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79、レヴィアの苦悩



 微笑みながらセレアは言う。


「ふふ、実際ベアルはすでにアイナノアを超えています。それにまだまだ底が見えませんし、本当に勝てるのではと思ってしまいます」

「ふはは、まあ精々あがいてやるさ。セレアも俺が守ってやる」

「……はい、嬉しいです」


 セレアは寄り添うように隣に座ると腕を抱いてきた。

 うん。やはりこうしていると普通の女の子だな。


「ところでセレア様! オルトロスの肉片はどうしたらいいと思いますか?」


 空気どころか俺たちの会話が分からない長老が突然話を切り出した。

 そういえばそんな話もあったな……。

 衝撃の事実が多すぎて忘れていた。


「それは予定通りレヴィアに授けてください……まさか魔獣に【種】が移るとは思っても見ない誤算ではありましたが、仲間にレヴィアがいてくれたのは闇夜の灯と言えるでしょう」

「ということは【種】は確実に引き継がれるとみて間違いないのか?」

「はい、大丈夫でしょう。おそらくですが、人魔獣となれる者は一般的な魔獣とは一線を画した存在のようです。【種】を引き継げるのは人魔獣のみだと考えます」

「なるほどな。ならばレヴィアに引き継いでもらうのが一番だな…………ちなみにこの肉片から【種】だけを取り出すことはできないのか?」


 俺がそう聞いてみると、


「無理です。条件は先ほどから言っている、血のつながりがある事と、人魔獣が喰らう事のみです」

「そうか……」


 まあレヴィアなら信頼できるし、喰らってもらうのが一番だろう。

 俺が決心を固めていたら、セレアが『そうそう』といって言葉を続けた。


「カオスが復活する時に【種】をリーリアに集めることになるので、今はまだその時ではないのです」

「そうだったのか……ではいつが『その時』なんだ?」

「多分ですがカオスの復活は約3年後。なのでそれまでは出来る限り【種】を成長させて欲しいのです」

「3年後なのか!?」


 この発言には長老も頷く。


「うむ、その通りだ。魔獣区画に封印されているのだが、すでに肉眼でもわかるくらいに封印が解けそうである」

「そうだったのか……」


 魔獣区画の魔獣の強さの秘密が分かった気がする。

 カオスの魔力に当てられ、その相乗効果で力をつけていたとしたらあの強さにも合点がいく。

 もしかしたらこれからはオルトロス級の魔獣がうじゃうじゃと現れるかもしれない……そう思うとぞっとする。


「……んで結局、オルトロスの肉片は喰らった方がいいのか?」


 当の本人であるレヴィアがついにしびれを切らして聞いてくる。

 そうだった。

 いつまで引っ張っても仕方ないし、さっさと喰らってもらうか。


「ああ、結論はでた。よろしく頼む」

「ではこれを……よいしょっと!」


 長老が後ろのふすまを開けると、巨大な箱があり、それをズドンとレヴィアの前に置いた。


「こんなに大きいのか!?」

「できる限り回収したオルトロスの肉片全部セットだ。さあ、遠慮しないで喰らってくれ」


 レヴィアは巨大な箱の蓋を開けた。

 俺も好奇心から覗いてみたが……これを喰うとか正気ではない。

 心なしかレヴィアも嫌そうであった。


「うぇ……まずそうなのだ」


 あ、本音がでた。


「でも食べてもらわないと世界が……」


 長老もプレッシャーを与えてくる。


「これ焼いちゃ駄目?」


 せめてもと反抗するレヴィア。


「焼いてもまずかったら余計に食べにくくなりますぞ」

「……べ、ベアルゥ……助けてほしいのだ」


 甘えた声で詰め寄ってきたので、仕方ないから優しく声をかけてあげることにした。


「レヴィア……頑張れ!」


 俺はとびっきりの笑顔で言ってやった。


「うわーん! ベアルはやはり鬼畜なのだぁー!」


 屋敷にレヴィアの声が響き渡るのだった。



 ────────



 泣きながら床にうつ伏しているレヴィアがそこにいた。


「うぇ……まずい……これほど人の姿でいたことを後悔したことはないぞ」


 レヴィアは頑張った。

 一口目から顔をしかめ、不味いと言いながらも飲み込んでいた。

 そうしてようやく全てを食べ終わるころに、【種】がレヴィアの中に宿ったのをセレアが確認した。

 皆が喜ぶ中、レヴィアだけはげっそりしている姿が妙に可笑しかった。


「ベアルが笑ってる……ひどいのだ」

「すまんな。どうやら俺はレヴィアが苦労していると喜んでしまう体質のようだ」

「……やはり鬼畜なのだ」


 そう言いながらもちょっと声は嬉しそうだ。

 

 食べ終わってから、リヴァイアサンの姿になって一気に飲み込んでしまえばよかったのではと思ったが、さすがに可哀そうなので言わないでおいた。


 未だに床にうつ伏しているレヴィアを哀れに思い、俺は近寄ると頭を撫でてやった。


「よく頑張ったな偉いぞ」

「~~~~~~ッ!」


 レヴィアは顔を真っ赤にし、硬直して動かなくなってしまった。

 ……本当に面白い奴だ。


「……で、どうなんだ? 力のほうは」


 少なからずオルトロスを喰らったことになる。

 今までの経験上、かなり強くなったと思うのだが。

 レヴィアはパッと顔を上げると自身の力を確認するかのように手を開けたり開いたりしていた。

 

「うむ、多分だが……今ならあの時のオルトロスにも引けを取らん気がするぞ」

「ほう、それはいいな」

「だがな……」


 レヴィアの見つめる先には俺がいる。

 だがそれは俺を見ているようで見ていない。はるか遠くを見続けているように儚い表情をしていた。

 いつもと違う表情に俺は戸惑った。


「どうしたんだ?」

「……我は強くなった。だが同時にベアルが遠くなった気がしてな」

「そうか? 正直俺としてはそろそろヤバいと思っているんだが」

 

 俺がそう言うと、レヴィアは首を左右に振った。

 

「このレベルまできてようやく気がついたぞ……ここから先は特別な者だけが上れる階段のようだ」

「…………」

「魔力だけ上がっていても仕方ないのだ。なにか……抜けた何かを手に入れなければ……例えるなら、お主の黒い炎のようにな」


 そう言って目を閉じると考え込むように頭を抱えた。

 

「我は頭もよくない。かといってこれといった特徴もない。強いてあげるなら再生能力だがオルトロスには足元にも及ばぬ」


 レヴィアはしばらくボソボソと独り言を言ったかと思うと、すぅーっと何かを悟ったかのように悲しげな瞳で見つめてきた。


「…………お主は優しかったのだな……我と、文字通り遊んでくれていたわけだ」


 そう言って落ち込んでしまった。

 うーん、レヴィアは十分に強いと思うのだが……。

 確かに決め手が欠けているのかもしれないが、そんなこと言ったら俺以外の奴は殆どそうである。

 

「レヴィア、少なくともお前は強かったぞ。俺が遊べるくらいにはな! そもそも他の奴じゃ遊びにもならん! それに成長スピードはお前がナンバー1だ。自信を持て」

「うむ、ありがとうなベアルよ」


 そういうレヴィアだったが表情は晴れていなかった。

 どうやら俺は言葉を間違えたらしい。

 しばらくはその場を沈黙が支配した。



 ■



「……とりあえず今後のことについて話すか」

「そうですね」


 レヴィアの体内に無事に【セレアの種】が宿った。

 それはセレアが確認をしたので間違いない。

 当の本人は一人になりたいとかで部屋を出てしまっていた。


 うーん、大丈夫だろうか。


「あなたはたまに鈍感ですね」

「え?」

「いえ、なんでもありません。まあレヴィアは大丈夫ですよ」

「そうか」


 どうやら俺が分かっていないだけらしい。

 まあ、分からんことをあれこれ言っても逆効果にしかならないだろう。

 今は先のことを考えよう。


「まずは【種】の保持者を4人集めましょう。残りはあと一人です」


 【種】の保持者……それは俺、レヴィア、ナルリース、残りの一人である。そして大樹の役割がリーリアだ。


「あと一人はどこにいるか分かるのか?」

「はい。あと一人は人間大陸にいます」

「そうか……」


 行きたくない。

 まずそんな感想が思い浮かんだ。

 リーリアは十中八九、人間大陸生まれである。

 

 島に流れ着いた時にかけられていた法術は高位のものであった。

 となると王家に属すものだろう。

 そうなってくると……とても面倒くさい。

 【種】の保持者も勇者ラグナの血を引くものだと考えると、リーリアとは血のつながりが近い人物なのではないだろうか。

 

 それに……もし、本当の親がでてきたら……。

 返してくれと言われたら……。

 

 そう思っただけで震えが止まらなかった。

 正直、人生で今が一番恐怖を感じている。


 もちろんリーリアを手放す気なんてない。

 リーリアは俺の娘であり、ここまで育ててきたのも俺だ。

 例え本当の親がでてこようが関係ないし、リーリアだって親とは言っても会ったことのない人なのである。

 リーリアが俺の元から離れるわけがないのだ。


 そんなことは分かっている。

 だが……震えるのはどうしてなのだろう。


「ベアル……大丈夫ですよ」


 その時、セレアが優しく俺の手を握ってくれた。

 すると、ぴたりと震えが止まるのだった。


「リーリアは大丈夫です。私が保証しますから」

「……ありがとう」


 俺は深く頭を下げた。



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