? 心の病か? なんだ? はっきり言え! どんなことでも怒らないから! 隠されると心配なんだよ!」
最後は叫びになった。それほど心配なのだが、咲良には伝わるだろうか。本人にとってどうでもよいと思っていても、家族がどれだけ心配するのか。
咲良はしばらく黙った。がしかし、決意を決めたかのようにこう言った。
『ごめんね、お父さん……実は私、妊娠してるの。さっきのは、つわりで……だから……大きな病気とかでは……なくて』
その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になって、周りの音が聞こえなくなった。
信じられなかった。
学生であるはずの娘が、咲良が、妊娠したなんて。
「その話は、本当か……?」
こういうところで嘘をつかないタイプだとわかっていても、どうしても聞いてしまう。
真実だと、信じたくなくて。
『うん……ほんとだよ』
しかし、小さな声がそれを、否定した。
どこかで雷が鳴ったかのような、衝撃が走った。
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