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67、追い込みが可能?



 しばらく進むと峠らしきところへとたどり着く。

 そこはある程度の広さがあり、休憩するには申し分のない場所だった。

 案の定、魔獣達もそこで休憩したような痕跡がある。


「焚火の跡だ」


 今までの道にも焚火の痕跡はあった。

 だがこの場所には真新しい焚火の跡がそこら中にあり、規模で言うところの数百のが使用していたような感じであった。

 魔獣は焚火を囲うなどという情緒のあることをしない。

 ご丁寧に焚火の周りには石が置いてある。座るのに丁度よい位置であるため椅子として使用したのだろう。


「そうか……ボクオーの言ってたことは本当だったか」

 

 もしかしたらボクオーが嘘をついているということもあり得るので、それを疑いながらも慎重になっていたのだが……この現状を見せつけられれば疑いようのない事実なんだろう。


 ボクオーは言っていた。

 エルフ王国から帰ってきた殆どの者がオルトロスの作戦に参加していると。

 ……つまりはエルフ王国の人々を襲った魔獣の集団ということになる。

 それも殆ど人の姿になれるのだろう。

 だがそれは最初から想定されていたことだ。今更怖気づくことでもない。

 

 周辺を探索すると異様な数の排せつ物がある。それも一日や二日の量ではない。

 ということはだ……どうやら何らかの理由で長期滞在したのかもしれない。


「ベアルよ……そんなに真剣になって何を考えておるのだ? 早くドラゴン達の元へと行かんか?」


 レヴィアの意見はもっともであるけれど、相手の数は尋常ではない。俺は慎重になると決めたのだ。

 些細な事でもなにか分かることがあるかもしれない。

 これから戦う上で有利となることがあるならばそれに越したことはない。

 俺にとって一番はドラゴンではない。リーリアなのだから。


「……竜王はそう簡単にはやられないといったろ? てかレヴィアが気にしてるのはドラゴン達が魔獣を倒してしまわないかだろ?」

「う……ばれてしまったか」

「それにここは野営地としては立地がいい。そろそろ日も傾きかけてるし野営の準備をしてもいい時間だ」

「はあ、しかたないの」


 もう野営も慣れたもので手際よく自分の分担をこなしていく。

 ほんの2時間ほどで食事までを終えていた。


「後どれくらいでドラゴンの里までは着きそうだ?」

「このペースですと明日の夜くらいでしょうか」

「なるほど」


 その言葉を聞いて目を輝かせるものがいた。


「うぅ……我は待ちきれないぞ!」

「お前はもう少し落ち着け」


 まったくレヴィアは魔獣だからか本能が抑えきれないようである。


 ん? 本能が抑えられない?

 ……それなのに魔獣はここで数日野営をしたのか?


 レヴィアがそうであるように魔獣は本能に従って生きている。

 それは人となったからといって多少は抑えられるだろうが消えることはない。

 ならばここで数日待機するのは。魔獣としてはおかしな行動である。

 と考えるならば……待機せざるを得なかったということだ。


 それはなんだ……?


「ねえお父さん。思ったんだけど、魔獣達ってどうしてドラゴンの里までの道を知ってるの?」

「え? ……それは探知……か?」


 自分で言ってて違和感がある。

 魔力探知ではこの広大な山脈を探っていくのは骨が折れる。

 だが魔獣達は迷っている様子はなく、大群の進んでいる道はプリマの示す道と同じであった。

 それはなぜだ?


 うーん、わからん。


「レヴィアは道わかるか?」

「わかるわけないだろう。匂いや感覚でドラゴンの居場所を見つけるとしても限度がある」

「そういう能力に長けている魔獣だったらどうだ?」

「言っておくが探知の能力に関しては我も相当優秀だぞ。その我が無理といったら無理なのだ」

「そうか……」


 俺でも多分無理だろう。

 ここからなら見つけられるかも知れないが、入り口からとなると何日かかるかわかったもんじゃない。それにそんな苦行やりたくないしな。


「あたしみたいに道を知っている者がいたってことでしょうか?」

「探知が無理だとしたらそう考えるのが妥当だろうな……」


 魔獣が道を知っている?

 このドラゴン山岳に詳しい魔獣がいたとしたら?

 もしかして!


「ねえお父さん」

「ああ、娘よ」


 くいくいと袖を引かれそちらを向いた。

 いつの間にか隣にピッタリとくっついているリーリアが上目遣いで俺を見ていた。


「私わかっちゃったかも」

「奇遇だな。俺もわかったぞ」

「えー! お父さんに褒めてもらいたかったのに!」

「はは、大丈夫だ。しっかり褒めてやるぞ!」

「え、やった!」


 俺たちは二人で盛り上がる。

 その様子をジトーっと見ている者が二人。


「我は分からないぞ! 早く教えるのだ!」

「二人で盛り上がってずるいっ!」


 リーリアは仕方ないなあといった風に二人を見ると説明を開始した。


「えっとね。ドラゴン山岳に詳しい魔獣がいて案内させていたんだと思う。だけど途中で竜王が襲撃したでしょ? 案内していた魔獣は先頭にいたと思うからブレスでやられちゃったんだよ。それで道が分からなくてここで足止めを受けてたんだと思う」

「さすがリーリアだ」


 俺はリーリアを抱き寄せると頭をごしごしと撫でる。


「うぅー雑だよー!」

「ははは」

「本当に仲がいいですねえ」


 微笑ましい表情で見守っているプリマに対し、険しい顔で考えているレヴィア。


「ということは昨日までここには魔獣達がいたということになるのか?」

「そうなるな」

「一日遅れか」


 当初は十日程遅れていると思っていたものが一日遅れとなったのだ。十分に吉報だと言える。

 さすがに、「一日耐えられませんでした!」とドラゴン達が白旗を上げていたのならどうしようもないが、そうでないのなら間に合うだろう。

 ドラゴンの里には明日の夜につく予定ということなので、大群の魔獣達ならば足並みは遅いのかもしれない。

 とするならば今もまだ戦闘は起こっておらず明日の朝開戦となるだろう。


 うん、十分に間に合うな。


 今日は早く寝て、日が昇る前に出発しよう。

 急げば明日の昼過ぎにはたどり着けるかもしれない。

 俺は考えたことを皆に伝えた。


「確かに急げばそれくらいに着けるかもしれません! さすがですベアルさん!」

「おぉ! 楽しみすぎて寝られんかもしれないのだ!」

「うん! それに戦ってたら背後からつけるし良さそう!」


 言うや否や、俺たちはすぐに就寝することにしたのだった。



 山道を駆ける。

 足に魔力を込め、一歩一歩力強く。

 後ろについてくる者が二人。

 レヴィアとリーリアだ。

 プリマはどうしたかって?


 それなら俺の背中にいる。ていうかしがみついている。

 巨大な膨らみが背中に当たっているのが大変に心地よい。しかも俺が飛び跳ねるたびに大きくバウンドしてさらに衝撃が伝わってくる。

 体が自然と飛び跳ねていた。


「お父さん! そんなにジャンプする必要ある?」

「いや、ちょっと小枝があって……」

「避ける必要ある?」

「いや……ないかもしれません」


 リーリアは鋭い。無駄な行動は許してくれない。

 仕方なく俺は普通に走ることにした。


「今からでも私がプリマを背負うよ」

「いや! これから始める戦いに体力を残しておきなさい」

「……本当にそう思ってる?」

「当たり前だ」


 これは本当に本心なので真面目な表情になる。

 リーリアもそれは分かっているようで、ハァとため息をつくと黙った。


 プリマはこのスピードについていけない。

 なので誰が背負うかという話になった。

 最初はリーリアが背負うといったのだが、先ほど言った理由で却下となった。

 ならレヴィアが背負ってとリーリアが言うが、レヴィアは「なんで我が背負わねばならんのだ。ベアルが背負えばよかろう」といってかたくなに拒んだのだった。

 それでもリーリアは反対していたのだが、こんなことに時間を費やすわけにはいかないので俺が背負っていくこととなった。


 急ぐこと数時間。

 プリマがそろそろですというので一旦休憩することにした。

 さすがのリーリアも息が切れており、水を勢いよく飲んでいる。

 それに引き換えレヴィアはというと、闘志がみなぎり過ぎてあふれる魔力が抑えられないでいた。

 しかし……薄々感じていたが……。


「レヴィア……お前もうリーリアより強いだろ?」

「ほう。どうしてそう思う?」

「前と比べて段違いで魔力量が上がっている。俺の知る総量より多い」

「うむ、実はそうなのだ。あの頃のリーリアと同じであるならば我の方が強いだろう」


 リーリアももちろん強くはなっている。

 成長スピードも人一倍早いのだが、レヴィアはそれをさらに上回っていた。


「成長スピードが速すぎないか? 人魔族となったことが関係しているのか?」

「うむ……実は我も不思議だったのだが、何ていえばいいのか……別の生物となったといえばいいのか?」

「……リヴァイアサンではなくなったということか?」

「いや……そうではない。ううむ、適切な言葉が見つからぬ」


 レヴィアは一生懸命思考する。

 だがすぐに諦めた。


「とにかく! 生まれ変わったということだ!」

「なるほど、わからん!」

 

 まあとにかく頼もしい仲間ということには変わらない。

 オルトロスとの戦いも近いことだし切り替えていこう。

 少しの休憩後、出発したのだった。


 


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