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77、セレアの種



「よくぞ倒してくれた。礼を言う」


 俺たちはドラゴンの里に招かれていた。

 里は意外にも木造建築の屋敷で、中に入ると草が編んでいる床に紙でできた扉など、古い時代を思わせる造りとなっていた。

 古臭い屋敷の一室に招かれ、暖炉のような火を扱う場所を中心に囲み、ドラゴンの長老と会話をしていたのだった。


「竜王は残念だった……」

「そうだな……」


 俺としても竜王がやられるとは思ってもみなかった。

 長老としても同じらしく苦悶の表情でいた。

 それはドラゴン族全員がそうであった。それだけドラゴンにとって竜王の存在は大きかった。

  

 本来なら竜王から話を聞くはずだったのだが、今回の事態となってしまったために、ドラゴンの里で一番偉い長老と話をしていたのだった。


「いや、すまない……オルトロスを倒したのはリーリアだから、目覚めたら改めて礼を言ってあげてくれないか?」

「……そうか、そうだな。分かった、そうしよう」


 リーリアはあのあとすぐに倒れ、今はぐっすりと眠っていた。

 命に別状はないが、魔力を消費しすぎたために倒れてしまったのだ。


 通称『魔力酔い』

 一度に枯渇するほど魔力を消費してしまったときにおこる現象だ。魔力を扱いだしてすぐの初心者などに起きやすい現象である。

 今回リーリアは自身の限界をはるかに超えた魔力を一時的に保持し、なおかつそれを一気に消費してしまったために普段とは違う負荷がかかってしまったのだ。

 そのため昏睡状態となり現在はこの屋敷の一室を借りて休ませてもらっている。

 プリマも疲れたとかでリーリアの隣でいびきをかきながら寝ていたな。のんきな奴である。

 レヴィアに関しては長老の方から一緒に話がしたいとかで俺の隣にちょこんと座っていた。


「我にも話があるとのことだが、何の用なのだ?」


 レヴィアは早速、話を切り出した。

 長老はもう一度、茶を一口すするとゆっくりと語りだした。


「単刀直入に言おう。オルトロスの肉片を喰らってはくれまいか?」

「なに!?」

「ほう?」


 なんでそんな話になるんだ?

 喰らってどうするんだ?


「すまん、単刀直入に言い過ぎたようだ。まずは順を追って話そう」

「……ああ、そうしてくれると助かる」


 いきなりそんなこと言われても訳が分からない。

 俺たちは知らないことが多すぎる。


「セレア様の力を操っていたから知っていると思うが、我々も【セレアの種】を代々継承していた一族だ。そして私には孫が一人いた」


 エルサリオスから聞いていたから何となく分かっていた。

 それぞれの種族が【セレアの種】を受け継いでいたと言っていたな。それにもれなくドラゴン族もそうだったというわけだ。


「我々は定期的に魔獣が増え過ぎないように魔獣区画へ討伐をしにいっていた。その時に孫は……喰われてしまったのだ」

「それがオルトロス……?」


 長老は頷いた。


「【セレアの種】は一子相伝ではあるが、持ち主が死んでしまった場合は親、もしくは血縁者へと受け継がれる。そうでもしないと途中で途切れてしまうからな」


 確かにそうだ。

 一万年という長い期間で死なずに受け継がれてきたなんてことはないだろう。どこかで必ず事故や病気などで死んだこともあるはずだった。


「だが……孫が喰われたときに【セレアの種】は誰のところにも戻ってこなかったのだ」

「なるほど……ところで【セレアの種】の持ち主が誰なのかはドラゴン族は分かるのか?」


 もちろん俺はわからん。

 そもそも自分が持っていたのもつい最近まで知らなかったのだ。


「ドラゴン族にも分からない。だが竜王様はセレア様の使いであるためにそれを見極めることができた」

「なに!? 竜王がセレアの使いだと!?」


 初耳だ。

 そういえばセレアが消滅のブレスの力を与えたと言っていたっけか。

 

「そうだ。そもそもセレア様は世界そのものである。我々がこうして生きて生活できるのもセレア様のおかげなのだ。敬うようにな」

「…………」


 伝説級精霊のセレアは世界の精霊であった。

 ……なんとなくそんな感じはしていた。

 【セレアの種】なんて大層な物があるくらいだ。

 それにあの力……この世界そのものがセレアだと言われて納得がいった。


「……話を戻そう。【セレアの種】が戻ってこなくて我々は焦った。私は魔獣を侮ったこと、孫をそこに向かわせてしまったことに忸怩じくじたる思いでいた。だがそれ以上に魔獣に【セレアの種】を奪われてしまったことが我々の焦燥感を煽っていた。 ……セレア様に合わせる顔がないと」


 悔しそうな、悲しそうな。いろいろな感情がぐちゃぐちゃに混ざり合ったような顔をして語っている。

 今でも後悔しているのだろう。

 長老の手は震えていた。


「我々は竜王様に頼った。これは内密にしていい問題ではなかったからな。だが、すべては後手後手だったのだ。竜王様が魔獣区画へ向かったときオルトロスはすでに動き出していた」

「この里に向かってか……」


 俺がそうつぶやくと、こくりと長老は頷いた。


「空を偵察していたドラゴンの報告によってこの里に向かっているのが分かった。だから竜王様が戻ってくるのを待ちながら戦いの準備を進めた」

「なるほどな……」


 その後は俺たちも知っての通りというわけか。

 ん? だとすると最初に言っていたことは……。


「もしかして、今も【セレアの種】は誰の元へも戻ってきていないのか?」

「……その通りだ」


 オルトロスは死んだ。

 死んだ場合は血縁者の元へ帰るはず。

 だがそれがない。


「もしかしてだが【セレアの種】の血縁という概念が変わってしまった?」

「そうかもしれぬし、そうでないかもしれぬ。だが、もしオルトロスが生きているとしたら?」

「なに!?」


 俺が現場にたどり着いた時、リーリアが丁度トドメをさすところだった。

 そしてリーリアが核を剣で突き刺すところを見ていた。

 確実に殺したはずであるが……。


「……これを見てほしい」


 長老はそう言うと小さな箱を取り出し、蓋を開けて中身をこちらに見えるように差し出す。

 箱の中には小さな肉片が呼吸をするように動いていたのだった。


「これは!?」

「生きておるのか!?」


 先ほどまで黙って聞いていたレヴィアも驚いて箱の中身を凝視する。


「そうだ、生きておる。 ……だがいつまで動いているのかは分からない。そこで最初のお願いというわけだ」


 オルトロスの肉片を喰らってくれと言った。

 当然レヴィアにだ。

 長老や他のドラゴンもレヴィアが魔獣だということは知っている。

 もちろんレヴィアがドラゴンを救ったということも。

 

「……なるほどな。うまくいけばレヴィアに【セレアの種】は入るというわけか」

「そうだ、お願いできないだろうか?」


 俺は隣にいるレヴィアを見た。

 レヴィアも俺の顔をじっと見たと思ったら、何やら考え込んでしまっていた。

 何か気になることでもあるのだろうか?


「レヴィア……何か気になることがあるなら今のうちに聞いておけ」

「……うむ、そうだな。長老、もし【セレアの種】というやつが同じ人の中に二つ存在してしまったらどうなるのだ?」

「……はて?」


 長老は質問の意味が分かりかねぬという表情をして渋い顔をしてしまった。

 もちろん俺も意味が分からない。

 レヴィアはそもそも【セレアの種】を持ってないよな?


 二人の変な表情を見たからか、レヴィアは真面目な顔でゆっくりと説明しだした。


「だって【セレアの種】は一子相伝なのだろう? 我とベアルの子供ができたら、その子にベアルと我の【セレアの種】が入ってしまうではないか」


 俺はずっこけそうになるのを必死にこらえた。

 えーっと……こいつはまだそんなことを考えていたのか。

 長老も驚いたような顔をして、俺の方にゆっくりと顔をむけ、「お前たちコレなのか?」と小指を立ててきた。


「違うから安心しろ」

「なーぜーだー!」


 隣でジタバタと暴れ出した。

 仕方ないので首根っこをつかみ大人しくさせた。


「でも実際どうなのだ?」


 どうしても気になるらしい。レヴィアは質問を続けた。


「それは分からない……一人に種が二つなどとは聞いたこともない。そんな事例もないからな」


 結局わからないということだ。

 そもそも異種族同士で交わることもなかったのだろう。


「…………だが、種はやがて大樹へと実るだろう」

「それはどういうことだ?」

「詳しいことは分からぬが……もしセレア様と会話ができるのなら──」

「会話ならできるぞ」

「それは本当か!!?」


 がばっと乗り出すような勢いで顔を近づけてきた。

 めっちゃ顔近いんですけど……。

 その様子を見たレヴィアが変な顔をして睨んでいた。


 俺は後ろに後ずさると、「ああ」と答えた。


「俺とリーリアは会話できる」

「なんと……見えるものは今まで何人かいたが、会話までできたのはこの一万年でお前たちが初めてだろう。それはすごいことだぞ」

「そ、そうだったのか」


 確かに普通じゃないとは思っていたが、そんなにすごいことだったとは。


「ならば直接聞くのが早かろう。今会話できるのか?」

「多分できる」


 俺は心の中でセレアを呼ぶ。

 すると、さっきからそこにいたかのように自然と横に現れた。


「きたぞ」

「おぉ……セレア様! ありがたやありがたや」


 長老はあさっての方向を向いて拝んでいた。


「わかるのか?」

「わからないが、何となくそこらへんが温かい」

「全然向き違うぞ」


 セレアを見ると優しい顔で微笑んでいた。


 俺はあさっての方向を向いている長老を無視し、早速話を聞いてみることにした。

 


誤字脱字報告ありがとうございます。

ものすごーく助かっております!

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