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SaLt  作者: 蒼海 游
浦島太郎
17/52

第16話 父と子③

娘ターンです。

 目の前に咲良が座っている。いや、別に側から見たら珍しい光景でもないのだが、今までにない状況がそこに生まれている。


「……お父さん、なんだよね?」


「……そうだが?」


 ぎこちないどころか、話すら進まない。まるで初対面のようだ。毎日顔を合わせているのにも関わらず、だ。この瞬間父として咲良に向かい合っているのだと改めて実感する。


「…お兄ちゃんとは、どうだったの?」


 どう、とは何を指すのだろうか。


「……相談を受けただけだが?」


「何の?」


 相談という言葉に変に噛み付いてきた。

 普段何も話さない兄が何を相談したのか気になっていたのだろう。


「これからの話だ」


 進路とは言わなかった。言っても良かったのかもしれないが、何となく伏せておく。


「これから……?」


 案の定、首を傾げられた。そうなるよな、普通……と思いながらも俺からは何も話さなかった。


「お母さんにはやっぱり、言えないんだよね」


「ああ」


 何かの目的をもって隠された秘密。それを容易く話すわけにはいかない。


「お母さんね、一日に何回もメールを送ってるの。報告しなくっちゃってはしゃいで。さっき見たんだけどお父さん、今携帯持ってるんだよね。お母さんが送ったメールを見て欲しいの。それで、話せないなら、せめて何か返信して欲しいの。元気だって。どこかで生きてることにして」


 咲良の口から言われなくてもメールは見るつもりでいた。ただ、返信する勇気は持てずにいた。……だけど咲良が言うもんな、送ってやらないと。


 咲良の言葉を口実にして、携帯を開いた。スマホを起動させた。スマホというものを弄ったのは初めてだったが、電源をつけることぐらいはできる。


 その瞬間、目に映ったのは今までになく多い通知の数だった。

 よく携帯を放置していて通知がすごい数になることが日常だが、それを超越した数字がそこにあった。死んでから十五年もの年月を感じさせるような、そんな感じがした。同時にそんなに長い間、携帯の料金を払い続けた智の心中が知りたいと思った。


「……ちょ、何これ」


 覗き込んでいたらしい咲良が驚いている。


「お母さん、こんなにも……」


「……ああ」


 俺は何とも言えなかった。

 読むのには果てしなく時間がかかるだろう。そして、読み終わる頃には、玉手箱を開いた浦島太郎になってるだろうか。携帯電話という玉手箱を開いた、十五年の空白を知った浦島太郎に。

 思わず閉じてしまう。読む時間が思いやられるし、感情を爆発させるわけにもいかない。

 すると、なぜ読まないのかと不思議そうな顔をされた。


「……話はそれだけなのか?」


 他に話があるなら、それを先に聞きたいと思った。話がある中待たせるのも悪いし、読み貯めた漫画のように、俺だってゆっくり読みたい。焦らされるのは嫌だった。


「そっか、ゆっくり読みたいよね」


 納得したように頷いた咲良は、やはりまだ話があるようだった。


「お父さんに二つ、話したいことがあるの」


 そう言ってまず、一つ目の話を切り出した。


「まずは単なる感謝。手紙とかにも書いたんだけど、お父さんがいたから私が生まれてこれた。途中でいなくなっても、私にとったら大切なお父さんだからって……言いたくて」


 そして、咲良は後ろ手に隠していたらしい紙の束を渡す。見覚えのあるものから、見覚えのないものまで……父の日の手紙だった。


「一部、もしかしたら読んだのかもしれないけど渡しておくね。お母さんに見つからないように、ちゃんと隠しといて」


 咲良は悪戯っ子のような笑みを浮かべた。


「……見てたのか?」


 ふとあの瞬間を思い起こし、尋ねてみるが、きょとんとする咲良の顔を見るとどうやら違うらしい。


「……悪い、何でもない」


「そう……?」


 中途半端に聞いたからだろう、咲良が気になって仕方ない顔をしている。話してやるべきかと思ったが大した話でもないのでやめておく。


「……ありがとうな、いなくなった俺の分まで書いてくれて」


 その代わりに、ずっと言いたかった感謝を口にした。咲良は一瞬口を膨らませたものの、感謝の言葉に誇らしげな笑みを浮かべる。


「言ったでしょ、お父さんは私をこの世に生まれさせてくれた一人なんだよ。そういうとこ、もう少し誇りに思って欲しいな?」


 言い方が少し、由利に似ている気がした。さすが娘だ。

 楽しそうに笑って、俺の手を引っ張るかつての由利の姿がふっと頭をよぎった。

 初対面から俺の手は由利に引っ張られてばかりだった。思春期のあの日だけ、あの日だけは俺から引っ張ったものの、ほとんど引っ張られてばかり。


 咲良もいつか、誰かに手を引かれ、誰かの手を引っ張る時が来るのだろう。

 その相手は誰なのだろうと、ふと思った。


「それとね、……お兄ちゃんが話をしてる間、お父さんが話してくれたの。だから、伝えておきたくて」


 その声にふと我に返る。咲良は先程の笑みが嘘のように真剣な顔をしていた。


「お父さんのいなかった五年間の空白を」

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