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84、リアンダの港町



 リアンダの港町は活気に溢れていた。

 規模はフォレストエッジとほぼ同じくらいで、さすが人間大陸の玄関口といったところか。

 港から町の中心部へ続く道は露店通りとなっており、様々な人が思い思いの買い物を楽しんでいる。

 俺たちも例に及ばず、露店を見て楽しんでいるのだが……。

 

「なあ、リーリアさんや……歩きづらいんだが」

「そう? そんなことないと思うよ」


 俺の腕に抱きつき、ギュッとホールドされている。

 歩くたびにリーリアが宙に浮くため、非常にバランスが悪かった。


 船から降りようとしたときからこの状態である。

 先ほどから何度も歩きづらいと言っているのだが、断固として離れようとしなかった。


「俺が何かしたか?」

「うーん……した気がする」

「わからないのか?」

「私の直感がそう言ってるから」


 そう言ってさらにギューッと腕を締め付けた。

 

 もしかしなくともレヴィアの一件のことを言ってるのだろうか。

 なぜかこういうことにリーリアは鼻が利く。

 直感によって動いているから本人も分からないのだろうが。

 ……俺は何もしてないんだがなぁ。


「のう……ベアルよ」

「ガルルルル」


 その証拠に俺に話しかけようとしたレヴィアに威嚇している。

 ……先ほどからこれなのだ。

 実はレヴィアだけでなくナルリースにまで威嚇をしていた。

 

「大変だねえベーさん」

「まあ、リーリアは昔からこうだが……シャロはなにか詳しい事情を知らないか?」

「うーん……女の子はいろいろあるんだよ~」

「なんだそれ」

「まあまあ、それだけ愛されてるってことだよ~」

「それは嬉しいんだがな」


 シャロとジェラには威嚇をしない。

 それがすべてを物語っているのかもしれなかった。

 俺はリーリアを腕に巻きつけたまま露店通りを練り歩くことになるのだった。



 ──


 

「見て見てお父さん! 美味しそうな食べ物がある!」

「どれどれ……ほう、麺を炒めて特別なソースをかけた食べ物か」


 露店通りも終盤に差し掛かり、そろそろお腹が空いてきたころ、珍しい露店を見つけた。

 するとすぐに行動に移したものがいた、レヴィアである。


「一つくれ」

「あいよ! 700ゴールドね!」


 量の割に高い料理を購入するレヴィア。

 手に取るとすごい勢いで食べ始める。


「美味い!」

「へへ、ありがとうな可愛いお嬢ちゃん」

「……だがこの量で700ゴールドは少々高いのではないか?」


 俺は疑問に思っていることを聞いてみた。

 珍しい料理には付加価値が付くものだが、この料理はさほど珍しい料理だとは感じなかった。

 麺は小麦からできているし、使っている野菜もよく見るものだ。何かあるとするならばソースなのだが……。

 そのとき露店のおっさんの口から放たれた言葉は、予想外に重いものだった。


「ここから遥か西にあるテティ村という場所を知っているかい?」

「いや、この大陸に来たのは初めてなんだ」

「そうだったのかい! ……そこは小麦の産地なんだが、どうやら魔獣に襲われて、滅ぼされてしまったみたいなんだよ」

「なに!? そうなのか!?」


 初耳であった。

 フォレストエッジのギルドからそんな情報は知らされていない。


「市場に小麦が出回らなくなったから変だなとは思っていたんだ。だから小麦を使った料理は軒並み値上がりしているんだよ、すまないね」

「いや、貴重な情報感謝する」


 おっさんに挨拶して露店を離れる。

 そして思い思いに露店を巡っていた皆を集めると、俺は先ほどの情報を伝えた。

 すると皆の表情が一変した。


「それってもしかして人魔獣かしら?」

「そうとは限らないにゃ……でも気になるにゃ」

「ああ~のんびり羽伸ばし旅行だと思っていたのに~」

「露店巡りはあとにしてひとまずギルドに行ってみよう。先ほどの情報が気になる」


 一同は頷く。反対するものはいなかった。そうと決まれば即行動。足早にギルドへと向かった。

 



 冒険者ギルドの規模はフォレストエッジとほぼ変わらず、構造も殆ど同じだった。

 中に入ると冒険者で賑わっていて、活気のある証拠でもあった。

 だが唯一違うのは、俺たちは完全によそ者であるために注目を集めていることだ。

 鋭い視線が俺たちに向けられる。

 その中にはいろいろな雑念が混じっていた。


「女ばかりはべらせていいご身分だ」とか「色男がっ! 実力が伴わなければ意味がねえ」とか「あの人ちょっとカッコいいかも」とか「あの子供めっちゃ可愛い」など、嫉妬、妬み、好意、ロリといった様々な意見があった。


 俺はその反応を無視し、カウンターへと向かった。


「ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか?」

「はい! なんでしょうか?」


 元気よく答える受付嬢。どの大陸でも元気な受付嬢は良いものだ。


「テティ村が魔獣に襲われたっていう話を詳しく聞きたいんだ」


 俺はギルドカードを見せながら小声で言った。

 受付嬢は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに元通りになると、「奥の部屋へどうぞ」と同じく小声で言うのだった。

 受付嬢の後ろを歩き案内されていると、クイクイとリーリアに服を引っ張られた。


「どうした?」

「なんで小声だったの?」

「……村が滅ぶということは滅多にないことだ、しかも最近だという。つまり……まだ心の傷が癒えていないものがいるかもしれない」

「あ、そっか……」

「ああ、むやみやたらと騒ぎ立てるものではないのだ」


 特に新しい場所では慎重になるべきだ。

 俺一人ならともかく、リーリアに悪いイメージがつくのは避けたい。

 

 少し広めの部屋へ通されると、「少々お待ちください」と言って受付嬢は出て行った。

 俺は適当に席に座ると、間髪入れずにリーリアも隣に座った。

 レヴィアも俺の横に座ると、なぜか椅子をずらして肩が触れ合うようにしていた。

 

「あーあ、ナルリースどんくさいからぁ~」

「スピードで負けたにゃ」

「あ、あんたたちうるさいわよ!」


 3人娘は楽しそうに盛り上がっていた。


 そんなことをしていたら、一人の若い眼鏡女が入ってきた。


「みなさん待たせてすみません。それで……Sランクのベアルさんはあなたですか?」

「ああ」

「おぉ! 噂はディラン殿から聞いております! リアンダの町へようこそ!」

「あんたは……ギルド長か?」

「おっと、失礼しました。私がリアンダの町の冒険者ギルドの長、『リュック』と申します」


 柔らかい物腰の眼鏡をかけた女性だ。

 髪はぼさぼさで目の下にはクマがついていることから、ギルド長はどこでも大忙しのようである。


「よろしくリュック。俺の仲間も紹介しよう」

「ええ、頼みます」


 リーリアから順に紹介していく。

 リュックは俺の一言一句に大げさにリアクションを取ってくれるので紹介のし甲斐があった。


「ははは、なるほどなるほど……それで、ベアルさんは何故テティ村に興味を持ったのですか?」


 眼鏡の奥の瞳が光った気がした。

 どんな些細な言葉も見逃さないぞという眼差しをしている。


 ふむ、なるほど……。

 のほほんとしているが、さすがはギルド長といったところか。

 

「いや、フォレストエッジにその情報がまだ出回ってなかったのでな……ただただ気になっただけだ」

「……なるほど、そうでしたか……では情報は入れ違いになったのですね。今頃はフォレストエッジにも伝わっているはずです」

「二度手間になってすまないが、教えてもらえるか?」

「ははは、お安い御用です」


 リュックは詳しく教えてくれた。

 そしてそれは予想していたよりもひどい状態だった。



 結論から言うと、テティ村は何かに襲われたというのは本当だった。

 ほとんどの村人は跡形もなく消えていた。

 ただ、いたるところに血痕があったことと、ほとんどの村人は見つからなかったため、失踪ではなく食われたのだろうという結論だ。

 だが……それだけじゃなかった。

 村には暴行された女性が発見されたのだ。

 それは見るも無残な姿だったとか。


「今、人間大陸は前代未聞の恐怖にさらされています。相手は『魔獣』なのかそれとも『人』なのか……ただ、情報は魔獣ということになっていて、暴行された女性の話は出回っておりません……なので他言無用でお願いします」

「わかった……でもなぜ初対面の俺たちにそんな話を……?」

「人と人をつなぐのは信頼からです」


 リュックは俺の目をしっかりと見つめながら言った。

 それは綺麗な目でもあり、少し怖い目でもあった。

 そう思ってしまうのは俺にその覚悟がないからだろう。


「ふふ……というのは大げさですが、私は人の見る目はあるんですよ。そしてそれは外したことがない。ベアルさんは信用に値すると確信しているのです」

「そんなに信用されても困ってしまうんだが……」

「それでは少しだけ本音を言いましょう。Sランクの人と仲良くしたいのです。後で情報を渋ったと恨まれてしまってはギルドにとって損失でしかないですからね」

「そっちの方が納得できるな」

「ふふ、良かったです」


 すっきりしたところでもっと詳しく聞こうとしたその時。

 ギルドのホールのほうで騒がしい音が聞こえた。

 そしてすぐにこの部屋のドアが開け放たれる。


「ギルド長! 大変です!!!」


 受付嬢が駆け込んできた。




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