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58、一方、レヴィアは……



 ベアル達と別れて三日。

 リヴァイアサン……もといレヴィアはパイロの町へとたどり着いた。

 

「ここが人の町か。思ったより狭いのだな……だがすごいな」


 レヴィアは町の内部の様相に感嘆の声をもらす。

 行きかう人々や密集している建物が狭いと感じた。しかしすぐに、ああ……自分は人なんだということを思い出す。

 それと同時に群れている魚を思い出した。

 奴らは群泳する事によって効率よく動いているし、弱い生き物であるため群れて狙われにくくして生存確率を上げている。

 なるほど。この人サイズであるならば広すぎても逆に効率が悪いのかと勝手に納得した。


 そんなことを考えながら歩いていると、妙に人の視線が気になった。

 ……すれ違う人々が我の事を振り返って見ているのか?

 ちらりとそれとなく確認してみる。

 すると目が合った人はすぐに目をそらして足早に歩いていってしまった。


(もしかして魔獣だとばれておるのか!?)


 ベアルやリーリアには完璧だといわれている。

 我も人として見れば、二人とは差異が感じられなかった。

 しかしこの場では皆が我の事を不自然に見ておるではないか!


 ううむ。ばれるのは好ましくない。

 せっかくもらった10万ゴールドが使えんではないか!

 とっても由々しき事態である。

 

 レヴィアは怪しまれるのはよくないと思い。横の細い路地に入る。

 しばらく歩きながらどうしようかと思考していたら、数人の男から話しかけられた。


「やあ、君はどこからきたんだい? 見慣れない顔だね……この町を案内してあげるからちょっとあっちの店で話をしないかい?」


 男が指す方向にあるのは、薄暗い地下への階段である。

 ……やばい、疑われておる。

 きっと店とやらは魔獣を処刑するのに使っている場所なのだろう。

 負ける事はないが騒ぎを起こしたくはない。

 ベアルに頼まれたことを達成できんではないか!


 ちくん


 そのとき胸のあたりに小さな痛みが生じたのを感じた。

 っ! なんなのだ?

 初めての痛みによくわからずに困惑した。


「ねえねえ。黙ってないでさ……君も分からないことばかりで混乱しているだろう? さあ、こっちにきて」


 男はレヴィアの手を掴むと無理やり引っ張ろうとした。

 だがピクリとも動かなかった。


「ん? なんだ? 動かない!? ……っち。人が下手にでてりゃ生意気に……もういい! いいからこっちにきやがれ!!」


 男たちはレヴィアの手を引っ張ったり、背中を押そうとしたがそれでもびくともしなかった。


「おぬしら遊んでおるのか?」

「何だこの女! まるで石を押しているようだ!! まったく動かねえ!!!」

 

 なんだ? こいつら全然弱いではないか!

 こんな実力で我を倒そうなんて100万年早いわ!!!


「我を甘く見ているようだな。だが我は寛容だ。実力に見合わぬその行動……ゆるしてやろう」

「くそっ! うるせえ! こうなったらこの場でやってやる!」


 男たちはそれぞれ武器を取り出した。

 ナイフや剣といった刃のついた武器である。

 しかしどれも粗悪な品でどうみても精霊がついているような代物には思えなかった。


「へへへ、まずはその服を脱ぎな……刻まれたいってならそのままでいいけどよ」


 こいつらは馬鹿なのか。

 この服に防御力など皆無である。服を脱いだところで実力差が覆る事はない。

 それに何故か勝てる気でいるこいつらに無性に腹が立った。


「この服は大事な子にもらったものだ。刻まれるわけにはいかぬ」

「へへ、じゃあ──」


 その場に一陣の風が吹き抜ける。


 それと同時に周りにいた男達は細切れとなり、地面に大量の血溜まりができた。


「刻むというからには刻まれる覚悟があるということだ」


 レヴィアは服が汚れていないか確認するとその場を後にした。


「……あ、刻むと言ったのは前にいた男だけだったな……まあ、周りの連中も同じように殺気を振りまいていたのだから仕方ない、不可抗力だの」


 レヴィアは何事も無かったかのように表通りに戻っていった。


 再び表通りを歩きながら思考する。

 あの時の胸の痛みはなんだったのだろう。

 魔法?

 いや、あいつらにそんな事が出来るとは思えない。

 うーん。

 いくら考えても答えは出なかった。


「こんどベアルに聞いてみるか……」


 きゅ


 !?

 まただ!

 何故かベアルのことを考えたら胸が締め付けられるような痛みが走る。

 まさか……。


「知らぬ間に魔法でダメージを与えられてるとか!?」


 黒い炎という知らない魔法があるくらいだ。ベアルならまだまだ知らぬ魔法を使えたとしてもおかしくはない。

 まさか……依頼をこなさないとダメージが入るようにしているとか……。

 

「くうぅ。ベアルのやつ。いつの間に我にそんな魔法を!」


 得意げに笑う姿を思い出す。

 すると今度は胸がじわーっと熱くなる。それはまるで乾いた砂に水をかけたときのように隅々まで温かいものが染み渡った。


「もう……なんなのだこれは」


 レヴィアは人の体の不思議に翻弄されつつも、別に嫌じゃないかもと内心思うのであった。



 表通りの散策を続けていると目的の冒険者ギルドが見つかった。

 中に入ると早速ランドのことを探した……大声で。


「ふははは! ここにランドがいると聞いてきた!! でてくるのだ!」


 レヴィアの声は高く、ギルド内に響き渡る。

 その様相に、驚く者、渋い顔をする者、面白そうにする者、三者三様、全員の注目を集めた。

 だがさすが冒険者達である。

 瞬時にレヴィアの実力を見抜くものがいた。その男はカウンターに行き、受付嬢にひそひそと話をする。真剣に頷くとギルドから外へ飛び出して行った。


 そんな男もいれば駄目な男もいる。

 実力を見抜けない駄目男はニヤニヤとレヴィアに近づいていった。


「へへ、道場破りかなにかか姉ちゃん。ランドはいないぜ。まあそんなことより俺とデートでもしようぜ。今日は暇でしかたねえんだ」


 そう言うとレヴィアの肩に手を乗せようとした。

 だが──


「我に触れるな……その手を失いたくはなかろう?」


 少量の魔力を放出しつつ、駄目男と視線を合わせる。

 すると駄目男は金縛りにあったように動かなくなった。


「あ……あれ……体がう、うごかねえ……」


 駄目男にも少なからず生存本能というものがあった。

 レヴィアの潜在魔力とその眼力により体が本能的に死を悟り動きを止めてしまったのだ。

 

「触れていいのは我が認めたものだけだ」


 そう言うと駄目男の横を通り空いているテーブルに座った。

 慌てる事はない。

 ランドのことは、さっき飛び出て行った受付嬢が呼んでくるのだろう。

 レヴィアは大人しく腕を組みながら静かに座っていた。



 数分後、思惑通りランドがやってきた。

 息を切らしながらギルドの扉を開けていたので、そうとう慌ててきたのだろう。

 ギルド内をキョロキョロと見回すと安心したようにほっと息をついた。

 そしてレヴィアの姿を見つけると、一瞬息を呑んだが、もう一度息をつくとゆっくりと近づいてきた。


「……ランドだ……俺のことを探していると聞いたのだが……」

「うむ、探していた。おぬしに報告があるのだ」

「……報告?」


 ランドは訳がわからず眉をひそめる。

 レヴィアも話が通じぬではないかと一瞬イラっとしたが、そういえば何の報告か言ってなかったことを思い出した。


「ベアルに頼まれたのだ」

「!! おお! ベアルの知り合いだったのか!」


 ベアルの名を出した途端、場の空気が一変した。

 聞き耳を立てていた連中も「なんだ、そうだったのかよ」と自然と笑みが浮かぶ。

 むしろその反応に驚いたのはレヴィアのほうだった。


(ベアルはそんなに人気なのか!? ……なんかもやもやする)


 自分の知らないベアルを知っているこの者達に嫉妬した。

 いつの間にこんなに慕われる存在となったのか。

 名前一つでここまで空気が変わるなんて。

 レヴィアがそんな複雑な感情を味わいながらも話は進んでいく。


「それで? どうだったんだ? ていうか君は誰だい? 相当な実力者のようだが……まあベアルの知り合いというなら納得できるけどな」

「それに関しては……人のいないところで話をしたい」

「お……そうか……なるほど。わかった奥の部屋を使おう」


 ランドは受付譲とアイコンタクトをする。するとすぐに奥の部屋へと案内された。


 そこでレヴィアは魔獣区画の現状と自分の正体を明かした。

 ベアルからランドにだけは正体を明かして良いと言われていた。

 それはランドから情報提供を受けた、『人の姿をした魔獣』の整合性を合わせるためである。


 ランドは驚いていたが、最後には納得したようだった。

 

「人の姿をした魔獣があなただったとは……しかもリヴァイアサン……強いわけだ」

「ふふ、まあな」

「……人は襲わないでいてくれるんですよね?」

「うむ、興味ない」

「それはすごい朗報です」

「ただ、我みたいな魔獣が町に紛れ込んでいるかもしれんから気をつけることだ」

「はい、それは気をつけます。まあそんなに強いのでしたら多分我々も気がつくと思いますし」

「ふむ、それもそうか」


 強い者は強い者に敏感だ。気配でわかってしまう。

 レヴィアも体からでる魔力は完全には抑えられない。その魔力だけでも常人のはるか上を行くのだ。

 完全に隠すのは不可能なのである。


「貴重な情報をありがとうございます。この情報は有効活用しようと思います」

「じゃあ話は終わりでいいか?」

「はい……レヴィアさんはこれからどうするんですか?」

「人の料理は美味いと聞いた。だからこの仕事を引き受けたのだ」

「なるほど! でしたらいい店がありますよ」


 ランドに案内されて向かったのはベアルも食事をした酒場である。

 そこは冒険者であふれており、レヴィアが顔を見せるとすぐに皆が寄ってきた。

 すでにレヴィアが言った「ベアルに頼まれた」という台詞が皆に知れ渡り、ちょっとしたお祭り騒ぎとなっていた。


 レヴィアはその雰囲気に戸惑いながらも空いている席に腰をかける。

 すると一人の女性が近寄ってきた。


「あ、あの。ベアルさんは元気でしたか?」


 頬を染め窺うように尋ねてくるその女性をみてレヴィアは嫌な気分になった。なので当然返事はぶっきらぼうになる。


「知らん」

「そ、そうですか。もうちょっと話を聞けばよかったと少し後悔していたんですが……ありがとうございます」


 一礼をして去っていく。

 今の言葉を聞きレヴィアはさらに不機嫌になった。


(くうぅぅ! なんでこんなに胸がざわつくのだ……本当に訳がわからん)


 人の体というのは不思議である。まだまだ分からない事が多い。


(もうベアルに直接聞くしか解決方法はあるまい。明日になったら北へ向かおう)


 この気持ちの悪さを払拭するためにレヴィアは決心する。

 するとタイミングよくウエイトレスがレヴィアの元へとやってきた。


「注文はどうしますか?」

「……よくわからんからこの金で出せるだけだしてくれ」



 ────その日、パイロの町に新たな伝説が生まれた。

 酒場に史上最強の大食い娘が現れたと。

 つけられた異名は『底なし怪物のレヴィア』

 

 しくもレヴィアは人の姿でありながら、化物としてパイロの人々に認知されてしまうのであった。




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