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74、魔竜王オルトロス1



 魔竜王オルトロスの魔力は空気を揺らし、大地をも揺らす。

 そこから感じ取れる魔力は今まで会ったどの敵よりも強大であった。

 

 ……ふふふはははは!

 俺は歓喜した。

 なんてことだろう。

 封印が解けたことだけでも嬉しいのにすぐにこんな強敵と相まみえることができるなんて。

 

 この胸の奥から湧き上がる気持ちは、島での生活で亡くしてしまったものだった。

 狂喜のあまり小躍りしてしまいそうだ。

 

 なんせ……300年前よりも強くなった俺の力を試せるんだからな。


 島での生活は苦労もあったがけして無駄ではなかった。

 今となっては魔獣区画の獲物の魔力が非常に高いことが分かったが、海の生物の魔力もかなり高い。

 俺の魔力量は限界に到達しておらず、まだまだ増え続けていた。

 だから魔力の高い海の獲物をひたすら食べ続けたことにより俺の魔力は格段に伸びていたのだ。

 

 それに加えて封印を解いた時のあの【セレアの種】の力。

 解放したときにすべてを出し切ったと思ったが、そうではなかったようで一部、俺の力となっているのを感じていた。

 今ならその【セレアの種】の力を少し扱える気がするのだ。


 そして、目の前にいる|こいつ(魔竜王オルトロス)なら全力を出せる。

 この事実に俺は笑いが止まらないのだ。


「あなた……何が可笑しいの? もしかして絶望しすぎて気が狂っちゃったのかしら?」


 不審な声色でオルトロスが言った。

 どうやら自分でも思った以上にニヤニヤしていたようだ。


「……いや、すまない。嬉しくて仕方がないんだ」

「嬉しい? 恐ろしいの間違いじゃなくて? ……まったく調子がくるってしまうわ……新世界の王が誕生したんだから、ちょっとは恐怖して逃げ回ってもらわないと格好がつかないじゃない?」

「新世界の王か……そういえばお前はこれからどうする気なんだ?」


 俺がそう言うと、オルトロスは少し間を開けてから口を開いた。


「……別に隠すことでもないから教えてあげるわ。あなたが知っているか分からないけど、もうすぐ復活する化物がいるわ。それは誰も敵わない本当の化物よ。そいつはね……この世界をすべて飲み込んでしまうの。比喩ではないわ……本当に飲み込んでしまうのよ。そしてこの世界はなくなる……あたしはね、それが嫌なのよ! だからもっと力をつけるわ! そして……化物はあたしが倒す!」


 オルトロスの言葉には強い意志が込められていた。

 化物というのはカオスのことだろう。

 正直、化物カオスというのがそこまで強いのかは疑問だが、オルトロス程の強さをもってしても倒せないとなると、世界を飲み込むというのは本当なのだろう。


「では目的は同じではないか? 人やドラゴンだって化物に世界を飲み込まれたくはない。力を合わせることだってできるはずだ」


 オルトロスははっと鼻で笑う。


「人もドラゴンももう昔の生物なのよ。見てたでしょう? この魔獣達を! 人を喰らうことで進化し、ドラゴンを喰らうことでさらに進化できるのよ! 魔獣はそうやって急激に進化できるように変わった新しい時代の種族なわけ!」


 ……なるほど、それは確かにそうだった。

 レヴィア見ればわかる。

 一度はリーリアに抜かされてしまったが、魔獣区域で力をつけ、人魔獣となったことで更に一歩抜けた存在となった。

 それはこれからもどんどん力をつけていって、いつかは俺も抜かされてしまうだろう。

 

 俺には人を喰らうなんて許せない! などという正義の心なんてものは持ち合わせてはいない。

 知らないやつが喰われたとしても、ふーん程度にしか思わないだろう。

 もちろん目の前で魔獣に喰われそうな人がいたのなら助けるかも知れないし、嫌いな奴だったら助けないかもしれない。

 その程度の認識でしかない。

 だが……俺の大切な人ばかりはその限りではない。

 もしリーリアが魔獣に喰われたとしたら──そう考えただけでどす黒い感情が湧き出てくる。

 きっと俺は世界のすべての魔獣を殺してしまうだろう。



「まあ、大体話は分かった。つまりお前たちはこれからも人やドラゴンを喰らい続けるわけだな?」

「当然よ。劣化した種族なんて滅ぼして、これからは魔獣の世界となるのよ」

「分かった……ではその『劣化した種族』に殺される覚悟はいいか?」

「ふん……ほざきなさい!!」


 魔竜王オルトロスは凶悪な爪を振り下ろした。

 即座に俺は空中へと飛んで回避した。

 爪から放たれた衝撃波は地面に3つの深い縦穴を作った。

 

「フレアバースト!」


 魔竜王オルトロスの頭上で爆発を起こし、その風圧を利用して俺はさらに上空へと飛んだ。

 それを追うように凄まじい数の衝撃波が俺めがけて飛んでくる。

 下を見ると魔竜王オルトロスが距離を詰めながら、衝撃波を生み出していた。

 俺はすべてを紙一重で避け、巨大な石槍ストーンランスを作った。

 それストーンランスを魔竜王オルトロスへと放つ。


 石槍ストーンランスは一直線に飛んでいき、向かってくる衝撃波をすべてはねのけた。

 考えうる限りの最高の魔力保護された石槍ストーンランスは魔竜王オルトロスに直撃した。


「んぐぐぐ!!! くそ硬いストーンランスね!!」

 

 突き刺さる寸前で受け止めると破壊しようと力を込めた。


「────はっ!」


 魔竜王オルトロスの力によって石槍ストーンランスは粉々に砕け散った。

 だが俺はすでに二個目の石槍ストーンランスを作っていた。


「あんたね! 一発目は受けてあげたけど、二発目は無視するわよ!! 馬鹿みたいに何度も連発しようとするんじゃないわよ!!!」


 そんな魔竜王オルトロスの言葉を無視しし、二発目を放つ。

 宣言通りに直前で躱され、石槍ストーンランスは地面へと突き刺さった。


「あなた、魔力は高いけどバカなんじゃないの!!」

「ちっ!」


 俺はすぐに、他の魔法を発動するために魔力を練るが、その一瞬のうちに魔竜王オルトロスは眼前へとやってきた。


 振るわれる剛腕。

 物理的にも魔力的にも強烈なその一撃を俺はガードして受け止めた。


「あら、つぶれなかったのは褒めてあげるわ」

「ふん! それくらいでつぶれるか!」


 はじくように剛腕をはねのける。

 そして練っていた魔力を爆発させた。


「インフェルノ! 最大火力でだ!!!」


 その炎は青く燃え上がり魔竜王オルトロスを包んだ。

 炎は全身を駆け巡り、払っても払ってもまとわりついていた。


「ああ、うざい!!」


 魔竜王オルトロスは魔力を放出させると、それは暴風となり炎を四散させた。

 だがそんなことは想定済みである俺はまた別の魔法を放つ。


絶対零度アブソリュートゼロ!」


 今度は極寒の氷の中へと閉じ込められる魔竜王オルトロス。

 しかし、すぐにヒビが入り、氷は粉々となって砕け散る。


「ああ! 寒い! 小細工ばかりしてなんなのよ!」


 怒り心頭のようだ。

 

「もう怒ったわ! 少し本気を出してあげる!」


 そう言った刹那。

 石槍ストーンランスが魔竜王オルトロスの背後から迫っていた。

 これは先ほど避けられて地面に突き刺さったやつである。

 魔力の糸で繋いでおり、ここぞという時のための布石にしておいたのだ。


 石槍ストーンランスは爆音と共に砕け散る。

 魔竜王オルトロスは衝撃によって上空へと吹き飛ばされるが、すぐに体制を整えた。


「痛っ! なに? なにかぶつかったようだけど!」

「……ち、馬鹿みたいに硬い鱗だな」

「あらいやだ。あなただったのね! でもちゃんと痛かったわよ、この責任は取ってもらうからね!」


 そう言って、ブレスをはいてきた。

 俺は空中を飛びながらそれを躱すが、丸いボールのようなブレスは俺を追尾するように襲ってくる。

 鬱陶しいので水球ウォーターボールを放って破壊しようとしたが、水球ウォーターボールはブレスに飲み込まれてかき消えてしまった。

 丸いブレスはそのまま俺を追尾していた。


「ちい、鬱陶しい! これならどうだ────スーパーノヴァ!!」


 小さな魔力の塊は丸いブレスへと近づいていく。

 そして触れた瞬間……丸いブレスに飲み込まれた。


「なんだと!?」

「うふふふふ! 竜王のブレスは消滅のブレスなのよ! すべてを無に帰す究極の技なの……そんなのがきくわけないじゃない! そしてこれは竜王の技をあたしがアレンジして生み出した新しい技なのよ! 燃費もよくて強力。こんな風にね!!」


 魔竜王オルトロスはそういうと、ぽんぽんぽんと連続して3つの丸いブレスを吐きだした。


「そんなのありかよ!」


 俺は思わず声に出してしまった。

 ただでさえ強力なブレスが簡単に何個も出されるなんて!

 竜王でさえ一発ブレスを放つのに魔力を大量消耗していた。

 それが威力も衰えずに何個も出されては正直かなりキツイ。

 

 全部で4つとなったブレスは器用にクルクルと回りながら俺めがけて飛んでくる。

 それぞれが意志を持ったように四方八方から次々と襲ってくるのもだから避けるので必死となった。それもそうだ、一発まともに貰ってしまうと体が消滅してしまうのだから。


「あはは! 楽しいダンスの始まりよ! それそれ!」


 魔竜王オルトロスは愉快に笑い、さらにブレスを3つほど増やす。


「ふざけんな!」


 合計7つとなったブレス。

 まずい……このままでは無限に増え続けるぞ……。

 いったいどうすれば……。


 考えている間もブレスは襲ってくる。

 7つになったことで避けることが難しくなる。そう思っていたんだが。


(あれ……動きが単純になってないか?)


 7つのうち2つほど、他のブレスと同じような動きをしていた。


(まさか!!)


 俺は気がつかれないように、ブレスを避けながら、さらにその動きを観察した。


(やっぱりそうだ!)


 どうやら増やしたのはいいものの、動きを操るのは5つまでしかできないらしい。

 その証拠にさっきまで高笑いしていた魔竜王オルトロスの表情は真剣なものとなっていた。


(あいつ……まだ魔力操作が下手だな!?)


 思わず口角が吊り上がる。

 魔力ばかりが高くなっても、基本となる魔力操作が疎かではすべての力を出し切ることはできないだろう。

 そんな時、俺の中で妙案が浮かぶのだった。


(試してみるか)


 すっかり動きになれたブレスをギリギリで躱す演技をしながら魔力の糸で一つのブレスに接触を試みる。

 

(やはりそうか!)


 竜王のブレスは消滅のブレスと言うが、これは正確ではない。

 現に俺はブレスをくらったことがあるが今も元気に生きている。

 そう、魔力だけは抵抗力があるのである。

 確かに普通の魔法よりは魔力の消費が激しくなるがガードは出来る。

 ならば魔力の糸で操ることもできるのではないかと考えた。

 答えはイエスである。


 試しに魔力の糸でブレスに触れたが、燃費は悪いが少し動かすことができた。

 そしてそれに魔竜王オルトロスは気づいていない。


 よし! チャンスは一度きりだ。

 

 俺は大きく上に飛ぶと、魔竜王オルトロスへ向かって全力で接近した。


「あらやだ。絶対そう来ると思っていたわ! ギリギリで躱してあたしに当てようってはらね! あたしは操作を誤らないわよ」


 ブレスの追尾は引き続いていた。

 俺は水球ウォーターボール火炎球ファイアーボールを発動させる。


「でた! 目くらまし! あーあ、浅はかすぎてわかりやすいわ!」

「うるさい! だまれ!」


 焦った演技も忘れない。

 俺は魔竜王オルトロスの正面にくると、そのままの勢いのままそれらを放ち……爆発させる。

 辺り一面白い靄がかかった。


「はいはい。こんなんであたしにブレスが当たるとでも思っ────」


 声が途切れる。

 そして空中の靄が晴れたとき、そこにいたのは顔が吹き飛んだ魔竜王オルトロスがいた。


 しばしの静寂──


「あは、あははははは!!! まさかそんな手があったなんてね!!」


 どこからともなく声が聞こえる。

 よく目を凝らしてみると魔竜王オルトロスの腹に口が生えていた。


「ち、やはり核を壊さないとダメか」

「ふふ、そうよ! この竜王の形なんて飾りだもの! でも驚いちゃったわ……あなた魔力操作? 上手いのね……あなたを殺して吸収したらあたしも地道に練習してみるわ! 教えてくれてありがとうね。うふふふっふふ!」


 こいつ厄介だな。

 敵から技術を学ぶという単純だが中々できないことを平気でいってやがる。

 今こいつを倒せなかったとしたら将来、強大な敵となって俺に襲い掛かってくるだろう。


「まあな……でもそろそろお遊びは終わりにするか」

「あらやだわ! 観念したってことかしら? 大丈夫よ……あなたを気に入ったからあたしの一部にしてあげるからね」

「それは最悪だな!」


 第二ラウンドの開始だ。



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