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82、国の事情とこちらの都合



「コロシアム? 何それ、美味しいの?」


 ここはギルドの一室。ベアルとリーリアはディランから人間大陸の説明を受けていた。


「食べ物ではないぞ、闘技場の名称じゃ! 人間たちが自らの力を戦いで示す場所なんじゃ」

「へえ~そうなんだ」

「……そういえば……そろそろだっけか?」

「うむ。ノームの時季になると開催される大会があるんじゃ……その名も世界最強決定戦という! 人間大陸で行われる大会じゃな」

「世界最強決定戦! そんなのお父さんに決まってるじゃん!」


 リーリアが俺を見てはキラキラと目を輝かせている。

 うーん、期待を感じるぞ。


「俺は過去に優勝しているぞ」

「やっぱりお父さんはすごい!」

「ふふ、まあな」


 懐かしい思い出だ。

 あの時の勇者は強かったな。


「私も出てみたいなー」

「うむ、実は今回の目的はそこにあるのじゃ」

「そうなの!?」

「大会の優勝者には優勝賞品が与えられる。その受け渡し方法が王族からとなっておるのじゃ」

「人間の王様!」

「そうじゃ。その時、城でパーティーに招かれることになっておるのは有名な話じゃな」

「パーティー!? ごちそうでるかな?」

「ふぉふぉふぉ! でるとも! ごちそうを食べながら、【セレアの種】保持者と接触できるかもしれないぞ」

「なるほど!」


 ディランにはすべて話をしてある。

 そしてたどり着いた結論が今回の話のようだ。

 

 セレア曰く、【種】を受け継いだのは勇者ラグナの子孫である。

 勇者ラグナはのちに王となったため、現在の種の保持者は王族に等しい存在であるだろう。

 ならば勇者、あるいは最高ランクの法術使い、『聖女』か『聖天師』である可能性も高かった。

 それらは基本城勤めであるため接触の機会は極めて低いのだ。

 会うためには近々行われる世界最強決定戦に出るのが手っ取り早いという結論になった。


「ちなみに世界最強決定戦は年齢別に分かれていて、人間ならば1歳から20歳の『ジュニア』、21歳から50歳の『ミドル』、51歳から上の『シニア』と3つに分かれておる。魔族ならば人間の歳に0を一つ足せばいい」

「えーと……ということは私は12歳だから『ジュニア』ってことかな」

「そうだな、ちなみに俺は328歳だから『ミドル』だ」

「えー! お父さんと戦えないんだ!」

「残念か?」

「うーん、でもそれだと優勝できないからこっちでいいのかも」


 優勝はしたいけどベアルと戦いたいという複雑な気持ちで揺れ動く。

 

「ところで今思ったんだけど……人間族は寿命が短いんだね。それってすごく不利なんじゃない?」


 リーリアの疑問は誰もが思うことだ。

 実際魔族の中には人間族をバカにしている者もいる。

 だがそれは大きな間違いである。


「人間は寿命は短いが、それだけ成長スピードも速い。言うなれば人間族全員が魔族の才能ある者たちと同レベルのスピードで成長する。だからけして侮ってはいけないんだ」

「そうなんだ!」

「ああ、だからけして油断するなよ」

「うん!」


 実際リーリアの成長スピードもずばぬけて早い。

 【セレアの大樹】という役割を与えられてるとはいえ、そのスピードは俺をもはるかに上回っている。

 成長スピードの世界最強決定戦を決めたら間違いなくリーリアがナンバー1だろう。


「それに確実に勇者もこの大会に出てくるだろう」

「勇者ってあの?」

「そうだ、人間の一番強いやつでもあり、最強の法術使いでもあるあの勇者だ」

「お父さんも認めていた人だよね?」

「ああ……もう生きてはいないだろうが勇者アランは強かった……もしかしたらその子孫とかがでてくるかもな」

「……どきどき」


 もし勇者アランほどの使い手だったらリーリアでも勝てないかも知れない。

 だがまだ子供だったとしたら勝負は分からなくなる。

 まあ、そこは行ってみてからのお楽しみだ。


 俺たちがワクワクドキドキしながら話していたら。ゴホンとディランが咳ばらいをした。どうやらまだ大事な話があるらしい。


「それでじゃな……今回はエルフ王国の代表として参加してほしいのじゃ」

「ほう」

「代表?」


 リーリアは頭に?マークを浮かべていた。

 

「うむ、そうじゃ。この大会は各国の代表を一人送ることになっておるのじゃよ。今やエルフ王国は滅亡の危機に瀕しておりそれどころではない。なのでここフォレストエッジがエルフ王国の代表を出すことになったのじゃ」

「なるほどな」

「ふーん……でもどうして代表なんて出すの? こんな状況なんだから出さなくても文句はいわれないんじゃないの?」


 リーリアの疑問も最もだ、だが──


「リーリアよ……これは国のメンツもかかっておるのじゃ。表向きな大会の主旨は『魔族と人間が切磋琢磨し合い、互いに交流を深め、よりよい世界にしていきましょう』というものなのじゃが……」


 そう言って一旦言葉を区切った。

 ディランはどうやら言葉を選んでいるらしい。


「ディラン、リーリアは賢いから言葉を選ばなくてもいいぞ……つまりは国家同士の見栄やプライドをかけた戦いだ」

「身もふたもないことをいうのう……まあ、あとはあれじゃな。代表が強ければ国も攻められにくくもなる。この大会を通じてお互いけん制し合っているのじゃ」

「……国って面倒くさいんだね」

「そういうことだ」

「うむ、じゃからベアルには代表として出てもらいたいのじゃよ」

「そういえばそんな話だったな」

「代表すごい!」


 俺はしばらく考える……代表となって参加するのは嫌ではない。それに今回の目的を考えると好都合でもある……なんか都合がよすぎないか?

 そう思いディランを見ると、すごい機嫌が良さそうにニコニコとしていた。


「お前……最初からこうなるように話を持ってきたな?」

「うむ、そうじゃよ」


 悪げもなくそういってのけた。


「お主たちにも利点があるし、この国にとっても利点があるのじゃ。わかるじゃろ?」

「まあ、分かるが、なんか悔しいな」

「ふぉふぉふぉふぉ」


 この国は今、大分衰えている。

 だがこの大会で優勝したらどうだろう?

 多分、いろいろな問題が発生する。


 まず第一に考えるのが、こんな強者がいてなんで滅亡した? という疑問だろう。

 各国はエルフ王国滅亡の詳しい事情は知らない。でも俺が優勝することでそういう議題ができ、フォレストエッジとしては利点が多いのだろう。

 そして第二に考えるのが、エルフの国を侵略しようと考えている国が減るということだ。

 個々の力の差で優劣が決まる戦争では、絶対的強者に挑もうとする国はいない。

 下手に刺激をしてしまえば自分の国が危うくなるからだ。


 なのでこの大会はエルフ王国にとっても大事なアピールの場でもあるのだった。

 ディランとしては俺に是非とも代表となり勝ってもらいたいのだろう。


「……はあ、分かったよ。だが報酬はきっちりと貰うぞ」

「ふぉっふぉっふぉ! 分かっとる! はずませてもらうわい!」


 俺たちの目的としても優勝することは近道になる。

 なんだかんだいって受けるしかないのだが、せめてもの反抗として貰えるものは貰っておこう。


「ううぅぅ! すごい楽しみになってきたよ」

「ああ、そうだな」

「まあ大会まではまだまだ時間があるからのう。しばらくはゆっくりと旅の疲れを癒しているといい」

「うん!」



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