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4話 『呪い』の正体がわかりましたけど、何か?


 リンドヴルムの監視の下、私の調査は始まった。まずは、『呪い』とやらが、どんな症状なのか、それを知らないと話にならない。


 そして、早速一人目の患者を見に行った私とリンドヴルム。まず症状がなかなか重そうなお爺ちゃんドラゴンが、最初の患者だ。


Case:1 ドラゴン(おじいちゃん)

 年齢は高齢

 体重不明

 主食は肉

 主訴:動けない


 お爺ちゃんドラゴンは身体の節々が痛み始めたのをきっかけに、ある日突然激痛が襲ってきて、それ以来動けなくなってしまったらしい。足は思いっきり赤く腫れ上がっており、見るからに痛そうだ。


「これは……」

「何かわかったのか、シャルロット?」


 思い当たる節はあった。おそらくは動けなくなった原因もこれだろう。


「リンドヴルム、聞かせてもらいたいんだけど、『呪い』にかかった他のドラゴンたちも、皆同じような症状なの?」

「ああ、程度の差はあれ、皆同じだ。ある日、身体が痛み始めたと思ったら、急に激痛が走り動けなくなる」


 リンドヴルムの話を聞く度に、私の予想が確信へと変わっていく。後は……


「もう一つ良いかしら? あなたたちドラゴンは普段、何を食べているの?」

「ほとんどは山に住む動物の肉だ。何せ、この過酷な環境では、食べられる物も限られてくる」


 肉を主食にし、他に食べられる物が限られる。そして、身体が痛む。そうなれば自ずと答えは一つに絞り込まれる。


「わかったわ、リンドヴルム、やっぱりこれは『呪い』なんかじゃない。れっきとした『病気』よ。そして、治すのに生け贄なんて必要ない」

「生け贄が必要ない? それはまことか?」


 私の言葉に、リンドヴルムは信じられないと言った様子で驚きを顔に浮かべる。だが、それは紛れもない事実なのだ。ドラゴンたちを苦しめているのは、決して『呪い』なんかじゃない。


「ええ、私の言うとおりにすれば、もう『呪い』に脅かされることもなくなるでしょう。まあ、もう手遅れなケースもあるだろうけど」

「それで? どうするというのだ、シャルロット?」


 リンドヴルムは私の顔をのぞき込むように、食いついてきた。


「簡単よ。この『呪い』の正体は、『痛風』。関節が痛む病気よ。酷くなると腎臓が上手く働かなくなって、死に至る。あなた方は、肉しか口にしていないんでしょ。ちゃんと水を飲んで、野菜や果物も沢山食べる。それだけで、良くなるわ」

「たったそれだけで? そんなはずは……」

「食事は健康の基本。栄養が偏ってしまうと、必ず身体に影響が出る。たったそれだけの事よ」


 ドラゴンの身体がどういう風になっているのかは知らないが、リンドヴルムの言うとおり、人としての姿ではなくドラゴンとしての姿が彼らの真の姿だとするならば、おそらくは爬虫類に近い生き物のはずだ。爬虫類というのは一般に窒素の排出経路として『尿酸』を生成する。その『尿酸』こそが紛れもなく『通風』の原因になる物質なのだ。


 窒素というのはいろいろなものに含まれる。化学式にすると『N』。タンパク質を構成する『アミノ基』に含まれているものであり、肉食中心となれば、どうしても摂取する窒素が多くなってしまうのだ。


 私の説明に、リンドヴルムは困った様子で、小さな声を漏らす。


「ううむ……」

「何をそんなに困っているの?」

「……水や野菜と言われても、そう簡単に手に入らない」


 まあ確かに、辺りを見渡しても、山しかないこの場所。雲が眼下に広がっているようなドラゴンの国では、水はまだしも、なかなか野菜というのは取れないのだろう。だが、私にだって一つ考えがある。


「だったら、一つあなたに提案させてもらうわ。私の生まれたアストルフィアは、農業で有名な地。そして、幸運にも私はその領主の娘。あなたがたの為に野菜や水を提供することもそう難しい話じゃない」


 私の提案に、リンドヴルムは何かを考え込むようにうつむき加減になる。


 そして。


「……うすうすは俺もわかっていた。こんな生け贄なんてもので、解決する話ではないと。生け贄にされていく女達を見て、心を痛めていた。だけど、一族のために、それを続けるしかなかった。もし、そなたが言うように、それで解決するというのなら……」


 迷っている様子のリンドヴルム。やはりこの男には話が通じそうだ。ここはもう一押し。


「いいわ、もしそれで解決しなかったら、その時は私の身好きにすれば良いじゃない。もう逃げも隠れもしない」

「……シャルロット、そなたは一体……」

「私はただのシャルロット・アストルフィアよ。かつて、動物のお医者さんだったというだけ」

「そなた、本当に変わっているな。わかった、一度そなたを信じることにしよう」

「ありがとうリンドヴルム、話のわかる男って素敵だわ」


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