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SaLt  作者: 蒼海 游
浦島太郎
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第19話 守ってきたもの

 また智と二人きりとなった。させられたのか、なったのか分からない。しかし智は先ほどと違い、黙り込んでいた。

 訳もなく緊張している。いつもの調子じゃない智が目の前にいるからだろうか。いつも通りへらへら笑っていれば良かったのに。

 まあ仕方もない。俺は、智が今まで俺に対してもかぶってきた仮面を脱がせてしまったのだから。どれだけその中で苦しんでいるとも知らずに。


「黙って、静かに聞いてくれ」


 特に何も言わない智に一応、俺はそう前置きしてから、一つ深呼吸して、少し心を落ち着かせて話し始めた。


「お前が悪いのは、口止めしなかったことじゃない。昔のように、黙ったままだったからだ」


「だって、お前……」


 また泣きそうな顔をしている。

 そんな顔をするなよ、と俺は思った。

 俺の正体を暴く覚悟はあったのに、俺を大希や咲良の父親として復活させたというのに。


 なんでお前は一歩も進まずに突っ立ってんだよ。


 今回の話とは関係ないことだって思ってるのかよ。

 腹が立ってきて、どんどん不満が噴き出していく。


「だから、静かに聞けって」


 いらだち紛れにそう言うと、智は黙った。少しふくれっ面で。なんでそんなに子どものような表情をするんだ。女のそれは可愛いが、大の男がやったところでただ腹が立つのみだ。しかしその顔に怒って感情を高ぶらせていてはまた話がヒートアップする。少し落ち着かせてから話を続ける。


「お前、いつまで()()()やるつもりなんだよ」


「ピエロ?」


 一転、なんだそれは、というふうに首を傾げる。そういえば智本人には言ったことはなかった。


「そうだ。昔からうまい具合にほんとの気持ち隠して明るくふるまって、自分を犠牲にして……楽しいか?」


「そんな……だから、それは……」


「周りに気を使わせたくないから、だろ」


 気が付いたらお互い普通に話してしまっている。まあいい。このほうが話しやすい。


「じゃあ聞くぞ。お前にとって俺は、そんなに気をつかわないといけない人間なのか?」


 智は黙ったまま答えない。答えに窮しているのだろうか。

 それとも、答えに気づいてくれたのだろうか。


「俺は大希にとって、咲良にとって生んだ父親という、本来の役割として直接接することができた。それは、今回得られたもので、変わったものだ。だけどお前とはこの仁との関係に俺が加わっただけで、()()として、何も変わってないように感じるんだ。俺はお前にとって、ずっと友達でしかないのか?少し秘密を抱えた、程よい距離でいる友達でしかないのか?」


「……」


 智は黙り込む。


「そんなの、俺は嫌だよ。俺だってお前の家族だろうが。頼ってくれよ。一人で苦しむなよ」


「お前と俺も……家族……なのか?」


「そうだ。一般的にはそうじゃないかもだけど、俺らは特殊だろ?()()()()()死んでいるんだから」


 そう、俺たちは家族だ。特殊だから、この関係に名前はつけられないけれど。

 少しオーバーリアクションでおどけて見せると、智はふっと笑った。


「…そうだな。たしかにそうだ」


 その笑みは、今まで見たことのないもので。

 本当に心から笑う顔が、今まで見てきたものとこんなに違うとは思いもしなかった。


「そう考えたら学生時代の話も、申し訳ないな。そんな風に迷惑かけてたなんて思ってなくて、自分のことばかり……」


「昔の話は問題ないっての。今の話をしてんだ。それとも昔からそうやって心配されたかったか?」


「いや……それは……」


「だろ」


 色々と勘違いしている。それをよしとするのは俺も勘弁してほしい。さすがにその時から面倒見きれない。そもそもその時こうなるなんて思いもしなかっただろう。

 本来なら、俺たちの人生はこうして交わることなんてなかったのだから。


「……にしても、そんなこと思われてたなんて心外だな。告白みたいだ」


「なんだよそれ」


 言われてみれば確かに告白に近かったかもしれないと思った。が、しかしこれは大事なことだ。そう自分に言い聞かせる。だから恥ずかしがることなどないと。

 そういわないと俺は後悔しそうだったから。


「さっきの話だけど……今は大丈夫なのか?」


「今は大丈夫だ。ありがとう」


「他に困ったことは?」


「あったけど……今こうしてお前がいてくれるから、大丈夫だ」


「そうか」


 結局のところ最近の智を苦しめていた原因の大半は俺だったのだ。こうして俺が現れたことでそれはだいぶなくなったのだろう。


「それより、由利のメールに返信してやってくれよ。お前はまだ、由利の中にも生きてんだよ」


「…そうだな」


 果たして本当にそうなのかは由利しか知らない。それでもこうやってメールが来るのだ。その話を信じておこう。


「なんて書こうか」


 そう呟いたら、智がにやにやしながらこっちを見てくる。


「ったく、にやにやしやがって。嬉しさが溢れすぎだぞ」


「うっせえ」


 にやにやしてるのはお前もだろ、と思いながら俺は文章をゆっくりと打ち始めた。






 由利は一人リビングでゆっくりしていた。

 何を話してるんだか、さっきから部屋を行き来する音とか、騒いでる声がする。

 大希は何でもないから気にするな、とは言うが……。


「なんで私だけ仲間外れなのかな……」

 もしかして私へのサプライズだとかそんな感じなのかな。なんてね。ちょっと嫌なことを思い出したけど、家族のことは信じるって決めたから。

 由利はそんなことを思いながら携帯を取り出して、メールの文章を打ち始めた。


「慎二に言いつけちゃおっと」


 返事はずっと来なくて、自己満足かもしれない。もう慎二は返してくれないかもしれないし、読んでくれないかもしれない。そんなこと考えたくもないけど……由利はメールに文字を並べていく。


「よし、できた」


 メールを送信し終えた携帯をしまって、いつも通り家事に戻る。



 鳴るはずのない着信音によって、それは邪魔されてしまったけれど。


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