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63、不穏な空気

 


 翌日、不穏な魔力を感じ目が覚めた。


 魔力は……この先の麓からか?

 簡易小屋をでるとそこにはレヴィアが仁王立ちしていた。


「レヴィア、起きていたのか」

「うむ、さっき起きたばかりだがな」


 俺はレヴィアの横にならび、同じように山の麓らへんに視線を送った。


「1……2……3……かな。なかなか強そうじゃないか」

「うむ、我と同じく人魔獣であろうな」

「わかるのか?」

「我は特殊なセンサーを持っていてな。海では水を伝って感じ取っていたが、陸ではそれを風で代用しておこなっておる。気配というか匂いというか……よくわからんがそれで識別できるのだ」

「なるほどな」


 魔獣はそもそも人にはない直感などの感覚が優れているといわれていた。魔力操作は俺のほうが得意なのだが、その魔獣特有のセンサーによって俺より先に気が付けたということか。

 考えようによっては他の魔獣もそれを持っていることになる。相手が強くなればレヴィアのようにこっちが後手になることも十分に考えられるので、油断せずいつでも警戒しておかなければならないだろう。

 俺は改めて気を引き締めるのだった。


「なぜ山の麓に人魔獣が集まっていると思う?」

「それはわからぬ。わかるのは麓にいる3匹は徒党を組んでいるだろうということだけだ」

「まあ、そうか」


 俺はエルサリオスの元にいた人魔獣を思い出す。

 やつらは人魔獣の世界を作るという目的を掲げていた。まあ、真実かどうかはわからないし、それはエルサリオスだけの目的だったかもしれないけどな。

 だが知恵をもって何かしらの目的があるのは事実だろう。

 でなければ3匹まとまっているのは偶然にしてはできすぎている。


「ベアルよ、もしやつらが連携をしかけてくるのだとしたら厄介だぞ。プリマは置いていくべきだ」

「……そう、だな」


 連携は個の力を数倍にまで引き伸ばす可能性を秘めている。

 そしてもし連携を仕掛けれれれば……俺達の弱点となるのはプリマだろう。

 数段劣っている彼女は俺達の動きについていけずにやられてしまうのは目に見えている。

 俺が守ってやってもいいが、そうすると相手の実力が高かった場合かなり厄介な事になるだろう。

 ならば最初から俺とリーリアとレヴィアで向かった方がいい。


 しかし……。


「俺達だけだと道がわからん」

「それはそうだのう……」


 どうしようか二人で悩んでいたところにリーリアが起きてきた。


「おはよ……なんかかすかに嫌な魔力を感じるけど敵?」

「おはようリーリア。敵かどうかは分からんが麓らへんにいる。レヴィアの話だと人魔獣だそうだ」

「──!」


 目をこすっていたリーリアも瞬時に真剣な表情へと変わる。

 人魔獣との因縁が一番あるのはリーリアだしな。


「強い?」

「ここからだと分からないな」

「そっか」

「──あれ? 皆さんそろってどうしたんですか?」


 これだけ喋ってればさすがに五月蝿かったのだろう。プリマもかなりだるそうに起きてきた。

 少しふらふらしているのは、また寝不足だからか?


「山の麓らへんに強そうな魔獣がいるって話をしていたんだ」

「ここから分かるんですか!!? かなりの距離があるのに……やっぱりすごい!」


 プリマには人魔獣のことは話していないからそう言ってぼかしておいた。

 しかし、これから先も一緒に行くとなれば嫌でも知る事になる。

 とするなら、戦う直前に教えるよりは今教えたほうが混乱は少なくてすむ。心の準備も必要だろう。

 プリマを連れて行くか決断するなら今しかない。


 まず整理をしよう。

 プリマがいる場合のメリットはドラゴンの里までの道案内である。道案内があっても七日間かかるというのだから道案内がない場合のことは考えたくない。

 デメリットは戦いのときに守らなくてはいけないために大変になるということだ。

 正直どっちがしんどいかと言われれば道に迷うことである。

 だが俺はもう間違いは起こさない。最善の安全策をとると心に決めている。


 ていうか……戦うときだけ遠くにいてもらって、倒したり解決したら道案内をしてもらえばいいんじゃないか?

 そうすれば人魔獣のことを教えなくてもいいし、なにより安全だ。


 ……うん、これが名案だろう。

 俺はこの考えを伝えることにした。


「プリマ。ここから先はお前より数段強い魔獣がうじゃうじゃいる。だから俺達が倒してくるまでの間、ここで待っててくれないか?」

「……え?」


 何を言われたのか分からない様子で愕然とするプリマ。

 畳み掛けるようにレヴィアも俺の言葉に続く。


「うむ、おぬしでは足手まといとなろう。だからここに残るといい」


 レヴィアに言われた事で気を持ち直したのか、みるみるうちに目が鋭くなっていき、それはレヴィアへと向けられた。


「そ、そりゃあたしはベアルさんと比べたら全然弱いですよ! でもね、あなただってベアルさんにずっとくっ付いて、戦闘なんて何もしてなかったじゃないの!」


 ……言われて見れば確かにそうだ。

 俺とリーリアはレヴィアの実力を知っているがプリマは知らない。

 それに発情期ということでずっと俺にべたべたしていたから印象も悪いのだろう。

 …………あれ? 発情期?


「そういえばレヴィア……お前、発情期はどうなった?」

「うむ、それなら終わったぞ」

「は? いつの間に!?」

「今朝だ。起きたときにはもうおさまっていた。多分だが本能が発情どころではないと教えてくれているのだろう」

「そ、そうなのか」


 若干、寂しいなって思わなくもないが、これから戦闘になると考えると、まあ……おさまってくれて良かったなとは思う。

 

「ベアルさん……発情期が終わって寂しいって顔してますよ……っていうかですね! レヴィアの実力を見ないことにはあたしも納得できません!」

「ほう……我の実力をか。全然かまわないぞ」

「余裕なんだね……」

「まあの。おぬしの実力はもうわかっとる。我には絶対に勝てんぞ」


 プリマの言いたいこともわかる。

 これでレヴィアだけを連れて行けば、贔屓されたと思って拗ねて帰ってしまうかもしれない。それどころか俺は発情した女の子が好きで色香に負けたやつ……というレッテルを張られてしまうかもしれない。それは嫌だ。


「仕方ない。じゃあレヴィアとプリマで対決してみてくれ……プリマ、これで負けたら大人しく待っていてくれるか?」

「……ベアルさんはあたしが負けるって思ってるんですね。いいですよ。分かりました。負けたら大人しくここで待ってます」


 半分拗ねたようにそう言って両諾すると、「やってやる」と何度も呟いた。

 

 プリマには悪いが勝つ可能性はゼロに等しい。

 だからこれは決定事項なのである。

 

 お互いに無言で少し離れた場所で向かい合った。

 あとは俺の合図を待っている状態だろう。


「では……始め! ──それまでっ!!」

「えっ」


 一瞬だった。

 俺の開始と終了の合図と共にプリマが小さく声を上げた。

 そこで起こったことは一瞬。


 プリマの喉元にはレヴィアの手刀が突き付けられていた。


「え……あ……嘘? いつ……え? あたし負けたの?」

「わかったであろう? これが見えぬということはおぬしの実力はそんなもんということだ」

「……あ」


 ガクンと膝から崩れ落ち座り込んでしまう。

 そして項垂れたまま、「うぅぅぅ」と嗚咽をする。


 プリマはこれほどの実力差を見せつけられたのは初めてだった。

 実際、ベアルやリーリアとも実力の差はあるけれど、何年も努力すればその域に到達できるのだと思っていた。

 だが、それは間違いだった。

 リーリアはプリマの実力に合わせて一緒に戦ってたし、ベアルにいたっては完全に手加減どころか子供をあやすみたいな感じで模擬戦をしてくれたということが分かった。


 ────こんなの! 到達できるとかできないとか、そういうレベルじゃない!!

 

 レヴィアとの戦いでそのことに気が付き、プリマは急に絶望から羞恥へと気持ちが変わっていった。


(ああ、完全に実力を履き違えて、我儘言って……そりゃそうよ。こんなに実力が違うんじゃ足手まといにしかならないじゃない!)

 

 

 プリマは完全に落ち込んだようでずっと黙っていた。

 気の毒だとは思うが、このまま時間をつぶすわけにはいかないので声をかけようとしたその時、突然リーリアがプリマの前に立った。


「ねえ、お父さん。プリマも連れて行かない?」

「ん? …………えー、どうしてだ?」


 俺はリーリアの意図がわからなかったが、慎重にその意図を聞こうとした。


「私もね。お父さんとリヴァ……あー、魔獣の戦いをみて育ったから。それで強者の戦いというものを知ったおかげで強くなれたの。見るだけでもすごく勉強になって……だから危険かもしれないけどプリマも連れて行ってあげたいんだ。 ……私の弟子だし!」


 その言葉にプリマはゆっくりと顔を上げると、くしゃくしゃになった顔で、「師匠ぅぅ!」と言ってリーリアに抱きついた。


「プリマ! 鼻水きたない!」

「うわぁぁぁん!」

 

 リーリアにとってプリマが初めての弟子ともいえる。それはこの旅の行程だけの短い期間だが、師弟関係はすっかり定着しているようだった。

 俺はそれが少し寂しい気もしたが、今はリーリアの成長を喜ぶことにしようと思うのだった。

 

「わかった……だがリーリア。ならばプリマはお前が守るんだぞ?」

「うん! 絶対に守る!」


 まあ、そうはいっても、俺もリーリアを危険にさらすつもりは絶対にない。

 いざというときは二人とも俺が守る! そう心に誓うのだった。



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