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83、新たな船出

昨日、間章に『レヴィアさんは可愛くなりたい』というサブタイトルで追加しました。

もし読んでない方で読んでやってもいいよという人は是非そちらからよろしくお願いします。



 月日は流れ──ノーム季中旬。


 俺たちは運搬船に乗っていた。

 行き先は人間大陸のリアンダという港町だ。

 

 甲板では忙しそうに作業をしている乗組員たちが目に映る。

 そんな人たちを尻目に俺はデッキで海を眺めていた。

 航行速度は遅いけれど、感じる潮風は大変心地よい。

 こんな時は昼寝でもしたい気分だ。


 船首の方へ歩いていくと先端で座り楽しそうにゆらゆらと揺れているレヴィアがいた。

 腰まである綺麗な水色の髪をなびかせ、先端で一人佇む姿は絵になるなと思った。


「楽しそうだな」


 俺がそう言うと振り返り、ニコッと笑う。


「船から眺める海もいいものだな。潮風が大変に気持ちいいぞ」


 レヴィアはここがお気に入りの場所となったようで、乗組員からは魔獣除けの女神様とあがめられていた。

 というのもレヴィアがここに居着いてから実際に魔獣はよってこなかった。それもそうだ、海王であるリヴァイアサンに挑もうとする者など、この海には存在しないのだから。

 女神様とあがめられる理由は他にもあり、見た目も若く可愛いし、食べ物を渡すと大変喜びぺろりと完食、そして満面の笑みで「ありがとう」と言われた日には、若い男たちはおろか、年配の爺さんたちまでメロメロとなってしまった。

 そのため連日、お菓子などの差し入れをレヴィアに渡しに来る乗組員たちで船首は大賑わいである。

 

 そんな彼女が一人でいることは大変珍しい時間であった。


「今日はずいぶんと静かだな」


 俺の問いに首を傾げたレヴィアであったが、「ああ」と一言いい、苦笑いをした。


「そろそろ持っていたお菓子が尽きたのではないか? 我の腹は底なしだからな……それにどうやらお菓子がないと我と話をしてはいけないルールらしいぞ」

「なんだそれは」

「我もそう思うがな……あるご老体が言っておったが、そうしないと仕事をさぼって会いに来る輩が増えてしまうためにルールを作ったとか。 …………別に我と話をしても楽しいと思えないのだがな。実際にいざ会話をしてみるとぎこちない輩も多いしな」


 なるほど。

 まあ、若いやつらの大半は下心から近寄っているのだろう。

 でも実際には緊張をしてしまって話ができなくなってしまう。でも近くにいるだけで幸せを感じる……そんな年頃なのだ。


「まあ我としてもお菓子が貰えるなら構わぬ。しかしさすが船乗りなだけはある多種多様なお菓子を持っているのだな」

「レヴィアのためだからと奮発した物もあるだろうけどな」

「そうなのか? 何故そこまでして我を話をしたいのか」


 当の本人はよくわかっていないようだ。

 別に理解してほしいわけじゃないから、言わないでおくけどな。


「……ところで我に何か用があったのではないのか?」

「暇だから散歩をしていた」

「なんだ、用があったわけではないのか」


 そう言うとレヴィアはむすっと頬を膨らませた。

 

 ……レヴィアは最近、リヴァイアサンだということを忘れさせるくらいに人に近くなっている気がした。

 ちょっとした表情や仕草が自然な動きとなり、今では完全に一人の女性としか思えなかった。


「お前……最近変わったよな」

「ふむ、そうなのか? どう変わった?」

「人に近づいた気がする」

「……そうか……それならばいいのだ」

「どういうことだ?」


 レヴィアはゆっくりと立ち上がる。

 この旅のために新調した冒険者の服が風で揺れる。


「…………この旅の間、リヴァイアサンの姿にはならない。 ……それどころかもう人のままでいようと思っておる」

「何故だ?」

「ちょっと前に溺れてしまったことがあっただろう? いざという時にああいうことが起こってしまっては困るのだ」

「ああ、確かにな……くくく」

「おい! 笑うな!」

「すまんすまん」


 レヴィアは甲板へ飛び降りて、俺の後方へと歩く。

 怒ってしまったのかと思ったが、ゆっくりと振り向いた表情は違っていた。


「あと……お主に好かれたいからこの姿でいるのだ」


 頬を染めてそう言うと、船尾の方へと駆けて行った。

 

 俺は一人、頬をかくと、レヴィアのいた場所へ座った。

 何とはなしに手をつくとそこにはザラザラと感触があった。

 そこには文字が彫ってあり、『ベアル大好き』と書かれていた。


 俺はしばらく文字を手でなぞると、そこで海を眺めていた。

 


 ──



 しばらくすると見張りの交代の時間となった。

 人間大陸に行くにあたり、どうせなら依頼をこなしながら海を渡ろうということになった為である。

 依頼内容は運搬船の護衛だ。

 こちらの人数に対して報酬金額は低く、普段なら絶対に受けないような内容なのだが何もしないよりはマシであるという結論だ。

 見張りは2名ずつの3交代制にしたのだが、組み合わせはクジで決めたのだった。

 俺とレヴィアがペアだったってわけだ。


「お父さーん! どう、何かあった?」


 リーリアとジェラが手を振りながらきた。


「何もない。平和そのものだ」

「そっか! じゃあのんびりできそうだね……レヴィアは?」

「船尾の方にいると思うぞ」

「じゃああたしがそっちにいくにゃ」

「はーい」


 ジェラが走っていく。

 するとすぐにリーリアが俺の顔を覗きながら、


「お父さん何かあった?」


 と聞いてきた。


「いや? 何もないぞ?」

「ふーん……」

「なにをそんなに怪しんでいるんだ」

「べーつにー」


 そう言うと座っている俺の上にどーんと飛び乗ってきた。

 体を預けながら頭をゴリゴリと俺の顔に擦り付けてくる。

 かすかに香る匂いはナルリースのものと同じだった。


「香水つけだしたのか?」

「うん、旅が長くなるなら道中つけたほうがいいって」

「うーん、そうか? 俺はリーリアの匂いならなんでも好きだが」

「……お父さん変態っぽい」

「えぇぇぇ!!!」


 ショックである。

 俺、変態ぽかっただろうか?

 むしろ急につけだした香水の匂いに違和感がありすぎて困っているのだが。

 リーリアもそういうのを気にする年頃なのだろうか。


 俺が思考しているとジェラとレヴィアがやってきた。

 レヴィアは気まずそうに視線をそらしていて、明らかに何かありましたよという雰囲気をかもし出していた。

 いかんいかん……俺は気を取り戻すと、仕事の報告をきっちりすることにした。


「で報告だが……特に何もない。魔力探知も使っているが特定の範囲にくると魔獣どもは避けていくな……レヴィア、お前のおかげだろう?」

「う、うむ……まあな」

「というわけで平和だが、それでも油断しないようにな」

「分かったにゃ」

「うん」


 報告し終わると、先に控室へと戻ることにした。

 これ以上いると怪しんでいるリーリアに詮索されると思ったからだ。

 階段を下り、すぐ隣にある控え室へと入る。

 そこには姿勢を正したナルリースとベッドで寝転がっているシャロがいた。


「お疲れ様ですベアルさん」

「おつ~」

「ああ」


 態度の全く違う挨拶で迎えられた。

 

「何か問題とかありましたか?」

「大丈夫だ何もないぞ」

「そうですか」


 当たり障りのない話をしながら席に座る。

 テーブルの上にはカードが置かれている。

 最近、フォレストエッジで流行っているものである。

 きっと4人で遊んでいたのだろう。

 そんなことを考えていた時だった。


「あ~、僕ちょっと用事があったんだったー。じゃあちょっといってきまーす」

「え!? ちょっとシャロ!?」


 そう言うとそそくさと部屋を出て行ってしまった。

 ……あいつ、気を利かせたつもりか。

 二人で話せというのだろう。


 だが当のナルリースは固まってしまっていた。

 どうやら打ち合わせはしていないようだ。

 ……仕方ないな。


「ナルリース……よかったらカードを教えてくれないか? 俺はまだやったことがないんだ」

「あっ……はい! 私でよろしければ」


 ナルリースの教え方は効率がよく分かりやすい。

 本人の頭のよさもそうであるが、俺のことをよく知っているため、余計はことは言わずに重要な点だけを簡潔に教えてくれた。


「────という感じですが……大丈夫ですか?」

「ああ、分かった。問題ないぞ……教えるのが上手いなナルリースは」

「え、い、いえ! ベアルさんは私なんかよりもずっと頭がいいので教えるのが簡単だっただけで……」

「いいや、これはお前の才能だ。将来、魔法の先生なんて向いてるかもな」

「せ、先生ですか」


 ナルリースが先生になっているところを想像する。

 美人で頭もよく優しい。それに相手を包み込む包容力もあり、ダメなことはダメと言える度量もある。たまにドジっ子な面もポイントが高い。愛される要因しか思い浮かばなかった。

 

 ……うん、絶対に向いてるな。

 俺は確信をする。


「絶対にいい先生になれるぞ」

「絶対ですか……でもそうですね……私もそんな気がしてきました」


 ……しかし先ほどから気になるな……。

 俺はカードを一枚を掴むとドアの方へと投げた。

 それと同時に魔力の糸でドアを開け放つ。

 くるくると回転しながらカードが進んでいき────


「ぎゃあああああ!」


 シャロのおでこへと突き刺さった。

 

「盗み聞きは感心しないぞ」

「シャロ!!? そこで何やってるのよ!」

「ううぅ、ベーさん酷いよぉ! 僕はただナルリースが悩ましい声を上げないように見張っていただけなのに!」

「そ、そんな声上げるわけないでしょ!!!」


 ナルリースは怒りながらシャロの元へ行くと、おでこのカードを引き抜いた。


「ああぁぁぁ!!! 死んじゃう~!」

「大丈夫よ! 薄皮一枚切っただけよ! ベアルさんが調整してくれたんだから感謝しなさい!」

「えぇぇ? そうなの?」


 シャロは自身のおでこをさすった。

 そこには血もなにもついていなかった。


「魔力の糸で切れたような痛みと風魔法で衝撃を与えただけだ。カードは魔力でくっつくように細工した……死にたくなかったら今回のような真似は控えるようにな」

「うぐぐ……わかったよぉ」


 こうして楽しくも騒がしい船旅は終わり、新しい町リアンダに到着したのであった。



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