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56、名前を決めよう

 


 朝になると既に二人は起きており談笑をしながら朝飯の準備をしていた。


「遅いぞベアルよ。もう昨日の事は話したからな」

「お父さんまた勝手に決めて! リヴァちゃんと一緒に行きたかったよ」


 リーリアは唇を突き出し、ぶすっとした表情でこちらを睨んでいる。


「すまんすまん。だが現状をギルドに伝える事も重要だろう?」

「それはそうだけど……まったくお父さんは……」


 悪びれもしない俺の返答に不満があるようだが諦めたらしい。

 

「ふむ、リーリアよ。我は納得したのだからそうベアルを責めるでない。それに料理というものを体験することは我を更なる高みへと昇華することだろう」


 ……どうやらリヴァイアサンの中で料理がとんでもなく偉大なものとして認識されているようだ。まあ、実際に食べたら常識が覆る事は請け合いである。


「リヴァちゃんがそういうならいいけど……はい、お父さんどうぞ」

「お、ありがとう」


 何だかんだ言いつつ俺に朝飯を振舞ってくれる。

 優しさの詰まった朝飯を噛み締めながら会話をしていたが、話の内容はリヴァイアサンの事となった。


「人の町にいくなら名前が必要じゃない?」

「あーそうだな。ないと不便だな」

「ふむ、リヴァイアサンじゃダメなのか?」


 町でリヴァイアサンなんて名乗ったら変な奴だと思われるだろう。

 本物ではあるのだが、一般人からみたらただの女の子である。

 そんな女の子がリヴァイアサンと名乗る……うん、かなり痛い奴だ。


「人の世界でリヴァイアサンは海王として知れ渡っているからな。名前は新しく考えた方がよさそうだ」

「私もそう思う。みんなビックリしちゃうよ」

「ふむそうか……我の名を聞いて恐れおののいてしまうか! まったく有名であるのは大変な事であるな! わはは!」


 壮大に勘違いをしているが、まあ、無理に機嫌を損ねる事もないだろう。


「じゃあ可愛い名前を考えよ!」

「いや、強そうな名前にしようではないか!」


 リーリアとリヴァイアサンは朝飯そっちのけで楽しそうに話し合っていた。

 俺はそんな中、呼びやすければなんでもいいと、食いちぎった肉を咀嚼しながら思っていた。


 数十分後。


「メルがいいと思う!」

「いいや! 我はリヴァイでいいんじゃないかと思うぞ」

「そんなの女の子の名前じゃないから怪しまれるよ!」

「だからってメルなんて可愛すぎるではないか!」


 ……未だに決まっていなかった。

 言い争いが白熱する。

 俺は寝転がりながら、もうなんでもよくねと思っていたせいもあり、何とは無しにぼそっと呟いていた。


「…………レヴィア」


 すると、二人の動きがぴたっと止まる。


「……お父さん今何ていった?」

「うむ、我も気になったぞ」


 思いもよらず脚光を浴びる事になり、眠りかけていた脳が再び動き出した。


「ん? あ、いや。レヴィアと言ったんだ。リヴァイアサンのことを俺の生まれた地域ではレヴィアタンといっている奴もいたからな……」


 すると、リーリアとリヴァイアサンはお互いに視線を合わせる。

 そしてこちらを再び見ると、


「お父さんそれいいじゃん! 結構かわいい!」

「うむ! 我もそれは気に入ったぞ! 中々シブイではないか」


 どうやら二人は気に入ったようだ。何気なく言った一言だったが喜んでくれたようで何よりだ。


「では我は今からレヴィアと名乗ろう。これからはそう呼んでくれ」

「うん! レヴィア! よろしくね!」

「ああ、わかった」



 ────

 

 名前が決まったレヴィアは最後にリーリアと抱擁を交わし、意気揚々と先にパイロの町へと旅立った。

 見送るリーリアは寂しそうに手を振るのだったが、レヴィアは対称的に鼻歌交じりにご機嫌であった。よほど料理が気になるようだ。



 さて、大分時間が経ってしまったがこれからの事を話し合うことにする。


 ドラゴン領に行く道は二つある。

 山脈を越えるルートと海側から回り込むルートだ。

 山脈ルートは極寒であり体力が必要になる。常に魔力でガードしていないと凍え死ぬし、魔獣も少なく食料に困るかもしれない。

 海側のルートは遠回りになるが港町などもあり情報を仕入れながら向かうことができるだろう。


「でだ……今回は海側のルートから行こうと思う」


 一通り説明をしてそう告げた。

 するとリーリアは申し訳なさそうに俯いてしまう。


「……山脈を越えないのは私がいるから……?」


 どうやら実力が足らないから海側のルートを選んだと思っているようだ。

 うーん、違うんだけどな。


「いや、単純に越えるメリットがないからだ。確かに時間は短縮できるかもしれないが、そもそも竜王の居場所がわからん。どちらにしろ情報は必要なんだ」

「……そっか」

「ああ、それにどうせなら楽しい方がいいだろう?」

「うん、そうだね……わかった!」


 笑顔を見せてくれたことに安心したので、地図を開きルートを確認する。

 港町はまずは東へ行き、次は北へ行くと伝えた。

 

「ドラゴン領ってことは、この港町はドラゴンがいっぱいいるの?」

「うーん、ドラゴン領の奥地に行けばあるかもしれないが、これから行く港町はいないんじゃないかな」

「えーそうなんだ。残念」

「まあ俺も初めて行くから殆ど何も知らないんだけどな」

「えっ!? お父さんも初めてなんだ! やったー! おそろいだね!」

「ああ、おそろいだ」


 うきうきのリーリアと共に道を東に引き返す。

 相変わらずたくさんいる魔獣を倒しながら東へ東へと進んでいく。

 道中は何事もなく順調に過ぎていった。

 そして三日ほど東へ進むと海へとたどり着く。


「海だー! 久しぶり! やっぱり海はいいね!」

「そうだな。もはや人生の殆どを海と共に生きてきたからな。この潮の匂いがないと寂しい体になってしまったな」


 その日はリーリアと釣りをして過ごした。

 すると面白い事に島では釣れなかった魚も釣れて二人で大はしゃぎしていた。

 

 次の日、我に返った俺達は再び港町を目指した。

 海沿いを北に三日。ようやく目的の町が見えてきた。


 ドラゴン領、最東端に港町オルフェはあった。

 世界中の港町で一番規模が小さいことで有名で、輸入はもちろん輸出も少なく船の出入りは少ない。

 なので情報も中々出回らず、オルフェという名前も知らなかった。それくらいマイナーな港町だ。

 住んでいる人も少ないようで町と名乗っているようだがほぼ村であるということをディランから聞いている。

 一応冒険者ギルドがあるということなのでまずはそこに行く事にした。

 

 実際に町を歩くと分かる事があった。

 まず道が整備されていない。人や馬車などが通る事によって踏み固まった自然な形の道である。

 そして行きかう人の服装だ。

 フォレストエッジのように良い生地の服は無く、質素で少し汚れているような服で人々は町を歩いていた。まさに畑仕事をするような……そんな格好である。

 家も吹けば飛んでしまうような造りで、そんな家が個性も無く軒並みに連なっていた。

 なので看板を見て目的の店を探さなければならなかった。


 そしてようやく見つけた冒険者ギルドも案に違わず同じような造りとなっていた。

 他の町からするとまるで小屋ともいえるギルドの内部に入ると、じいさんが一人、カウンターにうつ伏していた。


「すまんが起きてくれ。話を聞きたいんだが」


 そう声をかけると、もぞもぞと動き顔を上げた。


「んあ? なんじゃあ……客かの?」

「いや、冒険者だ」

「私も冒険者だよ!」


 リーリアもひょっこりとじいさんの前にでると挨拶をした。


「おお! 外部の冒険者など久しぶりじゃのお! いらっしゃい! よくぞい────ゴホッゴホッゴホッ!!!!」


 興奮したのか激しくむせるじいさん。

 リーリアが慌ててカウンターを飛び越えると背中を撫でてやった。


「大丈夫?」

「ゴフォゴフォ! ……おお、優しい女子おなごじゃ。どれお菓子をやろう」

「ほんと!? わーいありがと!」


 焼いた板のような菓子をもらうとすぐに口に放り込んだ。


「おいしい!」

「ふぉふぉふぉそうじゃろそうじゃろ。ばあさん特製じゃからの」


 どうやら気に入ったようである。美味しそうで何よりだ。

 さて……そろそろ話をさせてもらうか。


「実はある依頼でここにきたんだ。単刀直入に聞くが竜王の居場所を知らないか?」

「なっ!? 竜王様じゃと!? 一体何をするつもりなんじゃ!!」


 そう言うとじいさんは、今までとは想像もつかないほどの機敏な動きでカウンターを飛び越えると戦いの構えをとった。

 どうやら勘違いをされてしまったようだ。

 それにしてもこのじいさん……なかなかできるな。


「やめろじいさん。俺達は冒険者ギルドの依頼できたんだ。そこを間違えないでくれ」

「言葉だけならなんとでも言えるからの!」

「本当だよおじいちゃん! ほらこれみて!」


 リーリアがかばんから冒険者カードを取り出し見せる。

 するとようやく理解したのか戦いのポーズを解いて床にへばってしまった。


「……助かったわい。こんな化物と戦わなければいけないのかとヒヤヒヤしたわ」

「ほう。じいさん俺の実力がわかったか」

「さすがにの。わしも昔は名の知れた冒険者だったからの」


 ゆっくりと立ち上がると、この冒険者ギルドにひとつしかないテーブルに向かい、椅子に腰をかけた。


「ではまったりと茶でも飲みながら話をするとしようか。久しぶりに外の話も聞かせて欲しいしの……ばあさん!! ばあさんや!!! 茶を用意してくれ!!!!」


 急にでかい声をだしたかと思うと、しばらくした後、二階からばあさんが降りてきた。


「うるさいわ! 聞こえとったわ!! くそじじいが!!!」

「なんだと!? くそばばあが! なら早く茶をもってこんかい!!!」


 俺はなんだか急に頭が痛くなった。



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