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59、なんでも極めれば



 翌日、オルフェの町をでて北へと歩みを進めていた。

 山々が連なる山脈の麓にワイバーンの巣があるらしい。

 歩きながら詳しい説明をプリマから受けていた。


「──という感じで町に何回もきてるので、いっぱい巣があると思うんです!」

「……なるほど」


 お世辞にも説明上手とはいえない何ともアバウトな説明を受けながら何となく理解する。

 要するにめっちゃ町に現れて、追い払うのが急がしく大変だから、全部退治してくれということだ。


 まあ、余裕だろう。

 魔力探知をすればワイバーンならすぐ見つかるだろうし倒すのも苦ではない。

 それに素材は格安だけど買い取ってくれるらしい。

 肉はまずいらしいが、ワイバーンの皮は丈夫で様々な素材として利用できる。

 もし大量に入手できれば町総出で加工して輸出で一儲けするのだとか。

 俺としてもずっと持ち運ぶのなんてだるいし、安くても金になるのなら断る理由もない。お礼としてプリマがドラゴンの里まで道案内もしてくれる訳だしな。


「リーリア、聞いてた通り皮は素材として売るためになるべく傷をつけないように倒そう」

「うん、分かった! 頭を切り落とせばいいよね?」

「ああ、それでかまわない」


 俺達のやり取りをプリマは感心したように見ていた。

 

「リーリアも倒せるんだ! すごいね!」

「うーん、わかんないけどね」

「え!? でも今、自信満々じゃなかった?」

「うん。お父さんが私にも戦わせてくれるってことは倒せる相手って事だと思うから」

「あ~……なるほど。リーリアの実力はベアルさんが一番知ってるってことか」

「うん」


 そしてふと何かに気がついたように大きく目を見開くプリマ。


「あれ!? ってことはあたしよりもリーリアの方が強かったりする!?」

「うーん、どうなんだろ。私は魔法が使えるから不利じゃないかも」

「そ、そっか。うんそうだよね」


 リーリアは何とかごまかしていた。

 ぶっちゃけていうとリーリアの方が強い。

 でもそれをはっきり言わずに受け流している。なんという空気が読める子なんだろう。

 

「あ、あそこの丘で今日は休みましょう。そうすれば明日の昼前にはたどり着けます」

「わかった。さすがに夜に戦うのは避けたいしな」

「はい!」


 日が沈むまではまだ時間があるがしょうがない。

 俺はともかくリーリアやプリマを危険にさらすわけにはいかない。

 

「では野営の準備をするか……プリマは慣れているか?」

「はい! おじいちゃんに色々と教わっているので大丈夫です!」

「そうか。わかった」


 少し早めの夕食を食べ終わった後、そのまま雑談をしていた。

 というのもプリマがやたらとおしゃべりで会話が止まらなかったのだ。

 俺達のことをやたらと聞いてくるので、当たり障りのないところで色々と話をしてやった。

 そんな話をしていたら、いつの間にか俺の過去の話となっていた。


「ベアルさんは魔族大陸出身だったんですね! へえ~! それでSランクにはいつ頃どうやってなったんですか?」

「いつだったかな……当時大陸を荒していた魔獣を倒した時だったかな」

「そんな凄い事をしていたのに覚えていないんですか!」

「いや、まあ当時は生き急いでいた感があってな。冒険者の依頼だけじゃなく、自分から休む間もなく、次々と難関を乗り越えていったんだ。ダンジョンを攻略したりな」

「ダンジョン! うわーいいなあ! あたしもダンジョンにはあこがれているんです! いつか仲間と一緒にダンジョンを攻略したいなって」

「やればいいだろう?」


 俺がそう言うと、プリマは少し悲しそうな表情となった。


「でも……オルフェにはもう若い人がいないから……それにおじいちゃんやおばあちゃんもいるし……」

「……そうか」


 まあ理解はできる。だが俺だったら耐えられずに出て行く。

 だからといって無責任な事は言えない。結局この問題はオルフェの町の問題であり、俺がどうこう言う事ではないからだ。


「あはは……すみません。なんか暗くしてしまいましたね! でもいいんです。あたしは魔法も使えないし、才能がないからダンジョン攻略だってどうせ無理だし……」


 空気が重くなってしまったと思ったのか慌てたように自虐するプリマ。

 だがその口は少し歯を食いしばっているように見えた。多分くやしいのだ。


「ワイバーンにも勝てないのにダンジョンなんて笑っちゃいますよね。駄目駄目なんですあた──」

「──それは違うぞ」


 そんなプリマに見かねた俺はついつい口を挟んでいた。


「……え?」

「さっき俺はダンジョンを攻略したといったな?」

「あ……はい」

「パーティーの仲間にケルヴィというやつがいてな。あいつは魔力は高かったが魔法の才能に恵まれなかったんだ。だがあいつは努力して物理だけなら俺をも凌ぐほどの火力を身につけたんだ」

「えっ!!? 本当に!?」


 俺の話しを聞き逃すまいと前のめりになり息のかかるほどまで近づいてきた。

 プリマはその豊満な胸もそうだが、服装も胸元が大胆な事もあり、自然と覗き込む形となってしまう。

 うむ……眼福である。


 するとリーリアが席を立ち、俺とプリマの間に割って入った。

  

「プリマ……落ち着いて……あとそれ・・


 リーリアが指を指しているのが自身の胸だとわかると。


「え!? あっ! ごめん!」

 

 プリマは顔を真っ赤にしてもとの位置へと戻ると、正座をして背筋をピーンと伸ばしていた。

 リーリアはその場に残り俺に背を預けて寄りかかってくる。


「リーリア?」

「お父さんは私だけを見ていればいいの」

「いや、これは不可抗力といってだな……」

「いいから!」


 有無を言わさずさらに体重を乗せて寄りかかってきた。

 仕方ないので後ろから抱く感じでリーリアと寄り添った。


 そんな様子を見ながらプリマはまだ恥かしそうにもじもじとしていたが、好奇心の方が勝ったのだろう。聞き足りないとばかりに俺に質問をしてくる。


「えっと……そのケルヴィさんはどうやってそこまで強くなったんですか?」

「まあ魔法を使えないだけで魔力は高かったからな。魔力を上手く操るコツを教えただけだ」

「!!! そのコツってどういうものなんですか!?」


 またもや興奮していたが今度はその場から動かなかった。

 

「魔力操作といってな……魔力を放出するんだができるか?」

「え? できますけど……一応攻撃する時に強化したりするから……」

「まあ、とりあえずやってみてくれ」

「わかりました!」


 プリマは手を出して集中すると魔力の塊を放出した。


「これでいいですか?」

「ああ……じゃあ次はそうだな……拳くらいの大きさで」

「え? はい……」


 しばらく集中したあと、「はっ!」と気合をいれて拳サイズの魔力を放出した。


「できた!」

「よし、じゃあ次は指サイズな」

「え? わ、わかりました!」


 プリマはしばらくうーんうーんと唸り、かなり時間をかけてようやく作り出した。


「で……できた!」

「よーしいいぞ! じゃあ次は糸サイズな」

「ええええええ! そんなの無理! 無理ですよ!!」

「え? できないの?」

「えっ! できるの?」


 プリマの発言にリーリアが驚き、それにまたプリマが驚いた。


「リーリア、見せてあげなさい」

「うん、はいっ」


 掛け声と共に一本の細い糸の魔力がリーリアの指から放出される。

 それはくねくねと宙を舞い魚の造形となった。


「え……こんなことができるんだ……え、本当に?」

「うん……っていうか私はこれが普通だと思ってたんだけど」

「いや、普通じゃないよこんなこと! 見たこと無いし、こんな細かい操作できる人なんてやばいよ!」


 まあ、リーリアにはいってなかったが普通の人はこんな細かい操作はできない。

 魔法は発音すれば自動で精霊が作り出してくれるから、あとは魔力を強くするか弱くするかするだけだ。そこに細かい操作など必要ない。

 それは武器の技も同じで精霊が管理してくれるから必要ないし、魔力強化だって強くしたいところに魔力を集めればいいだけだ。

 

 だから魔力を細かく操作する必要などないと普通は思うのだ。

 

「ここまで細かく操作できれば利点がたくさんある」

「それはいったい!?」

「まず一つは魔力の節約だ。例えば魔法の使えない者がファイアーボールをガードしようと思ったらどうする?」

「魔力バリアで受け止めます」

「ああ、その魔力バリアだが無駄が多いんだ。ぶっちゃけファイアーボールなんて受け止めるよりそらしたほうがいい。魔力操作によって細い魔力の糸を展開して横にそらすだけだ。だから魔力の消費も1割くらいですむのだ」

「えええ! そうだったんだ! 全力で消しにかかってました」


 プリマはすぐにでも練習しようと指に魔力をこめ、魔力の糸を出そうとしていた。だが当然に太いものしかできない。


「あとはこんな風に擬似魔法みたいな感じにできるぞ」


 小石を拾って手のひらにのせ、それをデコピンで弾いた。

 すると同時に近くの岩が爆発する。


「……え?」


 プリマは何が起きたんだといわんばかりに呆然としていた。

 

「ストーンボールみたいなものだ。小石に魔力を込め高速で弾き飛ばした。小石を拾わなければいけないぶん使用できる場所はかぎられるが、魔法を使えないプリマにとっては有用なのではないか?」

「ゆ……有用どころかすごい革命ですよ!!! 凄い衝撃を受けました! そっか……極めればこんな威力になるし、魔力操作ってこんなに万能だったんだ……正直今まで魔力操作っていうものを舐めてました! あたし頑張ります!」


 メラメラとやる気に満ちている。そこには先ほどの、諦めという自虐をしていた姿はすっかりと消えうせていた。

 

「極めさえすればケルヴィのようにSランクになることも夢ではない」

「わかりました! これから毎日練習します!」

「ああ」


 ぶっちゃけ魔力操作は才能も関係してくる。

 親しくなった人に教えてきたが、できた人はその中でも一握りだ。

 プリマができるようになるかは分からないが、それでもある程度は上達するのでまったく無駄になるということはない。

 だができるようになれば……化けるだろうな。


 

 結局その日はプリマが魔力操作の練習に夢中になったので雑談はお開きとなった。

 翌朝、プリマが寝不足だったのは夜中まで練習していたからだろう。

 それほど本気なのはよく分かったが、今日はワイバーン退治の日である。そこは注意をしておいた。

 ごめんなさいと反省し、しょげていたが、「一緒に旅する間は指導してやる」と言うと、しょげていたのが嘘のように元気になった。

 リーリアがじーっと目を光らせていたが……まあこれくらいならいいだろう?

 

 そんなこんなでついにワイバーンの巣へとたどり着くのであった。



 入組んだ岩壁や岩石が立ち並ぶ地帯に巣はあった。


「ここら一帯のどこかにワイバーンの巣があると思うんですが……」

「そのようだな。6つほどあるようだ」

「えっ! もうわかったんですか!?」

「魔力探知をしながら歩いていたからな」

「それにしても早い!」


 リーリアはすでに剣を抜いていていつでもいけるよと視線で合図している。


「じゃあやるか。そうだな……ここから左側はリーリア、右側は俺が担当しよう。プリマはここで待機しててくれ」

「あ……ええと、連れて行ってくださいって言うのは我侭ですかね……」


 頬を掻き視線をずらしながらそう言うプリマ。

 うーん。ここは飛べなければ探索に時間が掛かりすぎる。


「抱えて飛んでもいいんだが……」

「えっ! 本当で──」

「──ダメ!」


 間髪いれずにリーリアが反対する。

 何故だろうと思い、ちらりとリーリアを窺うと、ジト目になって俺を睨んでいた。

 

「えっ! 足手まといだって言うのは自覚しているけど……そこまでダメなの!?」


 プリマも何故なのか分からずにリーリアに詰め寄る。

 するとリーリアはある一点を指差す。

 ……胸である。


「ダメ。そのおっぱいがダメ」

「……え?」

「お父さんが抱えるとすると、どうしてもどこかに当たっちゃう。だから絶対にダメ!」

「ええええええ!!! そんなこといわれてもおぉぉぉぉぉ!!!」


 プリマも予想外の指摘だったのか、顔を赤くし、もはやなんと言っていいか分からず発狂するしかなかった。

 かくいう俺も、「あ、確かにそうかもしれんわ」と妙に納得するのだった。


「……コホン。飛べなければ探索は時間が掛かってしまうから今回は諦めてくれ」

「あ……はい。ベアルさんの戦いを見たかったんですがしょうがないですね」

「まあそのうち機会はあるさ」

「はい……」


 なんだか変な空気になってしまったが、気を取り直してワイバーン討伐をしよう。



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