第21話 子どもから大人へ
あることをきっかけに、由利以外のほとんどの家族に知られてしまった俺の正体。
それによってがらっと生活も変わったし、作り物の関係から本当の家族になれた気がする。
少し抵抗があったけど、みんなの協力もあって、ベストな関係が続いている。
『よかったね、父ちゃん』
仁もなんやかんや協力してくれているのだ。ありがたい。
『すまんな、俺、何もできてない』
助けてもらってばかりで、面目が立たない。
『そんなことないよ。いつも色々教えてくれてるじゃん』
『ま、まあな』
そういえばそうだった。仁にはまだ早いような知識も叩き込んでいる。そのおかげで仁は天才児といわれている。そのくせこの通り性格もいいから、そのうちモテるんじゃないかって思っている。親バカかな?とも思うが。ほんとにいい子だ。
『……そういえばお前、好きな子はいないのか?』
ついつい思っていたことを言ってしまった。心の中で、だが。
わざわざ聞かなくても心のうちは多分覗けるのだが、最近は覗かないようにしている。
『……』
こんな風にして内緒にしたいこともあるだろうから。
『ま、いいけど。無理せず付き合ったりすればいいんだぞ。この体はお前のもんなんだからな』
まだ早かったかはわからない。
『……うん』
それでも、一人は頭の中に思い浮かんでるんじゃないかと思った。
いままで見てきて思ったことだが。
『そ、それより母ちゃんに何を書いてるの?』
わざとらしく仁が話を逸らす。やっぱりさっきの話題は避けたいことだったのか。
なぜかは知らないが。
『返事だよ、今まで一杯メールもらってたし、どんどん来るから話題があるんだ』
『母ちゃん嬉しそうだったもんね』
『ああ……』
初めて送った日の夜は、ずっと由利のテンションが高くて、智に恨み言を言われたりした。智だってそうなることを予想していたと思うが、予想以上の反応だったからだろう。
由利は俺を一つも恨んでいない。こうして生存、と言っていいのかわからない状況を明かしたのちも事情を追い詰めず素直に現状を喜んでくれている。もしかしたら再会できる可能性を見出したのかもしれない。もしそうならば、もう俺の姿で会えないことを知ったらどう思うのだろう。どうなるのだろう。
こうして関係者の中で唯一真実を知らないのが由利のみになってしまった。
傷つけたくない、その一心であっても、たまにつかねばならない嘘には罪悪感を感じている。
大希のように、正体を知ったら接し方を考えつつも喜んでくれるのかもしれない。
そういう考えもあるが、どうしても由利はそう簡単にいかない気がする。
それに、大希のは事故であり、わざとではない。大希のように事故で発覚しない限り話さない方が賢明だろう。
墓場まで持っていく覚悟は、昔から持っていた。
小五くらいになると、男子と女子の間に距離ができてくる。
それは緋夏との話でも同じだ。
仁は周りを見ながら少しずつ、大人びてきた緋夏とのかかわりを考え出したようだ。
前みたいに小心者でほめてもらおうと尻尾を振っている犬ではなくなってきていた。
そして、それを寂しがっている緋夏の姿があったことは仁には内緒だ。
この変化を見たうえで、今までいろいろと口うるさく言ってきた俺も、最近は下手に口を挟まないようにしている。これも一個の成長の方法だと、見守ることにしたのだ。
思考も、見ないようにしていた。
そして仁も、あまり話さなくなった。
仁は成長して、モテるようになってきたようだった。
それは中学に入ってから、小学校時代の仁を知らない女子たちを中心に広がっていったようだ。
誰譲りなのか整った顔立ち、静かに本を読んでいる秀才。運動はほどほどといったところだったが、秀才と整った顔立ちがそれを補っていたようだった。
仁は近づいてきた女の子たちには大して興味を抱かず、だがないがしろにするわけにもいかないのか対応に困っているようだった。
俺だったら、スルーするのだが、と思う。
なぜなら俺には好きな女の子以外と話したいと思ったことがないから。
冷たい人間だと、嘲笑ってくれていい。それほどに、周りの女子に興味がわかなかったのだ。
それで過去、告白されることはあっても頻繁に話しかけられることは少なかった。
そしてもちろん告白も断ってきた。
もしこれで由利が俺を好きじゃなかったら一生結婚なんてしてなかったかもしれない。それほどに俺は好きだった。
仁はどうなのだろう、優しい息子なら、どうするのだろう。
仁の意中の相手は誰だかわかっている。そしてもしかすると相手の気持ちも…。
仁でさえも複雑な心情になるこの時期、悩むのはみんなそうだった。
いつも一人でいた一人の女子生徒が学校に来なくなった。
多くの男子にからかわれていた一人の男子生徒が退学した。
誰かと付き合っていたはずの一人の女子生徒が休学した。
女子に人気の一人の男子生徒が誰かに刺されて死亡した。
何かに悩んでいたらしき一人の女子生徒が自殺した。
それらの事件について一部で犯人捜しが行われたり、魔女狩りのような糾弾が行われていた。
仁はそれには深く関わらずにいた、というより関わることを拒んでいた。
人を傷つけるくらいなら、関わりたいと思わない。
女子たちと少しばかり距離を離しはじめたのはこの頃からだった。
緋夏も仁と同じ一人だった。ただ、仁と違ってそのようなことに興味を抱いていないかのような様子だ。それだけ大人びていたのかもしれない。
皮肉なことに、それらの出来事を経て、彼らは高校生になっていく。
大人になっていくのだった。
仁が何を思っているか、俺はわからない。
だが確かに、仁も成長しはじめていた。




