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80、懐かしの面々



 数日後、リーリアが目を覚ました。

 俺は目一杯褒めてやり、プリマも涙ながらに感謝をし、レヴィアはよくやったと頭を撫でた。

 リーリアは皆の無事を確認し、安堵の表情を浮かべるとお腹が空いたとかでご飯を山盛り食べていた。

 これだけ食えるなら大丈夫だろう。俺も一安心である。


 帰りはリーリアが助けたというドラゴンが送ってくれることになった。

 とりあえず報告もかねてオルフェの町から船でフォレストエッジに向かうことにした。


 オルフェの町近く、ものすごい勢いでドラゴンを追ってくる奴がいたので近づいてみたら、ドラゴン山岳の麓で戦ったイノシシ魔獣のボクオーであった。

 何をしているのかと聞いたら「言われた通り修行してました!」なんて返答が返ってきた。


 そういえば人の姿でも戦えるように修行でもしとけって言った気がする。

 特に深い意味はなかったのだが、真面目にやってたんだなぁ……感心感心。


「あの! あっしも連れて行ってもらえないでしょうか!?」


 感心していたらそんな言葉がでてきた。

 うーん、連れて行ってもいいんだが……。


「残念だがまだ信用はしていない……そうだな、この近くにオルフェの町がある。そこの冒険者ギルドで数年真面目に仕事をしたら連れて行ってやるぞ」

「本当ですか!」

「ベアルさん!?? 何を言っているんですか!」


 すかさずプリマが、何を言っているんだこの人はという顔で俺を見てきた。


「プリマ……お前にはダンジョンを攻略するって夢があるんだろう? それならばオルフェの町を離れないといけない。そうなると代わりの者を立てる必要がある。ボクオーは強いしうってつけだとは思わないか?」

「でも……魔獣なんですよ!?」

「レヴィアだって魔獣だ」

「うぐ……」


 正直にいうと、もう人魔獣は多くの町に紛れ込んでいる気がした。

 それに全員が全員オルトロスのような考えを持っているわけではない。

 レヴィアのような考えをもって人と交わって生きていこうとするものは絶対にいるはずだ。

 そうした時……人と魔獣の交配を止めることができるだろうか?

 答えは否である。

 例えばレヴィアが誰かを好きになって結婚するとする……なんか自分でいっててイライラしてきたな。この例えはやめるか。

 人魔獣と人が結婚するとなったとき、俺は止められないだろう。

 それが知り合いなら、むしろ祝福することになるだろう。

 ならば遅かれ早かれ人と魔獣は交わることになる。これはもう止められないことだ。


 ならボクオーが町に入り込んで生活したとしても問題がないように思えた。

 問題があるとしたらプリマの心の問題である。


「まあ、プリマが本当に嫌なら止めることにするぞ」

「…………」


 実際問題、オルフェの町は人手不足である。

 ボクオーほど強い者が守るのであれば文句はない。


「……一つ聞かせて」


 プリマはボクオーに向かって真剣な表情で問いかけた。

 ボクオーは頷く。


「エルフを喰らったんだよね……どう、だったの?」


 なんとも煮え切らない聞き方だったが、ニュアンスは伝わる。

 感情を聞いているのである。


「どうもこうもないっす。命令だったから喰らっただけっすから。エルサリオスに歯向かえる実力もなければ考える頭もないんで。ですがこれだけは言えます……あっしはベアルさんもレヴィアさんも裏切らないっす」

「……そう」


 プリマはしばらく長考したあとに大きくため息をついた。


「ボクオーにギルドに入ってもらいます。多分、おじいちゃんもおばあちゃんも喜ぶでしょうから」


 そういうとボクオーに近づき、腕を伸ばす。


「オルフェをよろしくね」

「まかせて下さいっす! 真面目に数年頑張ってベアルさんに認めてもらいますっすから!」


 こうしてボクオーがオルフェの町に残り、プリマはダンジョン攻略という夢のために一緒にフォレストエッジに行くことになったのだった。



 ■



「ベアルさん! リーリア! お帰りなさい!!」


 船から降りてフォレストエッジの町をギルドに向けて歩いていたらそんな言葉が投げかけられた。

 振り返ると、そこには懐かしの面々の姿があった。


「ただいま! みんな!」


 リーリアは喜びを声に出し、元気いっぱいに3人娘の元へと駆け寄った。

 皆に撫でられて揉みくちゃにされながらも嬉しそうであった。

 俺とレヴィアとプリマはゆっくりと近づいていく。


「元気そうだな」

「ベアルさんもお元気のようで」

「ダンナ! あたしさらに強くなったんだにゃ! あとで勝負にゃ!」

「ベーさんは相変わらず元気そうだねー」


 相変わらずマイペースな奴らである。

 その時、俺の裾が遠慮がちに引っ張られるのを感じた。

 プリマが申し訳なさそうに見つめてきていた。

 どうやら紹介してほしいようだ。


 そうだな、特にレヴィアなんかはややこしい。

 説明をしないといけないだろう。


「あーみんな聞いてほしい。まずこちらがプリマといってオルフェの町で出会った冒険者だ。道案内とか戦闘の手助けとかいろいろ世話になったんだ」

「オルフェの町から来ましたプリマと言います! 拳のみで戦うBランク冒険者です! よろしくお願いします!」


 ぺこりとお辞儀をする。

 

「ベーさんまた女を引っかけたの? 今回は巨乳かぁ……ナルリース、ご愁傷様~」

「あたしよりでかいにゃ……やっぱり胸かにゃ」

「あ……あんたたち……失礼でしょうが!」


 本当ににぎやかな奴らだ。

 俺は頭を抱えたくなった。


 そこでリーリアがプリマの横に並び、えっへんと仁王立ちする。


「プリマと言ってね、私の弟子なんだ」


 そう言ってプリマの背中を押しだした。

 それに反応するようにナルリースも前へ出た。 


「私はナルリース、Aランク冒険者よ。この町で妖精の輪舞曲フェアリーロンドっていうパーティー名でやってるの。よろしくね!」

「あたしはジェラにゃ! 同じくAランクにゃ! よろしくにゃ!」

「僕はシャロ~、右に同じ~」


 ナルリースから順に握手をしていく。

 ……さすが冒険者といったところか。

 挨拶となるとみんなキチンとするようだ。

 一人だけ適当な奴がいるが。


「それでこっちがレヴィアという……まあ、お前たちも会ったことのあるやつだ」


 俺がそう言うと3人娘は頭に?を浮かべていた。


「こんな美少女会ったことあったかなぁ~。すごい可愛いし見たことあるなら忘れることはないと思うんだけど」

「そうね……水色の綺麗な髪だし、初めてな気がするわ」

「うーん……分からないにゃ」


 ふふふ、やはり分からないか。

 どんな反応をするか楽しみである。


 俺が目配せをすると、レヴィアが待ってましたとばかりに前へ出る。


「ナルリース、ジェラ、それにシャロ……我が水魔法でたっぷりとしごいてやったのを忘れてしまったのか? 4年間も一緒に過ごしたのに悲しいぞ」


 そう言って、水魔法でリヴァイアサンの彫像を手のひらサイズで作って見せた。

 すると3人娘は口を大きく開き、


「ええええええええぇぇぇぇぇ!!! リヴァイアサンなのぉぉぉぉぉ!!!」

「うそにゃあああああ!!!! まさかそんにゃああああああ!!!!」

「わあぁぁぁぁぁ! 可愛いねぇぇえぇ!!!」


 まさに開いた口が塞がらないといった風で驚いていた。

 思った通りの反応で俺はニヤニヤが止まらなかった。


「ふふふ、そういうことだ。今はレヴィアと名乗っておる。おぬし達も息災でなによりだ」


 レヴィアもまんざらではないようで笑っていた。


「そ、そうだったのね……それにしても……見た目が年下っぽくなっちゃったからちょっと戸惑うわね」

「確かににゃ……あの、イカツカッコイイ姿はなくなってしまったのかにゃ?」

「そんなのどうでもいいよぉ~、今がめっちゃ可愛いじゃん……もしかしてもうベーさんのお手付き?」

「お前は自重しろ」


 いつの間にかレヴィアに近寄り、体を触っていたシャロの頭にチョップをくらわせる。

 

「ベーさんひどいよー! ぶーぶー!」


 まったく……本当に騒がしい奴らだ。

 だが、帰ってきたという実感がわく。

 もうフォレストエッジは第二の故郷と呼ぶのにふさわしい場所なのかもしれないな。


「ねーねー、ところでリーちゃんの弟子ってどういうこと?」

「それはね────」


 ──女性の話は尽きない。

 しばらく眺めていたが永遠に続きそうだった。

 仕方ないので俺は皆を放っておいてギルドに向かうことにした。



 ■



 ギルドでの報告が終わり、無事に残りの報酬を受け取った。

 ディランは事の深刻さに、ずっと唸りっぱなしだったが、最後にはよろしく頼むと頭を下げられた。

 すでに人がどうにかできる範疇を超えてしまっていたからだ。

 俺とリーリアに託すしかないという結論だろう。

 「わかった」と返事をしたら大層驚かれた。

 頼んどいてそんなに驚くなんて心外だと言ったら、「お前は本当に変わったな……もちろん男前にな!」と褒められてしまった。

 むず痒いのだが悪い気はしなかった。


 フォレストエッジの周辺も大分落ち着いたとのことだった。

 エルフの森も駆除は進み、今は殆どが安全圏だとか。

 なんでもギルド連盟に応援を要請したところ、魔族大陸のSランク冒険者が駆けつけてきてくれたようだ。

 

 「ベアルの知ってるやつじゃよ」と言ってニヤニヤしていた。

 

 Sランクで俺の知ってるやつか……まあ俺の仲間だった3人のうちの誰かな?

 そんなことを考えていたら突然扉のドアが開け放たれた。


「よお! ベアル! 久しぶりじゃねえか!!」

「ケルヴィ! お前だったか!!」


 熱い抱擁……なんてものはしないが、互いに肩を小突きあう。

 それだけでお互いが気の知れたやつだということを再認識できる。


 ケルヴィは拳一筋でSランクまで上り詰めた男であり、プリマにとっては目指したい人物でもあった。


「ベアルよぉ……声をかけてくれたら俺も一緒にいったものを」

「うるせえ、お前は飛べないじゃねえか」

「ちがいねえ!」

 

 互いに声をだして笑いあう。

 こいつはビックリするほど何も変わっていなかった。

 そのせいか俺もついつい昔のように口が悪くなっていた。


「ていうか聞いてくれよ……そこの爺さんまじで弱くなっててメッチャこき使われたんだよ」

「ああ、そうだろうな」

「うるさいやつじゃ。お前もわしの歳になれば気持ちが分かるわい」

「……ああやだやだ。小言は増えてるし、歳は取りたくないねえ」

「お前はもっと落ち着くべきじゃよ」

「ははは、確かにな」

「ちっ、酒も飲んでねえのにこんな会話してられっかよ! てかおい。今日は飲めるんだろ?」


 くいくいとグラスを傾ける動作でニヤニヤしているケルヴィ。


「ああ、少しこの町で休んでから旅立つさ」

「そうこなくっちゃな! おいじいさん! 今日はおごってくれるんだろ?」

「仕方ないのぉ。今日だけはおごってやる! ベアルの帰還記念もかねてな!」


 俺たちは今夜、倒れるまで飲むことになるのだった。

 


 ■


 

 次の日、俺は久しぶりに日が高くなった所で目覚めることになった。

 どうやらいつの間にか宿で寝ていたらしい。

 横を見るとリーリアがベッドに腰を掛けて、俺の顔を見ていた。


「お父さんおはよ。もうお昼だよ」

「ああ……そのようだな」


 水を飲もう。そう思ってゆっくりと起き上がろうとした。

 だが何を思ったのか、リーリアがそれを阻止して俺の上に馬乗りとなった。


「ん、どうしたリーリア?」


 憂いを帯びた視線で見下ろしてくる。

 そして決心したかのようにこう言った。


「お父さん……このままずっとここにいない?」


 リーリアにはすべて伝えてある。

 これから何をするのか、そしてリーリアが戦わなくてはいけないことを。

 不安になるのは無理もなかった。


「リーリアがそうしたいのなら俺はそれで構わない」

「えっ?」


 俺の返答が予想外だったのだろう。

 驚いた表情をしていた。


「ぶっちゃけ世界の事なんてどうなっても構わないんだよ」

「そ、そうなの? でもカオスと戦うんでしょ?」


 俺は首を縦に振った。


「戦う……だがそれはな……リーリアのためだ」

「私の?」

「ああ、お前と一緒に過ごす未来を守りたいから戦うんだ。もしリーリアが戦いたくないのであれば俺が戦って倒す……だから、リーリアが嫌ならこの町に残ってもいいんだ」


 リーリアが頭を振る。

 するとぽたぽたと胸の上に涙がこぼれおちる。


「いやだよ……お父さんが死んじゃうのもいやだ」

「お父さんは死なないよ」


 俺はそっと手を伸ばし、涙を手でぬぐってやった。


「でもカオスは強いんでしょ!? 私、今回の旅で思い知った! 世の中には本当に化物みたいな強さのやつがいるって!! だったらもう戦わないでここで3年間幸せに過ごした方が絶対いい……って……やだ……も」


 最後は涙と嗚咽で続けられなかった。

 俺は手を伸ばしてリーリアを引き寄せる。

 そしてそのまま胸に抱くと優しく頭を撫でた。


「ごめんな。辛い思いをさせちゃったな……本当にダメな父親ですまん」

「うぅ……おと……うさん…………」


 俺は本当にバカなやつだ。

 ここまで思い詰めていたのに気づいてやれなかった。

 

 本当に3年間何もしないでここで生活してもいいのかもしれない。

 リーリアの笑顔が一番ではないのか?

 未来のためと言って3年間……いや、もしかしたら永遠に悲しい顔をさせてしまうのではないか?

 俺の心は揺らいでいた。


 俺たちはしばらく抱き合ってお互いの鼓動を感じていた。

 心臓の鼓動がまるで子守歌のように心を落ち着かせてくれた。

 そのおかげか少しだけ心に余裕ができた。

 リーリアも同じようで泣き止んでいるようだった。


「お父さん……私嘘ついてた」

「そうなのか?」

「うん、カオスが怖いっていうのは本当だけど、人間大陸に行きたくなかったっていうのが本音……」

「ああ……それは俺もいきたくないかもな」

「お父さんも?」

「そうだぞ……リーリアが本当の親に取られてしまうんじゃないかって不安なんだ」


 今日の俺は素直だった。

 まあ、たまにはこんな日もいいだろう。


「えへへ……そっか。うん……大丈夫だよお父さん。私はお父さんの元から絶対に離れないから」

「それはとても嬉しいな」

「ふふ、なんかお父さん素直でかわいい」

「はは、可愛いか」

「うん、かわいい」


 リーリアはそのままギュッと俺の首元へと抱き着く。

 髪のいい匂いが俺の鼻腔をくすぐった。

 その匂いにつられてか、俺は自然と言葉がでていた。


「リーリア……明日デートしないか?」

「えっ……いいの!? する!!!」


 興奮したのかリーリアはその場で反動をつけてぴょんとジャンプをして床に着地した。

 そして言うが早いか、


「そうと決まれば準備しないと! それじゃ明日ね!!」


 そう言って急いで飛び出していった。


 ……まあ、元気になってくれたのなら良いことだ。

 一人残された俺は再びベッドに横になるのだった。



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