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9、釣り



 息を激しく乱し、膝をつくリーリア。魔力切れだ。

 ふむ、朝の訓練はこんなとこか。


「昔に比べると魔力量も着実に増えているな」

「……はぁはぁ……うん、でもお父さんには全然届かないよ」


 リーリアの魔力量は俺の一割にも満たないだろう。それは単純に俺のほうが300年以上も歳をとっているからだ。

 魔素の限界値は産まれたときに決まると言われている。

 例えばそれが通貨袋程度なのか、それとも町を被うほどの皮袋なのか、それは運だったり種族や親によっても変わる。

 俺がどれくらい魔素を持っているかは正直わからない。まだ魔力量は増えている気はするのだが、ここ最近本気を出す事がまるでないので正確な数値は測れていない。ただ300年という年数は単純に俺の強みとなる。


 魔力量は魔獣を食べる事により絶対量が増える。倒したときも増えるのだが数量は少ない。なので日々の食事で増やすというのが一般的だ。

 どうせ食べるなら魔力の高い魔獣のほうがいいと俺は常にそう思っている。

 狩りをするときはそういう魔獣を狙って狩っているのだが……もっと強い魔獣がほしい。

 リーリアは5歳にしては魔力量は高いほうだと思うが、親としてもっと、もっと成長させたいと欲が出てしまう。前のロック鳥みたいに魔力探知をして強力な魔獣を探してもいいのだが時間が掛かるのでどうしたものか。


「お父さんどうしたの?」


 天を仰いで考え事をしていた俺に声がかかる。

 

「いや、今日の飯はどうしようかと思ってな」

「いつも通り魚じゃないの?」

「まあそうなんだけどな」

「うん?」


 ……ちょっと釣りでもしようか。

 まったりと時間を過ごすのも悪くない。

 リーリアは魔力探知に関してはまだまだ未熟だ。釣りという遊びは獲物が海の中にいるため、潮の流れや大量の魚魔獣の気配で探知が難しい。

 魔力探知を展開しながら大物の気配をさぐり、潮の流れを読みながら緻密な魔力操作を要求される。

 さらに大物との一進一退のスリルを味わえる。うん、最高じゃないか。

 時間は掛かるが遊びの延長線上と考え、晩飯の心配もいらなくなるという、まさに一石二鳥の手なのでやるしかないだろう。

 なにより俺が釣り好きなのだ。狙うは大物、そして美味いやつ。


「リーリア、この後は釣りをしようと思うんだが……」

「えっ! 釣り!? 私もやりたい!!」

「お、よし。一緒にやるか!」

「うん!」


 

 午後は釣りをすることにした。


 昼飯は魔法で適当に獲った魚を焼いて食べる。

 ちなみに薪で焼いた魚はやはり美味しく、リーリアも「おいしいおいしい!」と感動していた。

 


 俺たちは島南の先端へとやってきた。

 ここは大きな海流があり大物が多い。その分釣りは難しくなるが腕の見せ所でもある。


「じゃあ始めるか」

「うん! 頑張る!」


 俺たちは集中して魔力の糸と海に流す。

 糸の先端には予め魔法で獲っておいた小魚をつけてある。何かが小魚エサ食らい付いたら魔力の糸をそいつに巻きつけ引っ張る作戦だ。

 潮の流れは複雑にゆれる。魔力の糸をその流れに合わせていかなければならない。そうしないとエサの動きが不自然となり魚に警戒されてしまうのだ。

 そして魔力探知を拡大していく。狙うは一点大物だ。大きな魔力反応を目指して、警戒されないようにゆっくりとエサを流していく。


 これはいい訓練になるかもしれない。

 リーリアの方を見てみると、難しそうな顔をしていて時々、「あっ! ひぃ! そっちいかないでぇ!」と叫んでいた。楽しそうで何より。

 俺は横目でその様子を眺めつつ、ニヤニヤしながらひたすらエサを流す。

 

 数十分後。


 俺のエサに反応があった。

 つんつんと小刻みにつつくような感覚。糸がぶるぶると震える。小魚が食い散らかされているようだ。

 しかし俺は焦らない。

 ゆっくりと気付かれないように糸を獲物へと巻きつけていく。

 そして────思い切り引っ張った。


「きたきたきたー!!」


 糸が右へ左へと動き回る。獲物も必死だ。

 だが俺は慌てない。

 釣りの極意は相手を弱らせること。無理に引っ張ろうものなら糸で獲物を切断してしまうのだ。

 ぶっちゃけて言えば殺してから回収するという手もある。しかしそれは狩りであって釣りではない。

 俺はこの駆け引きが大好きだった。

 

 一進一退の攻防を繰り返し、ようやく獲物の正体が見えてきた。

 

 バシャン!


 水面で激しくエラ洗いをするそいつは、イーターと呼ばれている大型の魚魔獣だ。

 イーターはその大きな口で他の魚魔獣を丸呑みにする。そうして魔力を増やし、さらに素早く強くなっていく。なので魔法で倒すのは非常に難しく、釣りでしか捕らえられない魔獣だろう。それに非常に美味だ。


「よし! 大物だ!」

「お父さんすごい!」


 イーターは砂浜に近づくたびに激しく暴れまわるが、もはや時間の問題だろう。

 そしてついにぐったりと体を横に向ける。

 ふ……俺の完全勝利である。

 得意げに腰に手を当てポーズを決めて見るが、リーリアの視線はイーターに釘付けだ。

 少ししょんぼりしながら、砂浜へと引っ張りその巨体を改めてまじまじと見る。

 口は人を飲み込めるほど大きく、胴体の長さは人の数十人分はあるだろう。


「うわぁ大きいねぇ! それに食べ応えありそう!」


 そう言うリーリアの口元にはすでによだれがつたっている。この食いしん坊さんめ。

 

「こいつは焼いて食べるのが美味いかな……本当は香辛料があればいいんだが」

「お父さんがずっと言ってる、こうしんりょうってのも食べてみたい……」

「いつか食べられるさ」

「うん」


 香辛料が欲しいとは思いつつ、そのいつかがこなければいいなと複雑な心境だ。

 そんな事を考えながら、イーターに止めを刺し血抜きをしておく。

 巨体から流れる血は海を一時的に赤く染めた。


「これでより獰猛どうもうな魔獣が寄って来るはずだ」


 血の匂いに惹かれて、いつもは深い所にいる魔獣も釣るチャンスだ。

 エサはイーターの切り身を使う事にした。

 等身大サイズの短冊切りにして海に流した。リーリアも同様だ。


「大物釣るぞー!」

「おー!」


 意気揚々と魔力の糸を流し続ける。リーリアも慣れたようで先ほどより順調に進んでいる。


「今度は私も釣るよ!」

「お、いいねえ……お父さんに勝てるかな?」

「この島くらい大きいの釣っちゃうもん!」

「ははっ! それは楽しみだな」

「絶対釣るからね!!」


 そして数時間が過ぎた。

 海は珍しく気持ちいいほどに凪いでいて、キラキラと輝く青い海は見ていて心が安らいだ。

 リーリアは少し眠たいらしく、目をこすりならが時折舟をこいでいた。

 獲物はすでに何匹か捕らえてはいたがこれといった大物はいない。先ほどのイーターを追加で3匹ほど捕らえたが食べきれないので逃がしてある。

 ちなみにリーリアは釣れていない。探知しながら操作するのは難しいらしく、獲物に巻きつける段階で手間取り逃がしてしまっていた。


「早いがそろそろ切り上げるか? 疲れただろ」

「……うん、眠くなっちゃった」


 獲物としてはイーターが釣れたので上々だ。

 エサとして大半を使ってしまったが、二人で食べるにはまだまだ量がある。

 さて、撤収する準備でもするか。


 ──とその時、魔力探知に今まで感じた事のない膨大な魔力が、物凄い速度で近づいてきているのを察知した。


「お父さん! これって!!」

「ちっ! やばいな」

 

 どうやらリーリアも察知したようで顔面蒼白となっていた。


「魔力探知を切るんだ! 糸も断ち切れ! エサはその場で放置!」

「はいっ!」


 全ての行動を同時に終わらせる。

 俺たちの魔力探知はかなり遠くまで張っていた。それこそ水平線に届くくらいまで。

 しかしそれが裏目にでたか、運悪く"そいつ"が探知の中に入ってしまった。

 ああ、最悪だ。間に合わなかった。

 

 この距離でもわかる……やつが水面に顔を出しこちらに近づいてきていた。

 その速度はすさまじく、見る見るうちにその姿があらわとなった。

 見覚えのあるその姿に俺は頭を抱えたくなる。


 数十秒後、俺たちの眼前にはまるで船のような巨躯。


「お、お父さん……これは」


 それは蛇のように長い胴体に輝く鱗、背中には巨大な盾のような背鰭、ドラゴンのよう猛々しい顔。


「海王リヴァイアサンだ」

 



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