第23話 昔噺
昔、三歳の頃に初めて出会い、一目惚れの恋をした俺は、由利のそばから離れることなく、ずっとそばにいた。
由利がいつから俺のことを好きだったかは知らないが、ずっと一緒にいる俺を仲のいい友達程度には認識していたように思う。
どんな時も二人は一緒だった。時々起こるハプニングのたびに、守るような芸当をしたのは自分がそうしたかったから。由利を傷つけたくない、そんな思いでいたからだと思う。
もちろんありがとうなんていわれた時には、照れくさくなって素直になれなかった。その笑顔さえも眩しくて、素直に見ることができなかったから。
その分、素直に受け取れる仁がうらやましかったというのはあとから思ったことだ。今となっては取り返しもつかないが。
そして、小学校になったころに智と俺が仲良くなり、その関係で由利とも親しくなった。
思えば智は、仁と似ているのかもしれない。
人の幸せを喜べて、臆病なほど優しくて、やはり仁は智の子どもなんだって思う。
智と俺で由利を取り囲んで、仲良く遊んだ。
馬鹿みたいに遊んで、ふざけた。
一緒にいられるだけで楽しかった。
そういえば仁は緋夏に対して憧れてた、って感じだったかな。嬉々としてついていく犬のような。
そして、訪れた思春期。
馬鹿みたいに遊んでいた俺たちも、周りを気にしはじめる。
ただ、コンビのように認識されていたこともあって、つかず離れずな関係を築いていた。からかわれることがなかったのは、三人だったからかもしれない。
そこからかな、仁が気になるのは。
相変わらず腐れ縁のようにつかず離れずな関係を築いてきた俺たちは、恋愛感情を自覚し始めていた。特に、自覚しはじめた智は顕著だった。
普段は感情を覆い隠していることが多い智だが、由利のことになると少しばかり感情を出すようになって、当時の俺もだんだん気づき始めた。
そこからだった、俺が智にぎこちなくなって、あまり変化がなかった俺たちの関係が変化し始めたのだ。
由利がそれを実感していたかは知らない。相変わらず変化していなかった。
智が思い切って告白するまでは。
そうだ、仁は智とよく似ているから、智が告白するまでに至った状況を話しておこう、あくまでも俺目線の話だが。
智が告白したのは、俺にとって突然のことではあった、少しばかり相談はあったものの、それは直前の後押しに過ぎなかった。その時には、気持ちは固まっていたのだから。
「僕、由利のことが好きなんだ。だから告白しようと思う」
智は俺の恋愛感情には気づいてなかっただろう。いや、気づいていたはずがない。
気づいていたなら多分、告白することをためらっただろう、そしておそらく、ばらすこともなかっただろう。
俺を数少ない信頼できる友として、相談しただけのように思う。
だけど俺はまるで、『こころ』の『先生』になったような気分だったよ。
え?読んだことがない?ああそうか、あの本、高校になったら国語で使うだろうな。俺は…図書館で読んだことがあってね、授業でやるより先に読んだんだ。
まあ、それは置いといて、先にやられたな、って思った。これじゃあ俺も由利のことが好きだなんて言えないじゃないか。
俺は微妙な反応をしながらもその姿を見送ったよ。負けても仕方ない、唯一のライバルと呼べる相手に先を越されたんだから。
先に告白しようか迷ったよ、だけどそれより先に智は由利に告白したようだった。
その日は中学三年の修学旅行、旅の空で余計に決意が固まったんだろう。
結果は…言わなくてもわかるだろうが、由利は断ったんだ。
よほどショックだっただろうな、智の感情はいつも以上に空虚だったよ。
ありのままの感情をぶつけられてきた俺だからわかる、あの時は本気でそのまま自殺するんじゃないかと思ったぐらいだよ。『こころ』の『K』とはまた違うけどね。
まあ、俺が止めることもなく今に至るよ。あいつは強かった。
止めなかったのは自殺してほしいと思ったからではないよ、もちろん。それよりも俺は智がダメなら……ってやる気づいていたんだ。
もちろん表向きは慰めたさ、智は俺の気持ちを知らないから。内心は全然かわいそうだとか思ってなかったよ、冷たい奴だろう?
それでも自殺のじの文字が出る前に智は復活した、それ以上の闇を抱えていたから、それくらい大丈夫だったんだろうな。
由利が……母さんが少し振ったことで落ち込んでいただろうから、少し間をあけて告白した。修学旅行から帰って、少し経ったぐらいに。
そしたらまあ、うまくいってしまったんだよ。
ここでうまくいかなかったなら、智とは何もかも忘れて、同志みたいに笑いあえただろうな。ライバルだったってことも知らずに、今まで通り。
皮肉なことにうまくいってしまったもんだからなあ、当初は困ったよ、嬉しかったけどさ。バレたらどうなるだろうかってな、どうせばれるんだろうけど。
そしてそれを考えている間、つまり付き合ってすぐ、あいつにはバレてしまったよ。困ったような顔をしたあいつに。
なんで言ってくれなかったんだよ、お前。
よかったじゃねえか。
ってな。
少し前に相談してたやつと、密かに対決してたやつと、同じには思えなかった。
まあ本心は凄い辛いだろうな、信じてたやつからごまかされてたんだから。
だけどあいつは本当に強い、それからもずっと応援してくれたよ。
……って、付き合うまでの話は終わっちまったな。
これが俺の包み隠すことのない、母さんと付き合うまでの話だ。
母さん以外の彼女?いるわけないじゃないか。
だから全然参考にならないだろうな、すまんな。




