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89、ほのぼの道中



 翌日、ニコニコ笑顔のリーリアがいた。

 逆に俺は目の下にクマをつけ、声はしゃがれていた。


 それもそうである。

 あれからリーリアと同じベッドで横になったあと、「愛してるって一万回言って」とあの・・表情で言われてしまったのだ。

 もちろん断ることなんてできやしなかった。

 俺はひたすら言い続けた、「リーリア愛してる」と……。


 リーリアの寝息が聞こえてきたので、俺も寝ようと思って言うのを止めたとたん、くるりと俺の方を向き、「聞こえない」と一言つぶやくのだった。

 

 なので俺は心身ともに疲れているのだが、リーリアの笑顔が取り戻せたということで良しとしよう。

 


 皆は何があったのかを察して何も言ってこなかった。

 唯一アナスタシアだけが、「おはよう! いい朝だな!」と能天気に挨拶をしていた。

 俺はそれに手を上げて答えることしかできなかった。




 チゴ村の道のりは順調で、これなら明日の昼には着くだろうとのことだ。

 出てくる魔獣もEランクの犬魔獣やDランクのトカゲ魔獣といった弱いやつだけなので誰か一人が戦えばすぐに片が付いた。


 そんな中、アナスタシアがリーリアの実力を見たいと言ったので、それに応え軽く魔獣を倒して見せた。

 戦っているときの姿を真剣に見つめていたアナスタシアだったが、倒し終わると不思議なことを言い出した。


「リーリアは人間なのか?」

「わかんないけど魔法を使ってるよ」

「そうか……では人間ではないのか……お前からは私と同じ力を感じたのだが」


 人間は魔法を使うことができない。

 その代わりに法術という人間だけの術を持っている。

 

 扱う力も『魔力』と『法力』で違うもので、相容れない力である。

 それはお互いに力の実体を見ることはできない。


 例えば俺が魔力の糸でアナスタシアを拘束したとしよう。

 その時、アナスタシアは何故動けないのか分からない。

 肌で感じたり、何となくそこにあるということは分かるのだが、見ることは不可能なのだ。

 だが魔法は違う。

 魔力を用いて火や水を発現させるので見ることができる。


 それは法術も同じで法力を見ることができないために、人間と戦う場合は余計に気を使う。


 ──そんな力である『法力』をアナスタシアはリーリアから感じるというのだ。


「アナスタシア、『法力』の力があるとしたら、どうやったら分かるんだ?」


 俺がそう言うとアナスタシアはパッと笑顔になった。


「私をその名前で呼んでくれるのだな! 嬉しいぞ!」

「あ、ああ、まあお前の名前がアナスタシアならそう呼ぶしかないからな……そんなことよりどうなんだ?」

「……そんなことより…………」


 若干ショックを受けたようでガクリと項垂れる。

 そのまま数十秒が経過したのち、むくりと顔を上げてこう言った。


「法術は魔法のように精霊との契約なんてものはない。なので才能があれば使いこなせる……例えば、『攻撃強化』」


 アナスタシアは攻撃強化の法術を使うと、てくてくと歩いていき巨大な岩を殴った。

 すると岩は見事に粉々となった。


「これは本当に初歩の法術だ。他にも『防御強化』や『速度上昇』などもある。法術を使えるものならどれも最初に覚える術だ」

「それは練習しなくても使えるのか?」

「わからない……私はすぐに使えたから」

「まあ、そうだろうな」


 勇者なのだ、才能の塊だろう。

 そんな奴が初歩の法術で苦労するはずもないな。


「何がともあれ使ってみればわかる。法力を高めて『攻撃強化』と言ってみるんだ」

「やってみる」


 リーリアは瞳を閉じて集中する。

 そんな様子をかたずをのんで見守る俺達。

 

「──攻撃強化!」


 ……………………


 …………どうやら何も変化は起きないようだ。


「うーん、よくわかんないかも」

「そ、そうか……それはそうだな。むしろ使えたら大変なことになる」


 アナスタシアはどこかホッとした表情であり、俺も同じ気持ちだった。

 いくら覚悟していたとはいえ、リーリアが人間だということをまだ認めたくはないのだ。

 もちろん人間だからといって今までと接し方が変わるなんてことはない。


 だが……人間だとすると、この大陸のどこかに本物の両親がいることになる。

 そう思うだけで俺の心はざわつくのだ。

 可能であれば大会だけでて、さっと帰りたいと思っている。

 【種】の保持者探しも大事だが、何より大事にしたいのが俺とリーリアの今まで通りの関係だ。

 このまま……このままでいいんだ。


 俺は眠たい頭でそんなことを考えていた。


 

 ──



 一陣の冷たい風が頬をかすめる。

 いつの間にか眠っていたようで、すでに日は落ちかけていた。

 野営の準備はすんでいてテントも誰かが作ったようだ。


「すまない、寝てしまっていたようだ」


 馬車から飛び降りると、火を囲んで皆が食事の準備をしていた。

 

「お父さん起きた! 食事にしよ」


 走ってくるリーリアが俺の手を取り火の元へ向かう。


「おお、いい匂いだな」

「アナスタシアが作ってくれたんだよ」

「ほう」


 リーリアがそう言うと、恥ずかしそうにもじもじするアナスタシア。


「わ、私の手料理だ……食べてくれると嬉しい。と、とくにこの汁は自信作なんだ」

 

 手渡された器の中は、濁った色のスープに肉や野菜などの具材がたくさん入っていた。

 いい香りが漂い、非常に食欲が増した。


「これは美味そうだな」

「是非食べてみてくれ!」


 俺はスープを口に含んだ。

 すると口いっぱいにうま味が広がっていき、一口、また一口と、スープの具材をかき込む手が止まらなかった。そして気がつけば器の中身は空となっていた。


「これは美味い!」

「ふふ、それはよかった。これは豆を発酵させて作った調味料で、この大陸では有名な料理なんだ」

「そうか……帰るときは是非買って帰りたいものだ」


 俺が何気なくそういうと、アナスタシアは寂しそうな表情をした。

 

「帰ってしまうのか?」

「ああ、大会が終わったらな」

「そうか……」


 そんな会話をしていたら、リーリアが割り込んできた。


「大丈夫だよ、また遊びにくるよ」

「ほ、本当か!?」

「うん」


 リーリアとアナスタシアが手をとって笑いかけていた。


 …………おや?


「お前たち……いつ仲良くなったんだ?」


 確か今日の朝はぎこちなかったよな。

 特にリーリアはアナスタシアの顔をろくに見れなかったはずだが。


「お父さんが寝てからいろいろとお話したんだよ、ね?」

「ああ、そうだ。私たちはどうやら馬が合うようで……妹がいたらこんな感じなんだろうなと思っていたんだ」

「うんうん、だからお父さんと結婚なんて……もう言わないよね?」

「……まだな」

「まだ?」

「ああ……まだだ」


 ……これは本当に仲良くなったのだろうか?

 すごく険悪なモードに感じるのだが。


「さっきからその調子なんですよ。他の話題では仲良く話しているのに……結婚の話題だけは二人とも譲らないんです……まあ、私はリーリア派ですけどね」


 ナルリースがそう説明した。


「そんなことより汁はもうないのか? 我は物足りぬぞ」


 レヴィアはこの場の空気など関係ないようで、相変わらず食いっ気が勝つようだ。


 ……ていうかいつの間にか全部食いやがったなこいつは。


「──ってもう全部食べてしまったのか!? 仕方ない……ベアルもまだあまり食べていないようだしもう一度作ろう……待っててくれ」


 アナスタシアはそう言うと、鍋をもって馬車の方へと行ってしまった。

 俺もリーリアの隣で深く腰を下ろすと、ゆっくりと待つことにした。


「ふう……ところで何の話をしていたんだ?」


 何気なくそう聞くと、女性たちは顔を見合わせる。

 誰もが下を向いたり、空を見上げたりして、俺と視線を合わせるものは……いた、シャロだ。

 シャロがニヤニヤしながら話し出した。


「もちろんベーさんの彼女は誰かを決めてたんだよ~。そしてリーちゃんは誰が彼女なら許す? とかそんな話だよぉ」

「そ、そうか」


 あまり触れない方がいい話題のようだ。

 違うことを話そう。

 そう思ったのだが。


「もうこの際だからベーさんに聞いちゃおうよー。誰が彼女ならいいのって。決まってないから喧嘩になっちゃうんだよぉ」

「け、喧嘩になんてなってないでしょう?!」

「えー、そうかなぁ? ナルリースだってムキになって言ってたじゃん……私ならく──」

「こらあああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 ナルリースが水魔法でシャロを吹き飛ばした。

 はるか後方まで飛んで、地面を転がり巨大な岩にぶつかってようやく止まった。


 ……あいつ……死んでないよな?


 ていうか、そんなにヤバい発言なのか?


「ダンナは知らない方がいいにゃ……女だけになると過激な発言もするようになるにゃ」


 ジェラがそう言って悟ったように目を閉じる。

 俺は隣にいるリーリアに視線を合わせた。

 するとリーリアはゆっくりと視線を逸らした。


 ──ああ! 俺のリーリアがどんどん変な知識を植え付けられていく!!!


「ああ、我は腹が減って死にそうだ」


 どうやら一人だけ我関せず、我が道を行くものがいるようだ。

 俺は少しだけ和んだのだった。


 


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