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94、罠



 しばらく歩くと山道へと入ってきた。

 集落は山の中腹辺りだと言うので、そろそろ気を付けないといけない。

 いつ敵の不意打ちがあってもおかしくないのだ。


「確か敵は4匹だったな?」

「ああ、奴らのボスの翼の生えた大蛇。そいつの手下である鳥魔獣。あとは人の姿だったので分からないが二人いた」


 作戦を練っているときにモーリスから聞いていたのはこの4匹の魔獣。だけどまだ近くに他の魔獣がいた可能性も捨てきれないのだそうだ。

 というのもモーリスも必死で戦っていたのでそれどころではなかった。

 負けてチゴ村に連行されたときもボスの大蛇だけだったそうだ。

 もしかしたら集落の付近に魔獣が潜んでいてもおかしく無いという。


 山の中腹にある集落へは山道を通る。

 木々に囲まれている道は見通しが悪く、何が潜んでいてもおかしくない。

 捕まっているふりをしているとはいえ、用心するに越したことはないのだ。


 ……だがそんな心配をよそに、あっけなく集落へとたどり着くことになった。

 入口だと思われる巨大な岩と岩の間の道を抜けると家屋が見えた。

 だが集落は物音ひとつせずにシーンと静まり返っていた。


「ラキシス! ラキシスはどこだ! 勇者を捕まえてきたぞ!!!」


 モーリスが叫ぶ。

 作戦通りの演技だが……真に迫っている。

 心のどこかで、もしかしたら妹が生きているかもしれないと思っているのだ。


 すると一匹の鳥魔獣が高台と思われる巨石から飛んできて、家屋の屋根へと止まった。

 鳥魔獣は俺達二人をじっくりと数秒見た後に喋り出した。


「サイクロプス……お前はやられたのかと思ったんだが勝ったんだな」

「巨人族の最終奥義があってそれで勝ったんだ」

「ふうん」


 もちろんでっち上げた嘘だが、希少な種族であるために真意は分かるはずもない。


「女は美味そうだな……でもつまみ食いしたらケツァル様に怒られちまう」


 ──なに!?

 今コイツは『ケツァル』と言ったか!!?


 その名は忘れることはない。

 エルサリオスと共にエルフ城にいたやつだ。

 いつの間にかいなくなっていたと思ったらこんなところに来てやがったのか!


「そんなことより妹は! 妹は無事なんだろうな!!?」


 モーリスは待てないとばかりに鳥魔獣に問い詰める。

 だが、鳥魔獣の反応はクズそのものだった。


「ああ、そんなのもう食っちまったよ」

「────ッ!」


 わなわなと震えるモーリス。

 怒りで魔力が高まっていった。


「きさまあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 ハンマーを振り上げてジャンプし、鳥魔獣に襲い掛かった。

 鳥魔獣はそれをひらりと躱し、上空へと逃げる。

 ハンマーは家屋を直撃し、衝撃によって家屋はぼろぼろに崩れ落ちた。


「クケケ! 脳筋のでくの坊が! 魔法を使えない種族とかゴミでしかないんだよ!」

「くそおぉぉぉぉぉ!!!」


 すかさず空高くジャンプして鳥魔獣をとらえようとする。

 だが──


「馬鹿がっ!」


 鳥魔獣が作り出した風球ウインドボールにより、モーリスは地面へと叩きつけられた。


「ぐうぅぅ!!」


 肺がつぶれるような衝撃で息が止まり、くぐもった声が出た。

 おそらく骨の数本は折れてしまっただろう。


「クーッケッケッケ! 所詮はただの巨人族か! 我々は魔獣の中でも特に優れているエリート集団なんだ! お前みたいなクズが俺たちにかなうものか!」

「く……くそぉ」


 モーリスでは歯が立たなかった。

 だがそれは分かっていた。

 見守っていたのは妹の仇を打たせるためにやれるところまでやらせてあげたかったからだ。

 

 ……でももうそれも終わりだ。

 おそらくだがこの場にはケツァルはいないだろう。

 鳥魔獣はつまみ食いをしたら怒られると言っていた。

 つまり、後で勇者を引き渡すということだ。

 ならばさっさとケリをつけてしまうのがいいだろう。


 鳥魔獣はモーリスにトドメを刺そうと巨大な風槍ウインドランスを発動させていた。

 

「これで串刺しとなって死ねぇぇ!!!」


 風槍ウインドランスが放たれる。

 だがそれはアナスタシアの盾によってかき消された。


「お前は私たちがいることを忘れているのか? だとしたらマヌケな魔獣だ!」

「クケケケ! そんなの分かっていたさ! 前座だよ前座! それにこんな雑魚に捕まっていたやつが束になってかかってこようが俺の敵ではないからな!」

「ふっ! それはどうかな!」


 アナスタシアは盾を振りかぶり思い切りぶん投げた。

 直線状に向かっていく盾を、鳥魔獣は軽々と躱した。


「ケケッ! そんな攻撃くらうかよ!」

「では剣で勝負だ!」


 剣に力を注ぐと青白く光り出した。

 そして剣を上段に構え、


「はああぁぁぁああああ!!!」


 振り下ろすと、青白い光は鳥魔獣めがけて飛んでいく。


「おっと!」


 だが、寸前のところで避けられてしまった。

 アナスタシアは何度も何度も剣を振り、そのたびに青白い光が飛んでいくが、すべて避けられてしまう。


「はぁはぁはぁ……」

「クケケケケッ! 勇者は実力はあるのかもしれないが、頭の方はバカなんだな!!! そんなんで俺に勝てるとでも思っているのか!」

「ふっ……そうだな。その言葉をそのまま返そう……お前の鳥目は遠くしか見ることができないのか?」

「なんだと!?」


 鳥魔獣は急いで周りを見渡した。

 すると、辺り一面、青白い光の玉が宙に浮いているではないか。


「こ……これは!?」

「私が自ら作り出した聖球ホーリーボールを制御できないとでも思っていたのか?」

「く……くそおぉぉぉ!!!」


 決死の勢いでアナスタシアに襲い掛かる鳥魔獣。

 だが……時は既に遅かった。


「グアアアァァァァ!!」


 回り込むようにして待ち構えていた聖球ホーリーボールに体が触れると、全身を焼くよう激痛が走る。

 一度止まってしまった鳥魔獣になすすべはなかった。

 次々と聖球ホーリーボールが直撃して、体を覆う青白い光がどんどん膨らんでいく。

 

 まるで巨木に炎がともるかの如く、聖なる炎で鳥魔獣の体を燃え上がらせる。


「あああぁぁ!!! 体がぁぁぁ!!! からだががあああああああ!!!」


 悶絶し、ジタバタと聖なる炎を消そうと苦しむ鳥魔獣。

 

「村人の無念や苦しみをお前も味わえ!」

「あの村を襲ったのは俺じゃねえええぇぇぇ!!!」

「知るか!!! 同罪だ!!!!」


 鳥魔獣は飛ぶ機能を失い、地面に落ちる。

 翼は焼け落ち、毛は燃え上がり、皮膚がただれる。


「あああぁぁぁ…………」


 聖なる炎が消える頃には鳥魔獣の面影はどこにもなかった。

 あるのは黒くなりかろうじて息をしている物体だけ。


「懺悔は終わったか?」

「うあ…………あぁ……ころ……し……」


 アナスタシアは頷く。

 手を掲げ、それを振り下ろした。


 すると突然空中に盾が現れたかと思うと、鳥魔獣へと垂直に落下する。

 そして首が斬り落とされ戦いが終わる。





 ────と、誰もが思っていた。



 鳥魔獣の体が突然光り出したのだ。


 

 俺は嫌な予感がした。

 その光は体の中から発せられていたからだ。

 それは鳥魔獣の技でも魔法でもない。

 死んだときに発動するトラップだ!


「まずい!!! 皆っ! 遠くへ逃げろ!!!!!」

「な、なんなんだ!!」


 大声で叫ぶが、アナスタシアは戸惑っているようだ。

 俺はリーリア達が気になり上空を見上げる。

 すると異変を察知したリーリアがセレアソードを発動して防御態勢を取っていた。


 ……さすが俺の娘だ。

 これで上空の心配はなくなった。


 問題は地上だ。

 考えている暇はなかった。


 鳥魔獣から発せられる光は膨れ上がり、すでに爆発の動作に入っていた。

 



 ────俺は覚悟を決めた。



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