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6、服




 リーリアは5歳となった。

 すっかり身長も伸び、顔はより可愛らしくなり、薄い紫色の髪は背中あたりまで伸びていた。

 日々の生活は変わらない。

 訓練、遊び、勉強、食事、睡眠。

 これのローテーションだ。

 

 しかしあるときからリーリアに変化があった。

 訓練の手合わせをしているとき、やたらと隙が多くなった。

 食事も視線は向けてくれているのだが体は横を向いている。勉強も同じだ。

 会話の歯切れも悪く、俺を見上げてはもじもじと下を向いてしまう。

 最初は俺が何かしてしまったのではないかと不安に駆られたが、どうやら違うみたいだ。

 それはリーリアの方から告げられた。


「あの……お父さん、その……この服、ぼろぼろでちょっと恥ずかしい……かも」


 ガーン


 ショックだった。

 それはリーリアの言葉がショックだった訳ではなく、そんな服を着させていて何も感じなかった自分にである。


 リーリアの服はこの島に漂着していた一般的な子供用の麻の服である。

 3歳の頃はひざまであったスカート丈も、今ではももあたりになってしまっていた。

 しかも麻の服はいたるところに穴が開いており、汚れも目立つ。

 

 それに引き替え俺の服装は何だ。

 昔、冒険者だった頃に全財産をはたいて購入した高価な魔力付与エンチャントの服である。

 300年も経っているからそれなりにぼろぼろだが、リーリアの服装に比べたら全然マシだ。

 漆黒のマントなんかは一番高価だったこともあるし、大事に使っていたため、色褪せはあるが生地の痛みはさほどでもない。


 俺は自分が良い物を着ているのにリーリアには粗末なものを着させていたのだ。

 ……しいて言い訳するならば、サイズがなかったというのもある。

 もしこの島に他の誰かがいたのならこう言うだろう。


 子供になんて服を着せているんだと。


 自分でその事に気がつけなかったことに俺の動揺は激しくなる。

 リーリアは女の子だ。もっと気を使ってあげるべきだった。

 ああ、どうしよう。俺はひどい親だ。

 本当の親ではないから気がつけないのだろうか……。

 実の親であれば子供の機微などがわかるのだろうか。

 ああ、くそっ!

 すごい苛立つ。やはり俺は300年前と変わってないのか?


「……お父さん? どうしたの?」


 意識は現実へと戻される。

 どうやら放心していたらしい。

 リーリアは上目遣いで心配そうにこちらを見ていた。

 

「い、いや……そうだな……いや、なんでもないんだ」

「そ、そう? えっと……もし長い布とか漂着してたら欲しいかも」

「ああ、そうだな……わかった」


 咄嗟に言葉が浮かばない。

 そしてすごい気まずい。

 多少の沈黙の後に、


「じゃあ私向こうで遊んでくるね!」


 リーリアはなにやら焦ったような感じで去っていってしまった。



 ……ああ、嫌われたかもしれない。


 そう思うと俺の心臓はまるで握りつぶされたかのように絞めつけられる。

 今までこんなダメージを負った事はあるだろうか。300年前に戦った竜王のブレスよりもダメージがでかい。


 俺はもうリーリアなしでは生きていけない。


 もし「お父さん嫌い! 島からでていくけどついてこないでね!」なんて言われたら自殺しそうだ。

 まあ優しいリーリアはそんなことは言わないだろうが、今後どうなるかなんてわからない。


 …………いや、まて。

 嫌われたならそれを猛省もうせいしてもっと良い事をすればいいじゃないか!

 こうなった原因はなんだ?

 そうだ、服だ。


 俺は自身のマントを外し、手触りを確かめてみた。

 見た目よりかなりしっとりとした手触りで、引っ張ってみたが伸縮性もそれなりで防御力も高い。

 うん、これならいい生地になるだろう。

 魔力付与も付いているが手を加えたら消えてしまうだろうが、リーリアの服として生まれ変わるのなら悔いは無い。


 よし! これで可愛い服を作るぞ!



 ■



 服を作ると決心したものの材料は俺のマントのみ。

 可愛い服を作ろうにもマントは黒色でバリエーションが無い。当然ながら裁縫の技術など持ち合わせてはいないため、結局黒いローブを作ろうという事になった。

 リーリアはまだ5歳、まだまだ成長期だ。ローブならば長く使えるだろう。

 ダボダボになるように設計し足首辺りまでの長さにすることにした。


 試行錯誤をしながら石で作った針や拾った服の材料を使い、魔力操作なども駆使しつつ、なんとか完成する事ができた。

 リーリアが一人で遊びや訓練したりしている時間を利用して、隠れてちまちまと製作した。


 完成したローブを見てニヤニヤする。

 きっと似合うだろう。

 あとはサイズが合ってくれる事を祈るのみである。



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