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85、勇者



「ギルド長! 大変です!」

「騒がしいですよ! どうしたんですか!?」

「チゴ村が魔獣に襲われたそうです!」

「なに!?」

「村人がきて……とにかくすぐに来てください!」

「分かりました!」


 慌てて席を立つと受付嬢を追って出て行った。

 俺たちも顔を見合わせて頷くと、それに続いた。

 ホールでは四つん這いになりながら必死で訴えている男の姿があった。


「とにかく誰でもいい! 俺の、俺の村を助けてくれ!」


 冒険者の足を掴み必死に懇願している。

 顔はやつれていて、真っ青だ。

 これが演技だとは到底思えなかった。


「ギルド長のリュックです! ちょっと道を開けて下さい!」


 リュックの姿に気がついた冒険者は横にそれて道を作る。

 男の前にたどり着くと、膝をつき、男の顔を肩を叩く。


「必ず助けます。なのでもう一度ゆっくりと状況を説明してくれますか?」


 男は肩に置かれた手を必死に掴むと、拝むように言った。


「あ、ありがてえ!」

「ええ、ではゆっくりと状況説明をお願いします」

「ああ、わかった……いつも通り畑仕事をしていたときだった。突然警鐘が打ち鳴らされたんだ……そして次の瞬間には一匹の魔獣が入り込んでいた。そして……次々と村人を襲っていったんだ」

「一匹だけですか?」

「そうだ、だが恐ろしく強い魔獣で村の警備隊もやられてしまった。Cランク程度なら追い払える能力をもっていたんだが一瞬だった……そして俺の娘を掴んで俺にこう言ったんだ……勇者を呼んで来いと」

「勇者!? 勇者を呼んで来いと魔獣が喋ったんですか!?」

「ああ、魔獣が喋るなんて信じられなかったが、目の前でそう言ったんだ……さもなければ俺の娘を喰うと……だから俺は必死に走って……」


 男はそう言って泣き崩れた。

 

「確か……勇者様はテティ村の調査から帰ってきて、今はこの町にいたはず……ミスティ! 至急勇者様を呼んできていただけますか!?」

「分かりました!」


 ミスティと呼ばれた受付嬢はギルドから飛び出て行った。


「王都にも連絡を! 我々は緊急会議を行います!」



 ─



 ギルド内は急に慌ただしくなった。

 他の冒険者も旅立つ準備をしているようで右往左往としている。

 そんな中、ギルド内に入って来る者がいた。


 白金の甲冑を着込み、巨大な盾と美しい剣を携え、なびく金色の髪が神々しくも光るその姿に冒険者たちは感嘆の声を上げる。

 短く切りそろえた髪は清潔感もあり、整った顔立ちはさそかし女性にもてるだろうなという風貌であった。

 その証拠にギルド内の女冒険者からは黄色い声が上がっていた。

 何故か男冒険者からも声をかけられている。人望があるのだろうか?

 年齢はさほどいっていなく、20前後といったところか。

 

 ……まあ、間違いなくこいつが勇者だろう。


 その姿を見るや、受付嬢が慌てて近づき部屋へと案内をする。

 一方、俺たちはというと……一応今後のことを話し合っていた。


「っと……話が途中だったが、賛成ということでいいのか?」

「そうだにゃ! 絶対に勇者の護衛任務が依頼として出されるはずだにゃ」

「そうね……それに勇者と話をするのは今回の目的でもあるわけだから丁度いいわよね」

「なかなかカッコいいね~なんか新しい扉が開かれそうだよぉ」

「うーん、カッコいいかなあ? お父さんのほうが全然カッコいいけど」

「うむ、それには同意だ。あいつはなんだか軟弱そうだ」


 だんだんと話がそれていったが、概ね意見は整った。

 依頼がでればそれを受けて、勇者と村の救出に向かう。

 ついでに勇者と話をして一件落着というわけだ。


 もちろんエルフ王国代表としてきているので大会は出るが、【種】の所有者問題が解決していれば大会だけに集中ができて気が楽だからそれに越したことはない。


 俺たちの意見がまとまってしばらくした後。

 リュックと勇者がホールにやってきた。


「これからチゴ村救出の緊急依頼を募集します。ランクはB以上。依頼内容は勇者様の護衛、村人の救出など臨機応変な対応が求められますが──」


 リュックの言葉をさえぎると勇者は冒険者を一瞥し、こう言った。


「私に護衛は必要ない。だが村人を救うには人手が必要なのも事実。私と魔獣が戦闘している間、村人を守ってくれる者を募集する」


 勇者がそう言って口を閉ざした途端、名乗り出てアピールする者たちが次々と現れた。

 どうやら皆、勇者と一緒に村を救いたいらしい。

 収集がつかなくなるんじゃないかと思われたが、ここでギルド長のリュックが、


「静かに! ここは勇者様に選んでいただきます!」


 そう言った。


 ……まずいな。


 指名制となると魔族である俺たちは不利かもしれない。

 人間は同種族同士の結託が強い。

 どうせ一緒にいくなら同じ人間となるかもしれない。

 なにかアピールできるものがあればいいが……。


 勇者は順番に冒険者を見比べている。

 俺はシャロをひじでこずいた。

 するとシャロは俺の意図が分かったらしく、勇者と眼が合うとウインクをして色っぽいポーズをしてみせた。

 だが勇者は眉間に皺を寄せると視線をそらしてしまった。


 ────終わった。


 俺とシャロが落胆していると、勇者の視線はリーリアのところで止まった。

 勇者はしばらくリーリアと視線を合わせると近づいて声をかけてきた。


「……君も……冒険者なのかい?」

「うん、お父さんと一緒」

「お父さん?」

「うん、そう、この人」


 そう言って俺の腕を掴む。


「俺が父だ」

「……ふーん、そうか。よし、この人たちにしよう」


 勇者はそう言ってリュックの方を振り返った。

 だがギルド内は騒然となる。

 まさか俺たちよそ者が選ばれるとは思ってなかったからだ。

 当然のように反対の声が上がった。


「ちょっと待ってくれ勇者様! そいつらは今日来たばかりのよそ者だ! 俺たちはランクもBだし信用だってあるんだ!」

「そうよ! 私たちもBランクだし、そんな子供やおっさんより私たちと旅したほうが充実した旅を送れるわ!」


 その他にも同様の声が上がる。

 なぜそいつらなのかと。

 暴動寸前までなりかけたその時、勇者が振り返り、何かを放った・・・・・・


 ──ぞくり。


 俺も一瞬痺れるほどの威圧感がその場を支配した。

 その反動で倒れて腰を付く者、尿を漏らす者や震えて縮こまる者、しまいには泡を吹く者までいた。


「へえ……私の威圧に耐えるか」


 平然と立っていたのは俺とリーリアとレヴィアだけであった。

 3人娘たちも尻餅をついてしまっていた。

 

「ふふふ……よかったぞ。どうやら現在の勇者は中々に優秀な男らしいな」


 俺はそう言って不敵に笑った。

 すると勇者は怪訝そうな顔をする。


「……それはどういう意味だ? 私はすでに最強の域にあると自負しているが?」

「そのままの意味だ。お前はアランに比べたら数段劣る」

「……アランとは私の祖先のことか? 300年前、とある魔族に負けたといっていた一族の恥さらしが──」

「──だまれ」


 俺は勇者に殺気を放った。

 それはすべてを屈服させる膨大な魔力の塊。

 その魔力が勇者の体にのしかかる。


「──くっ!」


 勇者は耐えきれずに片膝をついた。


「な……わ、私が膝をつくなど子供の時以来だ……くぅ」

「ふっ、軟弱な男だ。アランはこれに耐えたぞ」

「なにっ!? ということはまさか……」

「アランが唯一負けた魔族というのは俺の事だ」

「そ、そんな!」


 勇者は力が抜けたように両手を床についた。そしてよほど悔しいのか床を殴る。

 木でできているギルドの床は簡単に砕け散った。


「わ、私の倒そうとしていた目標が目の前にいて……でも、実力は全然届いていなかったというのか……」

「む、なんだ? 俺を倒したかったのか?」

「そうだ! 勇者アランは子供のころに話を聞いてから憧れだったんだ! でも魔族に負けたという話を聞いて……悔しくて悔しくてずっと思っていた! 私がその魔族を倒すと!」


 そういうと勇者は泣き出した。

 な、なんだこいつ。

 情緒不安定なのか!?

 アランをバカにしたと思ったら、実は憧れていたとか言い出して……よくわからん面倒くさいやつだな!

 

 俺が若干引いてると、勇者は立ち上がった。殺気はすでに無くなっている。


「よし、むしろ丁度いい機会だ。君たちと一緒に村に行こう。実力は申し分ないことが分かったし私としても君と一緒にいたい。いいだろう?」


 そういって握手を求めてきた。

 いやいやどういう切り替えの潔さだよ!

 俺はちょっとヤバい奴と思いかけていたが、こちらも話をしなくてはいけないので、しぶしぶ握手をした。

 すると勇者は喜んでぶんぶんと手を振った。


「よろしく……えっと?」

「ベアルだ」

「よろしくベアル! 私はア……」

「あ?」


 笑顔のまま固まる勇者。

 数秒固まったのち、何事もなかったかのように、


「私はアーロンだ! よろしく!」

「ああ……よろしく……では他の仲間も紹介しよう」


 俺は順に紹介していく。

 特にリーリアのときは熱心に見ていたが……まさか……いや、まだ結論を出すには早すぎる。話を聞いてからでもいいだろう。


「では早速チゴ村に向かおうと思う。準備はいいか?」

「問題ない」

「では行こう!」 

 

 俺たちはチゴの村に向けて出発した。



 ■



 残されたリュックは唖然としていた。

 今、ギルド内で起こった出来事ですべての冒険者は気絶していたのだ。

 

「あれがSランクですか……なんともはや規格外ですね」


 ほとんどを勇者に向けられていたとはいえ、殺気を間近で浴びた者は果たして復帰できるのだろうか。

 リュックは頭が痛くなるのを感じた。


「しかし……どうして偽名を使ったのでしょうか。なんとなく突っ込めない雰囲気でしたので何も言いませんでしたが」


 もちろんこの国の者なら全員勇者の名前を知っている。

 だから嘘をついてもすぐばれそうなものなのに。


「勇者様の考えることは分かりませんね……女性なのに男の名前なんて名乗ってどうするのでしょう」


 まあ、そんなことよりも村の無事を祈りましょう。

 リュックはその場で膝をつき、神に祈るのだった。




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