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71、作戦



「わしはオルトロス三獣士の『ナーガ』という……正直、三獣士という名称はダサいといったんだがキメラが気に入ってしまってのう。まあそんなことはどうでもよい。どうだ? 今からこっち側につくというのであれば仲間にしてやるぞ?」

「断る! それよりその顔を返してよ!」

「はて?」


 本気で何を言っているのかわからないような顔を一瞬だけみせると、すぐにまたニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべてきた。

 

「ああ、お前はあのとき逃げたやつか! あの時は初めて人魔獣となった為、驚きと戸惑いで追えなかったんじゃあ。そうかそうか……わしが喰らったこいつより美味そうだったからちょっと後悔してたんじゃよ……お前を先に喰えばよかったとな!」


 これからの食事風景でも思い浮かべているのだろうか。よだれを流し、舌をだしてべろべろと口元を舐めまわすようにしていた。


「と、父さんの顔で変な表情をするなあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「プリマ!」


 飛び出すと一直線にナーガに向かって走り出した。

 だがナーガはじっと待っていた。

 そしてそのままプリマの拳を顔で受けた。


「おおぉぉぉぉぉ!!!」


 蛇魔獣の顔が気持ち悪く歪む。

 目が飛び出し、あごは外れ、頬はへこんでいた。


「痛いよお、痛いよお。プリマァ……父さんに酷いじゃないか」

「────ッ!」


 さらに追撃しようとしていたプリマの拳が一瞬迷った。

 その隙をつきナーガは体を回転させ、尾で腹に一撃を当てる。


「ぐっ!」


 プリマは思い切り吹き飛ばされたのだが、計算されているのかそうでないのかリーリアの元へと飛んできた。

 それを体で受け止め、殴られたお腹を確認すると、アバラが何本か折れていた。

 

「ヒール!」


 回復してあげるとすぐに立てるようになった。


「ギャハハハハハ! こんな演技に引っかかるとはバカすぎて笑えてくるわ!!」


 性格は最悪に嫌な奴のようだ。

 心底可笑しかったのだろう。地面をのたうち回るようにして笑っていた。


「……くっ……」


 プリマは悔しさからか目には涙を滲ませている。


「……許せない!」


 リーリアは怒り心頭に発した。

 父親の顔をまるでおもちゃのように扱うその姿に。

 心の痛みを知らないで、平気で傷つけるその残忍さに。

 

 もし、ベアルが同じような扱いを受けたら。

 そう考えただけで、はらわたが煮えくり返る思いだった。

 あんなやつは倒さないとダメだ!

 

「……プリマ、あいつを必ず倒すよ!」

「……師匠」


 すぅー……はぁー……。


 とりあえず冷静になろう。

 お父さんもまずは冷静になってよく考えろと言っていた。


 ナーガは強い。

 おそらくだがレヴィアと同じくらいじゃないかと思っている。

 一人では勝てないからプリマと協力しなくてはいけない。

 そしてナーガは魔法が得意なんじゃないかと感じた。

 魔力操作とずる賢さが相まって非常に厄介な相手だ。

 魔法でやりあったとしても苦戦は必至だろう。

 ……もし弱点があるとするなら……。

 

「プリマァ~父さんにお前の体を食べさせておくれぇ~ギャハハハハ!」


 ナーガは完全に遊んでいた。

 プリマをからかうことに全力となり反応を見ることに快楽を感じている。


「プリマ~プリマちゃ~ん。父さんと人の世界で一緒に暮らそうよ。あ、でも父さんは体は蛇だった! ギャハハハ!!」

「~~~~~ッ!!!!!」


 プリマは我慢の限界だった。

 握る拳はプルプルと震えて血がにじむほど爪がくいこんでいる。


 …………弱点があるとするなら、この子供みたいな性格なのではないだろうか。

 リーリアは一つの作戦を思いついた。



 プリマに近づき耳打ちをして作戦を伝えた。

 

「えっ! リーリア逃げるの!!?」

「こらっ! 声が大きい!!」


 二人はあっと声を上げナーガを見た。

 先ほどまで笑い転げていたナーガは真面目な顔となる。


「なにぃ? そんなことをさせてたまるか! お前らはわしの食事となるのだ! ねープリマちゃーん?」

「ふざけないでっ! やっぱり逃げるなんて無理! あいつを倒さないと! 父さんがうかばれない!!」

「ダメだよプリマ! 私たちのかなう相手じゃない!! ──あっ!」


 プリマはリーリアの手を振りほどくとナーガに向かって走った。


「もう! 私は逃げるからね!!!」

「あっ! こら待て!」


 魔力強化した足で全速力でこの場から逃げ出すリーリア。

 まさかの事態にナーガは追うべきか否か迷った。


「お前の相手はこのあたしだあぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 そこにすかさず殴り掛かる。

 ナーガは仕方なくプリマの相手をすることにした。


「まあいい! お前でこれからタップリ遊んでやるわ!!」


 先ほどのやり取りを思い出したのだろう。ニチャァといやらしい笑みを浮かべる。

 

「飛燕衝撃波!!」


 高くジャンプして放つと、衝撃破がナーガと地面をえぐる。

 だが、ナーガは殆ど効いておらず、むしろ早く下りてこいと何もしないで余裕をこいていた。

 

「裂空脚!!」


 空中で回転し勢いを増したかかと落としをするが、突然現れた風壁ウインドウォールによって跳ね返された。

 

「無駄じゃ無駄じゃ。プリマちゃんの攻撃なんて弱すぎてあくびがでちゃうわ」

「くっ……」

「ヒヒヒ、その顔たまらないのぉ」


 魔力操作が抜群に上手くなって覚醒したとはいってもナーガは格上。

 そう簡単に届く相手ではなかった。


「一発……一発全力で放てれば勝てるのに!」

「ほぅ? それでわしを殺せると?」

「絶対に殺せる!」


 馬鹿にしたような表情はそのままなのだが、しばし止まって考えているようだった。


「ひひひ、いいじゃろ。一発思いっきり放ってよいぞ」

「……本当に!?」

「疑り深いのう……本当じゃよ。ただし、それでわしを殺せなかった場合は永遠にわしのペットとして飼ってやろう。自殺することは禁止じゃ」

「……自殺しない保証はないけど?」

「ひひっ、大丈夫じゃ。わしは催眠が得意でのう……従順なるペットとして一生飼ってやるわい。キヒヒヒッヒ」

「くっ……なんて下劣なの!」

「親子で一緒にいさせてやるんじゃ。優しいといってほしいの、プ・リ・マ・ちゃーん」

「────確実に殺ってやるッ!!!」


 挑発にのったプリマは一歩、また一歩と魔力を高めながら近づく。

 放つ技はゼロ距離で一番破壊力のある波動衝という技。

 高めた魔力を爆発させ強烈な一撃を与える。


 そのためにはナーガの体に触れないといけない。

 どちらにしろこのままでは勝てないのだ。

 罠かも知れないが、この一撃にすべてをかける。


 ナーガまであと一歩という距離まで近づいた。

 あと少し……。

 一歩踏み出そうとしたその時。


「バーカ。技を打たせるわけないだろうが! ギャハハハハ!」


 ナーガは体をひねり、その尾をプリマに当て────


 ──ることは出来なかった。


「オーラブレード!」


 突如として現れる光り輝く剣。

 地面から突き出たそれはナーガの胴体上部に突き刺さる。


「……へ? な、なぜ?」


 ナーガは訳も分からず体をジタバタと必死に動かす。だが串刺しにされた体はその場から動けない。


「──パワースラッシュ!!!」


 ズシャ。

 光り輝く剣は強引に振り下ろされる。

 するとナーガの顔と体は綺麗に分断された。

 

「えっ……あれ? 体が動かない? えっ! なんでわしの顔と体が分断され……分断されているのだあぁぁぁああああ!!!! ギャアアアアアア!!!」

「残念だったね……じゃあ死んでね?」


 ナーガの顔面にプリマの波動衝が炸裂した。




「師匠! ナイスタイミング!」

「ふぅ、なんとか間に合ったねー」

「師匠を信じてた!」

「でもごめんね。嫌な思いをさせちゃったよね?」

「ううん! むしろめっちゃスカッとしたよ!」


 ナーガの体を真っ二つにしたのはリーリアだった。

 逃げると見せかけたのは作戦で、地面を掘り進め真下にたどり着いたのだった。

 プリマの役割はどんな手段を使ってでも足止めをすること。

 

「でもよく成功したなって……」

「ナーガはプリマをからかうのがすごい楽しそうだったから……すぐには倒さないって確信があったんだ」

「……なるほど! でも本当に嫌な奴だった!!」

「本当にね! ……つらい思いさせてごめんね」

「ううん、いいの。父さんをこの手で救えたから……」


 父親の顔を破壊するというのはつらいことだったろう。

 でもそれ以上に魔獣から解放させてあげたいという想いが勝ったのだ。


「つらいかもしれないけど……そろそろ移動しないと」

「うん……そうだね」


 ナーガとの戦いで巻き込まれるのを恐れて離れていた魔獣が戻ってきた。

 ここもまた戦場となる。


「じゃあいくよ!」

「おー!」


 二人はまた、一頭でも多くのドラゴンを救うために動き出したのだった。



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