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87、つまりはそういうこと



 まずは現状を整理しよう。

 ここは俺の作ったテントの中だ。

 中にいる人物は二人、俺とアーロンである。

 ベッドが二つあって、当たり前だが一人一つの予定だ。

 だが、今現在、一つのベッドの上で二人の人物がいた。


 もちろんそれは、俺とアーロンだ。

 そして、俺が馬乗りになっている状態である。


 なんでこんな状況になったのか……それは鎧を脱ぐのを嫌がったからだ。

 

 ……うん、そりゃ無理やりにでも脱がせたくなるだろう!

 相手がムキムキのマッチョならいざ知らず、男にしては線が細く、中々に綺麗な顔をしている男が嫌がるしぐさをしたら……なんかこう……悪戯したくなるのは本能的に仕方のないことなのだ。


 最初はほんの冗談のつもりだった。

 だが、本気で嫌がるアーロンを見て、是が非でも脱がせてやろうと思った。

 これは俺の性格なので仕方がない。

 

 その結果……俺はアーロンの胸に手を押し付ける形となった。

 

 むにゅ。


 うん、やはりこれは胸のようだ。

 俺は再確認をした。


「……もうやめて……」


 アーロンは顔を真っ赤にして涙目でこっちを見つめていた。


 OK。


 こいつは女である。


 

 そして、そのことにより現状が絶望的なものであると再認識させる。

 悲鳴を上げてから数秒が経過していた。

 まもなく女性たちがやってくるだろう。

 この状況のまま見られたら、今まで積み上げてきた俺のイメージが完全に崩れ去るのは必至だ。

 

 ──何とかしなければならない!


 どうする? 逃げるか?


 ……いや、ダメだ!


 そんなことをしたら完全にアウトだ。

 

 ならばいっそ開き直るか?

 勇者のことが好きだから襲ったと言うか?


 …………いや、ダメだ!!


 出会ってすぐに襲うとか!

 ただの変態ではないか!


 ではどうする?


 時間にして数秒。

 今まで使ったことのない脳までフル回転させ熟考する。

 俺は人生で最大のピンチを迎えていた。


 

 ──



 さらに数十秒後、ベアルたちのテントにリーリアが飛び込んできた。


「お父さん! 何があったの!?」

「お、どうしたリーリア?」

「どうしたって……」


 俺とアーロンを交互に見ると、だんだんと険しい表情へ変わっていった。

 そうしている間にも次々と女性たちが集まってきた。


「これはいったいどういうことなんですか!?」


 怒った顔で俺を問い詰めるのはナルリースだ。

 それも当然であった。


 結局俺は何の対策もしなかったからだ。

 アーロンは恥ずかしそうに胸を隠してうつむいている。

 逆に俺は、堂々と自身のベッドの上であぐらをかいていた。


「そうだな……説明すると長くなるんだが……」

「いいからさっさと説明してください」

「……はい」


 俺は包み隠さずに事情を説明した。

 男なら潔く堂々としようと思ったからだ。


「────というわけだ。これがすべてだ」

「……女だと知らなかったと?」

「ああ」


 ナルリースの瞳をまっすぐみてそう答えた。

 すると視線を落とし、はぁとため息をつくと、


「やっぱり気がついてなかったんですね」


 そういって苦笑いをした。


「だからいったでしょ~僕の言う通りだって」

「本当に気がついてなかったとは思わなかったにゃ」

「まあ、お父さんだから……」

「ベアルよ……お主は本当に……はぁ」


 そろいもそろって言いたい放題である。

 ……だが何も言い返せないのも事実である。


 …………ん?


 なんかその言い方だと、みんな女だと気がついていたみたいじゃないか?


「お前らはアーロンが女だって気がついていたのか?」


 俺がそう言うと、そろいもそろって、「はぁ」と大きくため息をついた。


「当たり前です! こんな可愛くて美人な男がいてたまるものですか!」

「いや……普通気がつくにゃ」

「僕はベーさんを信じてたよー」

「お父さんはこういう時だけ鈍感だから……」

「我は匂いでわかったぞ」


 どうやらマジで俺だけ女だってことが分かっていなかったようだ。

 

「でもそれならなんで言ってくれなかったんだ?」

「そ、それは……」


 言葉に詰まるナルリース。

 するとシャロがニヤニヤしながら、


「そんなのライバルが増えるかもしれないからに決まってるじゃん~乙女心は複雑なんだよ~」

「シャロ!!」

「はいはーい」


 ナルリースがシャロに突撃する。


「なんであなたはいつもそうやって!」「いいじゃんもうばれてるんだし!」などと言い合いながらじゃれ合っていた。


 俺はそれを横目に見ながらアーロンの様子を窺った。

 どうやら羞恥心は収まってきたらしくて、布を体に巻き素肌を隠していた。

 すると視線を上げた勇者と目が合った。

 俺はすかさず問いかけた。


「アーロンっていうのは男の名だよな……偽名なのか?」

「……そうだ」

「なんでそんなすぐばれる嘘を?」

「……わ、わたしは…………」

「ああ」

「結婚するには心の準備が整っていなかったからだ!」

「え?」


 何を言っているのだろう。

 話が飛躍しすぎていて訳が分からない。

 なぜ結婚?


「すまん、何を言いたいのかわからん。もっと詳しく話してくれ」

「あ、ああ、わかった……私は子供のころ結婚式を見たんだ。その時の花嫁は本当に綺麗で素敵だった……子供だった私は花嫁というものに憧れを抱いたんだ」


 その時のことを思い出しているのか、アーロンは優しい顔をしていた。


「それでお父様に聞いたんだ、『私はいつ花嫁になれるの?』ってな……そうしたらこう答えたんだ、『お前にはまだ早いよ』って。だが、私はその答えに納得がいかなかった……だから駄々をこねたんだ、『私も花嫁になりたい!』ってな」

「うんうん、子供のころはよくある話よね」


 ナルリースが相槌を打ち、他の女性たちも「うんうん」と頷いていた。


「困ったお父様はこう言ったんだ、『お前より強い人が現れたら、その人と結婚するんだ』って、そしたら私は、『わーい本当? じゃあその人と結婚する』ってな。ふっ、当時からお父様は分かっていたんだ、私に勇者としての才能があり、私こそが人間族の最強になりうる存在であるから、そんな人は永遠に現れないとな」

「なるほど……父親は娘が嫁にいくのを嫌がる人もいるらしいわね」

「だからそんなことをいったにゃ」


 ……なるほど、つまりアーロンの父親は娘を嫁に行かせたくなかったと。

 …………。


「で、それが今回の事と何が関係あるんだ?」

「……確かにそうよね。それは子供の時の話でしょ?」


 皆が疑問に思った。

 だがアーロンの反応は違った。


「いや、その話は教会で行われたのだ。それは神の御前で取り交わされた約束だ。私たちにとってその約束は何よりも守らなくてはいけないことなのだ……」


 皆の表情が一斉に固まった。

 え? つまり?


「だから私は……お前と結婚をする」

「「「「「「「えー!!!!」」」」」」」




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