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73、オルトロス



 俺がその場についた時、竜王とオルトロスだと思われる人魔獣は静止していた。


「何やってんだ竜王よ」


 オルトロスを警戒しながらも竜王の前に降り立つ。

 よく観察してみると目を瞑ってピクリとも動いていなかった。


「敵を前にして寝ているとはずいぶんと余裕だな竜王よ。ていうかどういう状況だ?」


 俺は混乱していた。

 さっきまで戦闘をしている雰囲気を感じていたんだが今はどちらも動いていない。

 かといって和解したような様子でもなかった。


 すると竜王はゆっくりと瞼を上げた。


「懐かしい顔だ。確か……ベアルだったな。封印は解けたのだな?」

「解けたというか……ぶち破ったというか」

「……そうか、やはりお前は生かしておいてよかったようだ……お前ならば安心して……」


 なに?

 生かしておいただと?

 封印の判断は竜王の仕業だったということか?


「おい、それはどうい──」

「ちょっとー! あたしをのけ者にして会話しないでくれる?」


 俺の発言はオルトロスだと思われる人魔獣から発しられた言葉によって遮られた。

 振り返ると不機嫌そうに腕を組んでいる人魔獣がいた。

 

「お前は誰だ」

「人に尋ねるときは自分からって言われなかったかしら? ……まあいいわ教えてあげる。あたしはオルトロス。この魔獣達の軍団を率いてる者よ」

「なるほど、やはりお前がオルトロスか」

「あらやだ。あたしを知ってるの? 有名になっちゃってやーね!」


 言葉とは裏腹に嬉しそうにニコニコとしていた。

 だがすぐに、すんっと無表情となる。


「で、あなたは誰かしら?」

「……俺はベアル。ただの魔族だ」

「あらそう。そのただの魔族がこの戦場に何か用なの?」

「ちょっと竜王に用があってな。話をしたいから帰ってくれないか?」

「……横から割り込んでおいて失礼な魔族ね! あたしたちは今大事なところなの! 後にして!」

「…………」


 どうにも話し方が気になってしまって仕方がない。

 こいつ男だよな?

 まあ、そんなことを気にしても仕方ないのだが、先ほどから竜王が黙ったままなのも気になる。

 竜王の方をちらりと見てみるが、また目を閉じてしまっており、何かに耐えるように集中しているようだった。


「おい、竜王! 何故先ほどから黙っている!」

「……グ……」

「ちょっとー! あたしを無視しないでっていったでしょ!」


 俺はオルトロスを無視して竜王に近づいた。


 ──ッ!!!


 とっさにバックステップで距離を取る。

 腹部に痛みを覚え、確認してみると横ラインに服は破れ血が滴っていた。


「あーあ、だからあたしを無視するなって言ったのに」


 オルトロスの茶々は無視し、再度、竜王に向き直る。

 竜王はその剛腕を振り下ろした状態のまま止まっており、ブルブルと小刻みに震えながら苦悶の表情を浮かべているように見えた。


「竜王! どうしたんだ! 何故攻撃する!」

「──すまない! ……体を乗っ取られかけているのだ」

「なんだって!?」


 エルサリオスみたいな状態になりかけているってことか!

 ちっ! それを早く言えってんだ!

 それはかなりまずい状態だ。

 エルサリオスがリーリアにやったように体の中にオルトロスの体の一部でもいれたのだろうか。それならば取り出せばなんとかなる。


「取り出すことは可能か!?」

「む、無理だ。すでに我の血液まで入り込んでいる。乗っ取られるのも時間の問題だ……すでに下半身はもう動かない。 …………故にもう我は助からない……だから我を殺せ! お前なら我を消滅させることができるはずだ!」

「──そうはさせないわ!!!」


 上空から巨大な石槍ストーンランスが降ってくる。

 俺はとっさに後ろに下がった。

 俺と竜王の間に割り込むようにオルトロスが立ちはだかる。

 

「もうちょっとなんだから邪魔しないでよね」


 そう言って不敵に笑うが、俺はそんなことよりどうしたらいいのかを考えていた。


 竜王を殺す!?

 いや、そんなことをしてもいいのか?


 俺たちの旅の目的は竜王から世界の情勢や化物カオスの話を聞くためだ。

 ここで竜王を殺してしまってはそれが達成できなくなってしまう。

 だが、ここでオルトロスに乗っ取られた竜王を見逃してしまったらそれこそ大変なことになってしまうのではないだろうか。

 考えがまとまらず悩んでいた。

 それが表情にも表れていたのだろう。


「ふふふ、あなたたちがどんな因縁か知らないけど……今なら見逃してあげてもいいわよ。あたしたちの今回の目的はドラゴン族なんだから」


 ……そうだった。

 例えもし、竜王を殺してはいけないと言われても、ドラゴン族たちを見殺しにするなんてことはしたくはない。

 ならば、どちらにしてもオルトロスに乗っ取られた竜王とは戦わなくてはならないだろう。

 それが竜王を殺すことになったとしても、ドラゴン族を見捨てるよりはマシな気がした。

 ……それに竜王の悲痛の叫びは、同胞を助けてくれと叫んでいるような気がしたのだ。


 俺の決意は固まった。


「いや、お前を見逃すわけにはいかん……この場で殺す」

「あらいやだわ、それはこっちの台詞なのに……これだから魔族って野蛮で嫌いなのよね」

「じゃあ覚悟はいいか?」

「…………あなたこそね!」


 ──閃光が走る。

 お互い何の合図もしていないが同時に攻撃を開始した。

 ぶつかり合ったのは互いの魔法。

 巨大な爆風となり辺り一面を焦土と化す。


 俺は上空に浮かび更なる魔法を放つ。

 竜王もろとも消滅させるつもりで放ったが、オルトロスも同じ魔法を放ってきた。

 それは空中でぶつかり合い、熱風となり近くの魔獣は一瞬で灰となった。


 熱風の中を突っ切ると、石の剣を作り出し、そのまま衝突する。

 対するオルトロスは手から生えた鋭い爪だ。

 ジリジリと押し引きを繰り返すが、力を魔力でブーストし、強烈な一撃をオルトロスの爪の上から叩き込む。

 その一撃は熱風をも吹き飛ばし、爆音とともに衝撃波となり空気を揺らす。

 肝心のオルトロスは地面に猛スピードで叩きつけられ巨大なクレータができたが、片手両足を付きダメージを防いでいた。


「メテオストーム!」


 俺は叩きつけるのと同時に魔法を放つ。

 巨大な隕石群はオルトロスに向かってこれでもかと降り注ぎ、巨大なクレーターは巨大な穴へと発展した。

 

「塵となれ……スーパーノヴァ!!」


 その穴にさらに小さな魔法の塊を落とす。

 ──しばしの沈黙の後。


 まばゆい閃光が辺りを照らした。

 巨大な穴は、さらに広がり、底の見えない深淵の空間と化した。


「………………」


 俺は攻撃を止めていた。

 それはすべて終わったからではない。

 むしろ始まってしまったことを知ったからだった。


 しばらく待つと、深淵の穴から何かが浮かんでくるのを目視で確認できた。

 そいつはゆっくりと、だが確実に俺へと近づいてきた。


「うふふふ、あなた強すぎるわよ……間に合ってよかったわ」

「……ち」


 竜王が……いや、竜王を乗っ取ったオルトロスがそこにいた。

 

「あたしの元の体は消滅しちゃったわ~! もったいない! あなたにはその責任を取ってもらうからね?」

「……ふ、安心しろ。その体もすぐに消滅させてやる」

「あなたにできるかしら? 感じてるでしょ、この溢れんばかりの魔力を」


 確かに以前のオルトロスとは違って尋常ではない魔力量だった。

 今のオルトロスなら触れるだけで大抵の魔獣は死んでしまうのではないだろうか。


「うふふふふ! あはははははははは!!! 想像以上に素晴らしいわ! あたしは生まれ変わったの! そうね……これからは『魔竜王オルトロス』と名乗ることにするわ!!!」


 そう高らかに宣言した。





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