表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/247

8、魚の焼き方と訓練



 お腹がすいたので朝食の準備を始める。

 リーリアはいつものようにファイアーボールを発動させた。

 地面すれすれで止まり、その場で燃え続ける。

 

「今日は燻製にする?」

「そうだな、それで頼む」

「おっけー」


 手際よく串に刺し地面に刺す。

 しばらくすると燻製独特の良い匂いがしてきた。


「うーん美味しそうだね!」

「ああ、やはり燻製はいいな」

「燻製最強だね」


 俺もリーリアも燻製が大好きだ。

 手間はかかるが、日持ちもよく深みのある味は評価に値する。


「ではいただきます」

「いただきまーす」


 無造作に魚の背中からかぶりつく。

 もぐもぐ……美味い!


「ところでリーリア、そろそろ魔力操作もなれてきたな?」

「うん、特に意識しないでファイヤーボールを維持できるようになったよ」


 最初の頃は必死に操作していたが、今や火炎球の操作程度なら朝飯前だ。

 他の作業をしながらでも楽々にこなしていた。

 

「じゃあ魔力操作の訓練は一区切りだ。明日からは薪で魚を焼くぞ」

「え?」


 きょとんとするリーリア。

 何故? といったふうだ。


「理由は簡単だ。薪の方が魚が美味くなる」

「え? そうなの!?」

「ああ、木独特の香りというか、あとは味だな。抜群によくなる」

「え……えええぇぇ!!」


 リーリアにとってそれは青天の霹靂だったようだ。

 カタカタと震え俺を睨む。


「……お父さん……」


 え、怖い。

 俺がリーリアの形相に脅えていると。


「なんで今まで言わなかったの! もういい私島からでていく!!」


 ガーン


 今朝あれほど一緒にいようねって誓い合ったばかりなのに!

 あの時の気持ちはどこいったんだ!?


 食いしん坊であることは知っていたがここまで怒るとは思わなかった。

 でも訓練の一環としてやっていたことだ。許して欲しい。


 美味しい美味しいと食べていた魚は、実はもっと美味しい食べ方が在ると知ったのがショックなのだろう。

 わなわなと震え、リーリアは手中の燻製魚を見ていた。


「ごめんね、美味しく食べてあげられなくてごめんね」


 すごい罪悪感だ。

 なんだかすごい悪い事をした気がしてきた。


「リーリア……その、悪かった」


 するとハッとこちらを見る。


「あ、言い過ぎてごめんなさい。違うの……お父さんは悪くないよね……訓練だったってことはわかってるし……悪いのは私。もっと早く魔力操作をマスターしていればこんな事にはっ!」


 地面に拳を突き立て、本気で悔しがるリーリア。

 いやいや、十分早いんだが……ていうかそんなに?

 

「ま、まあ今日の昼から美味しい魚を食べよう、なっ?」

「!!! それはすごい楽しみ! どれだけ変わるんだろ」

「…………………………おう」


 今後、料理に関してはリーリアに任せよう。そう心に誓うのだった。


 

 ■



 今日も今日とて、浜辺での日課や訓練は欠かさない。 

 

「お父さん! いくよっ! ファイアーボール!」


 リーリアの手から放たれた特大な火炎球は、俺に向かって一直線に向かっていく。

 

「ウインドシールド」


 火炎球が当たると思われた瞬間、俺の風盾ウインドシールドにより火炎球はあらぬ方向に飛んでいった。


「まだまだっ! ストーンランス! そして分散して!」


 特大の石槍ストーンランスを出現させ、それを数十本もの石槍へと分散させた。


「ほう、それをどうする?」

「こうする! いけっ!」


 号令に従い放たれる石槍。

 しかしその起動はまっすぐではなく、グネグネと曲がり俺の四方八方へと配置され静止する。

 数十本にもわたる石槍に囲まれた俺。ピンチ。

 

「お父さん、覚悟っ!」


 ドスドスドスッ!


 俺は石の槍につらぬかれ──なかった。


 石の槍は俺を避けるように砂浜に突き刺さっている。


「えっ! なんで!?」


 驚いたリーリアは一瞬だけ思考が止まっていた。

 その瞬間を俺は見逃さない。

 一足で距離を縮めリーリアの腕を掴み足払いをする。


「──あっ!」


 ドテーン


 リーリアは豪快に浜辺に倒された。


「……魔法を撃ったら終わりではないぞ、常に次の行動を考えろって言ったはずだが?」


 砂浜に寝転ぶリーリアを上から見下ろし、難しい顔をしながら仁王立ちする。


「だって……お父さんは何もしてないのに石槍が当たらなかったから……」

「ふふっ、本当に何もしてないと思うか?」

「えー……うーん、なんだろ」


 寝転びながら腕を組み、うーんうーんと何度も首をひねり考える。

 俺はニヤニヤしながらそれを見る。


「ね、ヒント頂戴!」


 わからなかったのだろう、手を合わせてのお願いポーズ。


 俺に唯一の弱点があるとするならば、リーリアのお願いだろう。

 最愛の我が子に頼みごとをされて断れると思うか?


 否!


 自信を持って言える! 俺には無理だ!


「仕方ないな……石槍を魔力の糸を使って空中で静止させてただろ?」

「うん、まっすぐに飛ばしても防がれちゃうと思って」

「それで周りを囲もうと思ったわけか」

「うん、少なくとも動きは封じれるかなって」


 なるほどな、よく考えている。

 俺の動きを抑制する事で、自身の次の行動がやりやすくなる。

 しかし、石槍の予想外の軌道に面食らってしまったと。


「その時に違和感はなかったか?」

「え……違和感? あったかな……」

 

 寝転んだ体勢から起き上がり足を伸ばすと、難しそうな顔をして腕を組んだ。

 あーでもないこーでもないと呟きながら色々と模索していたが、ついに「あっ」と声を上げると、ぴょんと飛び上がった。


「もしかして、私が石槍を放った後に操作を奪ったの?」

「惜しい」


 なんとなく手をリーリアの頭の上にのせる。そのまま撫でていると嬉しそうに目を細めた。


「正確には放つ前だな」

「えっ! 嘘!」

「リーリアの掛け声に合わせて俺が自分で放ったんだ」

「気が付かなかった……」

「無意識で魔力操作をできるようになると起こしてしまう事例だな」


 ショックを受けたようで開いた口が塞がらないようだ。


「あの瞬間にそんな事をできるお父さんもすごいけど、切断されていた事に気が付かなかったなんてショックすぎるよ」

「まあこればかりは年季が違うからな」


 魔力操作は慣れである為、長寿の種族は強い者が多い。ハイエルフやドラゴンはそれこそ息を吸うように扱えるし、髪の先端で触られた程度でも気付けるほど敏感だ。一瞬の気の緩みが命取りとなる場合もあるため常に警戒しなくてはならないのだ。


「だけどもう少し意識することも忘れないように。そうすれば糸が切断されたこともすぐに気が付けるはずだからな」

「うん! もっと頑張る!」


 リーリアの良い所は、すぐ反省してそれを取り入れることだ。

 努力を惜しまず、吸収も早い。

 俺の子供の頃と大違いだ。変にプライドも高かったし、反抗してばかりだったのでオリアスは苦労しただろう。

 

 しかし今後の課題もわかったな。次は魔力感知の鍛錬をしないとなるまい。

 

「お父さん! もう一度やろっ!」

「ああ、次も容赦はしないぞ」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ