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66、竜王の爪痕



 ドラゴン山岳と呼ばれているこの場所は世界有数の高山が連なる地帯となっている。

 人が滅多に通らないので山道なんて呼べるものはほとんどなく、獣道がいくつも枝分かれしたような複雑な道となっていた。

 なので素人が興味本位で山に立ち入れば、たちまち遭難して実力のないものは魔獣の餌食か、そのまま野垂れ死にすることになるだろう。


 ドラゴンの里まではそんな山道を歩き七日間かかる。

 急ぎたい気持ちもあったが慎重に、確実に向かうことにした。

 山道には魔獣の通った後がはっきりと残っており、道はガタガタに削れ、木はなぎ倒され、所々に糞尿が落ちている。

 この様子からも本当に100体以上はいるという事実が突き付けられた。


「プリマ……ドラゴンの里にドラゴンはどれくらいいるんだ?」

「詳しくは分からないけれど……数十体……30はいないと思います」

「そうか……」


 ドラゴンの強さは分からないが、仮にも世界最強の種族だ。そう簡単にはやられないだろう……多分。

 ボクオー情報では魔獣の大群がここにやってきたのは十日程前だとか。

 ……結構前である。ドラゴンと戦ってるとしたらもう決着はついているんではないか?

 そして既に倒されているとしたら……強力な力をもった魔獣が待ち構えているかもしれない。


 他のみんなも同じような思考をしていたのかもしれない。

 レヴィアは楽しそうにニヤニヤしており、リーリアは普段と変わらずにいる。プリマだけが不安そうな表情をしていて落ち着きがない。


「大丈夫だ。俺に任せろ」


 俺はそう言ってプリマの頭を撫でてやる。

 すると恥ずかしそうにうつむいてしまい、さらにぎこちない歩きになってしまった。

 そんな様子を見たリーリアが俺の隣に並ぶ。


「……お父さんはすぐ手をだす」

「人聞きの悪いことを言わない」

「ぶー」


 不服そうに俺の袖をつかむ。

 ……まったく、欲しがりさんだな。

 少し強引だが、ごしごしと乱暴に頭を撫でてやった。


「雑ー!」

「はいはい」


 それを見たプリマはクスリと笑うと、深く深呼吸をして胸に手を当てた。


「すみません、もう大丈夫です」

「そうか? 無理するなよ」

「はい」


 最初の4日間は何事も起こらずに淡々と過ぎていく。

 むしろ普通の魔獣も見当たらなかったので食事に苦労した。仕方ないので広範囲魔力探知で獲物を見つけていた。

 レヴィアは一人だけ食う量が違うので、自分の分は取って来いというと、「ここは探知が厳しいから手伝って欲しいのだー」と抱きつかれたので仕方なく獲物の場所だけは教えてやった。

 本当にしょうがないやつだまったく……リーリアさんは睨まないでほしい。


 5日目の昼に異変は起こる。

 目の前の山道が……綺麗に無くなっていた。


「な、なんで!? いったい何があったの?」


 まるでえぐり取られたように穴が開いており、その場所は今にも崩れ落ちそうになっていた。

 よくよく見ると向こう側も同じようになっていて、間の空間が丸ごと切り取られたようになっている。

 それは山道を遮るように直線状に伸びており、すべてが消滅していた。

 

「かすかだが匂いがするぞ……血の匂いだ。ここで戦闘が行われたのだろう」


 レヴィアが鼻をならしながらそんなことを言った。

 リーリアがすぐに穴に駆け寄って辺りを見渡す。


「本当だ! 所々に魔獣の足みたいなのが散らばってるよ」

「ということは全滅したんでしょうか!」


 プリマは嬉しそうにそう言うが……。


「うーん、でもこの範囲なら全滅はないのかも? 魔獣は縦に長く列を作って行進していたと思うし」


 俺もその意見に賛成だった。ていうかこんなことをできるやつを俺は知っていた。


「単刀直入に言おう。この破壊力と形状から察するにこれは竜王のブレスだ」

「こ、これがあの竜王のブレスなの!?」


 最初に反応したのはリーリアである。

 子供のころに憧れたブレスが目の前の結果なのだ。目をキラキラとさせ、「すごいすごい」とはしゃいでいる。


「なんでこんなに綺麗に無くなってるの?」


 跡形もないその痕跡を調べながらリーリアが疑問を投げかけてくる。


「竜王のブレスは消滅のブレスだ。原理は分からんが触れたものをすべて消滅させる。本当に恐ろしい攻撃なんだ……俺も一度くらったことがある」

「無事だったの!!?」

「なんとかな……どうやら魔力で防げるようでな。本当にあの時は焦ったぞ」

「魔力で防げるなら……なんで魔獣達は抵抗もできずに死んじゃったのかな?」


 リーリアの疑問はもっともだ。

 問題なのはガードできることではなく、ガードするのに必要な魔力量だった。 


「竜王のブレスは10秒ほど続く。その間ずっとガードしていないといけないのだがその魔力量は半端ないんだ。あの時は絶対量の半分くらい魔力を消費してしまったぞ」

「ええぇぇぇぇ!!! お父さんが半分も!?」

「なるほど。では我らでは耐えることはできぬということか」


 二人が驚く中、プリマだけがぽかんとしていた。


「えっと……ベアルさんってどれくらい魔力あるんですか?」


 まあ、確かに半分とか言われても実感がわかないだろう。

 んー、しかし例えるには比較対象がないなあ。


「そうだな……プリマ。この間、俺と模擬戦をしただろ?」

「はい? ええ、完敗だったあの時ですよね……」

「あの時お前が消費した魔力の約1万倍くらいじゃないかな」

「ええええぇぇぇぇぇ!!? い、一万ですか!?!?!?」

「まあ、大体だから正確じゃないけどな」


 そういえば最近は絶対量を量ってなかったな……。

 300年前と比べてかなり増えているはずだ。

 特に封印から解放されてからすこぶる体の調子はいい。


「いやいやいや! だとしても多すぎですから! っていうかそれなのに半分も持っていかれるとか絶対にガードできないじゃないですか!! 実質上の即死攻撃ですって!!」

「だが実際にガードしている魔獣がいるぞ?」

「えっ!?」


 俺はゆっくりと穴に近づくと、ある一点を指さした。

 そこはブレスの直撃があった場所だが消滅していなく、地面と地続きのようにつながってる部分があった。


「完全に予想だが、今回の首謀者のオルトロスというやつだろう。竜王は西の空からブレスを放った。線状のブレスは斜めに魔獣の集団へと襲い掛かり、オルトロスが防いだ部分の地面が少し残っているんだ」

「本当だ! お父さんの言う通り不自然な部分があるね!」

「嘘……」


 プリマはこの世の終わりみたいな顔をしている。

 どうやらショックが大きかったようだ。

 正直な話、俺も少しドキドキしている。緊張? いや……胸が躍るというのはこういうことをいうのか。


 竜王というのは世界の象徴ともいえる存在だ。この世界で知らないものはいないだろう。

 そんな竜王のブレスというのは特別な意味をもつ。それが防がれるということは、既に人知を超えた存在であるのだ。

 プリマはその事実に驚愕し恐怖して震えていた。

 

「安心しろ。俺が倒してやる」

「は、はい……」


 多少は安心したのか、ぎこちなく口角を少し上げた。


「でもお父さん。竜王はなんで最後まで戦わなかったのかな?」

「確かにそれは疑問だな」


 ブレス以外の戦いの痕跡がない。

 倒しきれなかったとしても直接攻撃や魔法などで倒せたはずだ。

 それとも他に何か理由があったのか?


「そんなことはどうでもいいのだ! 我は早く戦いたいぞ! オルトロスはベアルに譲るにしてもまだまだ強そうなのはいっぱいいそうだ! 我はもう待ちきれないのだ!」

「レヴィア落ち着いて! ……でも私たちで残りの敵は倒さないとね」

「うむ! 殲滅してやるのだ!」


 頼もしい仲間である。

 しかしその通りだ。

 俺がオルトロスと対峙するのであれば他の魔獣は任せることになる。

 なのでレヴィアとリーリアの活躍がこの戦いのキーであるといえた。


「まあ竜王がいることが分かったし、やつは本当に強い。もしかしたら別の場所に移動して倒しているかも知れないからな」


 それはないだろうと思いつつも俺はその一言を口にした。

 こう言えばプリマが安心するかなと思ったのだ。

 案の定、プリマの表情が少し和らいだ。


「それではつまらん! 我はあばれたいぞ!」


 若干空気の読めない子もいた。

 だが、俺も言葉にしないだけで実は戦いたいと思っている。

 そこは戦闘大好きやろうの宿命だな。


「……まあ、これ以上は分からないことばかりだ。改めて警戒しながら進むぞ」




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