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76、魔竜王オルトロスの最後



 時間にしてちょっと前、リーリアとプリマはレヴィアと合流していた。

 立ったまま寝ていたレヴィアにヒールをして傷口を癒し起こしたのだった。


 その時、遠くの戦地で光り輝く何かがあった。

 光は強く、戦場すべてを照らし、リーリア達の横長い影を作る。

 

「あれは何かな!?」

「ふむ、不思議な光だの」

「あれは……」


 リーリアには何となく胸の奥に感じるものがあった。

 あれはお父さんだ。お父さんが戦っているんだ!

 しかも先ほど、同じ方向からは恐怖をおぼえるほどの魔力を感じた。

 おそらくその正体は魔獣を率いるボス『オルトロス』だろう。


「お父さんが戦ってるんだよ! すごいよ!」

「うむ、そう考えるのが妥当なのだな」

「ふえ~、もう別次元だね」


 しばらくその光を見つめていた3人だったが、急に光が収まるのを目視できた。


「終わったのかな?」


 プリマがそうつぶやいた時だった。


「まずい! みんな逃げて!」

「えっ!」

「ベアルめ! 打ち損じたのか!」


 リーリア達が動き始めるより前。

 そいつは目の前にいた。


「うふふふふ! かわい子ちゃんたち! あたしのためにエサとなってね!」




 目の前に現れたそいつはドラゴンの姿をしていた。

 だが、感じる魔力は尋常ではない。

 こいつがオルトロスであるということは一目でわかった。


「時間がないわ……気付かれる前に全員殺してあげる」


 そう言うや否や、リーリア達の間に疾風が通り抜けた。


「え?」


 声に驚いてそちらを振り向くと、プリマの体が半分に切断されていた。


「まず一人、一口サイズにしてあげたわ」


 プリマも自分の視界が崩れ落ちていく様が信じられないような表情をしていた。

 ゆっくりとまるで時が止まったかのように時間が流れ、どさりと地面に倒れこんだ。


 現実感がわかなかった。

 全く見えなかったのである。

 頭が空中に浮いてるように意識が遠くなる気がしていた。

 これは現実か……それとも夢なのか……わからない。


「リーリア! しっかりしろ! そして集中しろ! お前ならかすかにだが見えるはずだ!」


 レヴィアの一言で意識が戻ってくるのを感じた。

 そうだ! 今は戦いの最中だ!

 頭をクールに!

 集中しないと!

 手を足を体を目を、すべての個所を最大限の強化する。


「あなたは魔獣ね……なんで人と一緒にいるのか知らないけど……死んでもらうわ」


 オルトロスの体がブレる。

 すると、かすかにだが残像みたいなものが動いているのが分かった。


 レヴィアもそれは同じようで迎え撃とうと分厚い水壁ウォーターウォールを発動させた。

 オルトロスは水壁を気にするそぶりも見せず全力で突っ込んでくる。

 

 レヴィアの意図は一瞬でリーリアに伝わった。

 長年一緒に住んでいただけに阿吽の呼吸だった。

 一瞬のタイミングを見逃さず、オルトロスが水壁に突っ込んだ瞬間。


「ライトニング!!!」


 水壁に雷魔法を全力で放った。


 バチバチと激しい音を立て、水壁を襲う。

 もちろん中にいるオルトロスも無事ではない。


 二人はそう思っていた。

 だが────


 水壁ウォーターウォールから何事もなかったかのように飛び出してくるオルトロスがいた。

 レヴィアはそれに反応し、腕をクロスさせ狙われた腹部をガードする。

 だが次の瞬間、レヴィアは腕ごと体を切断されていた。


「次はあなた。ごめんなさいね遊んであげられなくて」


 オルトロスがすぐにでも私に襲い掛かるだろう。


 ──恐ろしい。


 こんな強さの人魔獣がいるなんて。

 足のつま先から頭の天辺まで細かい震えが止まらない。

 

 だが……そんな状況でも頭は冷静になっていた。

 

 多分、私の攻撃は通じない。

 ならば何ができる?

 

 リーリアは脳をさらにフル回転して思考を加速させる。


 そもそもなんでこいつはここに来た?

 お父さんと戦っていたはずだ。

 お父さんが負けたとは考えられない。

 ならば必然的にこいつは逃げてきたことになる。

 私たちを喰らうことで力を付けお父さんに再戦しようとしている?

 こいつはなんで私たちのことを知っていたの?

 能力? 報告を受けた?

 それとも、なにか見える力があるのかもしれない。


 ────見える力!?


 私はビジョンの存在を思い出した。

 最近はお父さんと旅をしていたから全く使用していなかった魔法だ。

 今、お父さんはオルトロスを探しているだろう。

 ならば────


 私はビジョンを発動させる。


 するとすぐにお父さんと繋がった。

 

『──ッ!』


 会話の暇はなかった。

 ここまでの思考を一瞬で行ったとはいえ、オルトロスは今にも動き出しそうだ。


 ベアルもそれを察したのだろう。一言だけ言い放った。


『セレアの力を開放しろ!』


 セレアの力。

 お父さんが封印を破った時の話は聞いていた。

 【セレアの種】の力を開放して封印を破ったとか。

 お父さんの話ではどうやら【セレアの種】は私の中にもあるらしい。

 セレアが見えるってことはそういうことだとか。


 お父さんの言っていることだ、きっとそうなのだろう。

 その時はそんな感じに軽く受け止めていた。

 

 オルトロスが迫ってくるのが見える。

 そろそろタイムオーバーのようだ。

 でも大丈夫。


 私の中に一筋の光が宿る。

 光は膨らみ、血液と同じように全身を駆け巡る。

 私の中で納まりきらなかった光があふれだし、外皮を光が覆う。

 

 横を見ると、セレアもすでにそこにいた。

 まるでずっといましたよとばかりに微笑みかけていた。

 私は手を伸ばしセレアと手をギュッと握る。

 セレアの手はこの纏う光のように温かかった。

 

「──セレアソード!!」


 自然とそう言い放っていた。

 優しい光が天を貫き、雲を一瞬にして四散させる。


「セレアヒール!」


 その光は剣を中心にして輪となって、あたり一面に広がっていった。

 すると先ほどまで体と真っ二つにされていた、レヴィアとプリマの体は元通りとなった。

 光の輪はそれだけでは終わらず、さらに広範囲に広がってドラゴン達の傷も次々と癒していった。


「な! なんなの!? なんであなたがそれを持っているのよおぉぉぉっぉぉ!!!」


 この現象に一番驚いているのはオルトロスであった。

 ベアルに勝てないと思って逃げ出したのに、そのベアルの魔法をこの小さな女の子が使っているのだ。

 オルトロスは訳が分からなかった。

 人というものをバカにしていたのに、魔獣の進化のほめたたえていたのに、オルトロスも知らない未知の魔法に追い詰められている。

 人に敗北したらオルトロスの矜持……いや、存在価値そのものが無くなってしまう。


「ふざけるなぁぁぁぁ!!!! あたしが最強なんだよぉぉぉ!!!」


 猛獣の如く迫るオルトロス。

 静かに、じっと見つめるリーリア。


 この時、お互いの温度差が決定的な差を物語っていた。


 眼前に迫ったオルトロスはその剛腕を振り下ろす。

 それは半分に切断しようとする攻撃ではなく相手を粉砕する一撃。


 だがその一撃は空を切る。


 ──いや、剛腕が宙に舞っていた。


 腕を切り落とされたオルトロスは一瞬ひるむもすぐに攻撃を再開する。

 体を回転させ、太い尻尾を鞭のようにしならせ叩きつける。


 だがリーリアは返す剣で尻尾をも切断する。


 この時、オルトロスは背を向け無防備になっている。

 チャンスを見逃すリーリアではなかった。

 容赦なく切りつける。


 ──1回。


「ぐあぁ!!」


 まずは翼を切り落とす。


 ──2回。


「ぐぅぅぅぅ!」


 次に足を切り落とす。


 ──3回。

 

「ぎゃあぁぁぁ!」


 次は手を。


 ──4回。


「やめ」


 体を。


 ──5回。


「ろおぉぉぉぉ」


 もう一度。


 ──6回。


「あああぁぁぁぁぁっぁぁ!!!!!」


 さらに深く。


 ──7回。


「~~~~ッ!」


 うるさいので首を。


 ──8回。


「………………」


 9回。10回。11回。12回。13回。14回。15回。16回。17回。18回。19回。20回────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────







「見つけた」


 上手いこと隠していたのだろう。

 ミンチとなった肉の塊からオルトロスの核を発見した。


 だがオルトロスもそれを良しとしなかった。

 肉の塊は動きだし、血肉はリーリアへと襲い掛かる。


 ────だが。


 リーリアの体に纏っている光がそれを阻害する。

 光に触れた血肉は消滅し、跡形もなく消え去った。


「じゃあね。あなた強かったよ」


 核に剣を突き刺した。

 


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