60、ワイバーン討伐
「では討伐を開始だ」
俺の戦闘開始の合図でリーリアは勢いよく飛びだした。
一方、俺はその場に残っていた。
「……あの、いかないんですか?」
まったく動こうとしない俺に対し、不思議そうにそう尋ねてくる。
俺は何もいわず、人差し指を口に当て、黙って見てなと視線で答える。
するとプリマはそれ以上何も言わず、ゴクリと生唾を飲むと静かに見守っていた。
──さて、やるか。
魔力探知にさらに集中……。
3つの巣を確認……さらにサーチ。
それぞれの巣に親のワイバーンが1匹。
卵数個あり孵っていない。
もう一匹の親はエサを取りにいってるからか居ない。
的は親ワイバーンの頭。
全身の形を把握……輪郭の位置を確認。
──よし、やるか。
探知時間は10秒程度。
すべての確認を終えた俺は静かに目を開いた。
足元に落ちていた小石を3つ拾う。そして魔力を込めると上空に投げた。
真上に投げた小石はまるで意識をもった生き物の如く大きくカーブを描き飛んでいく。
そして…………。
3つの小石は3匹のワイバーンの頭を粉砕した。
数分後、魔力の糸で引っ張ってきたワイバーンの死体が3つと卵数個が足元にならんでいた。
「……えっ、すご……全部顔だけに命中しているし……しかも一歩もここから動いていないし卵も無傷だ……」
呆気に取られているプリマ。
しばらくワイバーンの死体を確認していたが、はっと何かに気がついたようにこちらに顔を向けた。
「あれ? しかも魔法を使ってなくないですか? ……もしかしてあたしも頑張ればこれをできるようになれるってことです?」
「ああ、その通りだ」
「おおぉぉぉ……って、そのためにわざわざ見せてくれるなんて、ベアルさんってもしかして凄く優しいですか?」
「……本人にそんなこと聞かれても困るんだが」
「あはは! そうですよね! ……ありがとうございます」
ぺこりと律儀にお辞儀をするプリマ。
そんなやり取りをしていたらリーリアが戻ってきた。
「はぁはぁ……ああああ! やっぱりお父さんの方が早かった!」
ワイバーンを魔力の糸を使い運びながら、そう言ってガクリと肩を落とす。
丁寧にワイバーンと卵を地面に下ろすと、そのまま座り込んでしまう。
「おかえり! リーリアも十分早いと思うんだけど」
プリマの正直な感想に対し、リーリアは不服だと言わんばかりに、
「ううん。今回は勝つつもりでやったの! だから凄い急いだのに!」
「別に競争ではなかったぞ?」
「でもお父さんだって私にスピードで負けるつもりはなかったでしょ?」
「ふ、まあな」
「ぶー!」
釣りを思い出す。どっちが大物を釣れるか、どちらが早く釣れるかなど、常に競っていたものだ。
俺はそのときを思い出し、自然と笑みがこぼれた。
そんな俺の顔をじーっとプリマが見つめている事に気がついた。
「なんだ? 俺の顔になにかついているか?」
すると、かなり慌てて手をブンブンと振りながら、
「い、いや、その! ……ただ、すごい優しい顔してるなって思って……見てました……いいなって……」
どんどん語尾が小さくなって最後の方は全然聞き取れなかった。
……優しい顔か。釣りは楽しかったし、リーリアと一緒にするようになってからは一番の娯楽だった。自然と顔がゆるむのも仕方ないだろう。
「ねえお父さん! そのワイバーンはどうやって倒したの?」
いつの間にか近くによってきていたリーリアが俺の服をひっぱる。
「ああ、これはだな……」
リーリアに説明すると、
「お父さんの魔力探知なら納得……てかお父さん、プリマに優しすぎない? やっぱりおっぱいなの?」
「いや……胸は関係ないぞ。ワイバーン退治が終われば案内をしてもらう訳だし、倒すついでだったからな」
「ふーん……そういうことにしておくね!」
なぜか我が娘はおっぱいに厳しい。
うーん、リーリアも成長期だしこれから全然成長すると思うのだが……。
そんな風に考えてリーリアを見ていたら、
「違うもん! お父さんのエッチ!!!」
考えてる事がばればれだったらしい。
……難しい年頃である。
ふと、プリマのほうをちらりと見ると、恥かしそうに胸を隠していた。
………………俺はエッチじゃないもん!
その場で数時間、もう一匹の親ワイバーンが戻ってくるのを待っていた。
一匹、また一匹と、逃さない様に巣でパニックに陥ってる所を一瞬で仕留めた。
合計12匹のワイバーンと15個の卵をゲットすることができた。
「ありがとうございます! これでワイバーンの脅威もなくなると思います! ……リーリアもありがとね!」
「うん」
確かにこれで脅威はなくなっただろう。
だが、それは今年に限っては……だ。
「プリマ、ここは来年になったらまたワイバーンがやってくると思うぞ。それくらいここの立地はワイバーンの繁殖に適している」
「……そうですよね」
「ああ……ていうか毎年来てたんじゃないか? 去年とかはどうしていたんだ?」
「それなんですが、実は────」
プリマの話では最近ドラゴンの姿をめっきり見なくなったらしい。
その影響が今年は顕著に表れていて、町の付近の魔獣が多くなり、ここのワイバーンも退治されずにそのままの状態になっているとか。
オルフェの町に冒険者が少ないのもドラゴンが魔獣を倒してくてれいたおかげだった。
だから今年はドラゴンの姿が見えず、町人も困惑しているのだとか。
「……なので今のこの状況はベアルさん達におんぶに抱っこ状態だったんです。ドラゴンの里にいくのだって渡りに船といいますか……あはは」
そうぶっちゃけるプリマ。
なるほど、納得した。
プリマが一時的にでも町からいなくなるのはリスクがある。
だが、ワイバーン退治はもちろん、ドラゴンの現在の状況を知るのはリスクを犯してでも知っておきたい事であった訳だ。
つまりは俺達もオルフェの町としてもウィンウィンの関係だということだ。
「そうか、いや、むしろただの親切心よりそっち方が良い。これで遠慮しないでプリマを連れまわせる」
「ええぇぇ! お手柔らかにお願いします……」
帰りは俺が魔力操作ですべてのワイバーンと卵を運んだ。
相当な重量だったが、まあ何てことない。
道中、修行だと言って一匹だけプリマにも運ばせようとしたが、何度か落としてしまい皮に傷ができそうだったのでやめさせた。
リーリアが自分もやると言い出したので運んでもらったが、しっかり全部のワイバーンと卵を運んで見せた。
それを見たプリマがまたしても絶望に打ちひしがれる事になるのだった。
……何故か分からんが、どうやらリーリアはプリマに厳しいらしい。
会話のやり取りからもそんな様子が窺えたのだ。
だがプリマはめげない性格であるようで、リーリアと何度も会話をしていた。
リーリアは人見知りであるが押しには弱いため、次第に気を許すようになっていた。
オルフェの町につく頃、二人は互いに気兼ねなく意見を言い合うようになっていたのだった。
町に着いたとき、俺は油断していたんだとおもう。
魔力探知なんてしていなかったし、冒険者ギルドでまた美味い飯でも食わせてもらうかとかそんな事を考えていた。
だが、それは突然襲ってきた。
「ベアルーーーーーーーー!!!!」
ギルドの扉を勢いよく開け放ち、一直線に俺へと向かってきた。
あまりに突然のことで俺は避ける事ができない。
「くっ!」
仕方なく魔力全開でそれを受け止めようとした。
だが──
ガシッ!
勢いよく飛び込んできたそれは俺の体に抱きついた。
「なっ!」
「ベアルよ! 遅かったではないか!」
それはリヴァイアサンことレヴィアであった。




