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53、正体


 

 水色髪の女は一歩も動かず、待ち構えていた。

 その顔は狂気とも思えるような笑顔をしており人の感情のそれではない。

 単純に今の状態を楽しんでいる。例えるなら玩具を与えられた赤子のような無邪気な笑顔。

 

 ……ふふ、面白い!

 相手がそういう態度でいるなら、俺も純粋に戦いが楽しめるというものだ。


「いくぞ! はぁっ!!!」

 

 気合を入れて両手の拳に黒い炎をまとわせる。

 そしてタンタンとステップを軽く踏むと、超高速で一直線にせまった。


 水色髪の女は反応する事ができず、俺の拳が腹を直撃し、そのまま後方へ大きく吹き飛ぶ。


 地面を無造作に転がり、しまいにはうつ伏せに倒れる。

 だがすぐに立ち上がると、わははと笑い、


「すごい速かったな! 全然見えなかったぞ! ……しかしベアルよ、その拳の炎は見掛け倒しか!?」

「そう思うか?」

「む……何かあるのか?」

「ああ、タネは仕込んだ」

「タネだと?」

「ああ、腹を見てみろ」


 そういわれて水色髪の女は自身を腹部を目視した。


「な、なんだこれは!」


 そこには黒い刻印が印されていた。

 

「刻印だ。それが印されればどんなに離れていようが、どれだけ速く動こうが、俺が魔力を送るだけで黒い炎が発動する」

「────っな!」


 水色髪の女は驚き一瞬思考が停止していたように止まっていた。だがすぐにハッっとすると、刻印を手でこすり消そうとした。


「無駄だ。俺の魔力で刻んだんだ。そう簡単には消せん」

「ぐっ! そんな魔法があるなんて知らなかったぞ!」

「そうだろうな……俺だけが使えるとっておきだからな」

「そんな魔法があるのか!?」

「まあな」


 漆黒竜アポリオンロード。

 昔、魔族大陸で戦ったそいつを思い出す。

 異界の魔王を名乗っていたが、それが本当かは分からない。

 最終的には精霊として従わせることができたのだが……まあ、それは今はいいだろう。


「では……黒い炎を消せることができるか。勝負といこうか」

「ふふ、我をなめるでないぞ! やってやるわ!」

「よく言った。いくぞ!」


 パチンと指をならす。

 それと同時に魔力を送り込む。


 じわじわと水色髪の女の腹部から黒い炎が広がり、しまいには全身をつつんだ。


「ぐ……皮膚が焼けるように熱い! それに違う苦しみが我の心を焦がしていく! なんなんだこれは!」


 必死になってもがくが黒い炎は消えない。

 それどころか勢いが増すかの如く炎々としていた。


「どうだ? 消せそうか?」

「今やっている!!」


 焦っているような辛そうな、悲観的な叫びと共に魔力を大量に放出させようと、黒い炎をどうにかしようともがいている。

 ──だが。


「ぐぅぅぅ! 何なんだこれは! 一向に消える気配がない! 魔力が思うように放出できないではないか……!!」


 黒い炎は弱弱しくもけして消えず、水色髪の女にまとわりつく。吹けば消えそうなその黒い炎に魔力を全力でそそごうとしているようだが上手くいかないでいる。


 エルサリオスの時もそうだったが、これは刻印が関係している。

 この刻印は相手の魔力をかなり抑えるという能力がある。

 そのために黒い炎は消すことができない。


 もちろんこれを打破する突破口はある。

 それは────刻印を消す、またはその部分を削り取ればいい・・・・・・・

 俺はそれに気がついたから漆黒竜アポリオンロードを倒すことができた。

 逆に言えば気がつかなければ一生解けることはない。


 まあエルサリオスみたいに──削り取ったら死ぬ部分──に刻印を印したら助かるすべはないんだけどな。


「ううぅぅ! ダメージを再生と同じ速度にしているのか!? 一思いにやらないとは相変わらずひねくれたやつだ!」


 どうやら水色髪の女はその事には気がつかないようだ。

 相変わらず刻印をこすったり、必死に魔力を高めようとしたり頑張っていた。


「くくく、どうやら無理みたいだな」

「くそ、せっかく力をつけたのに敵わないとは! 今度こそおぬしに勝てると思っていたのに!」


 …………っていうかさっきから思っていたんだが本当に誰だ?

 どうやら俺と戦ったことがあるみたいだが。


 黒い炎のおかげで相手の動きは止めてある。

 ちょっと聞いてみるか。


「なあ、さっきから俺のことを知っているみたいに話しているがどこかで会った事あるんだっけか?」

「…………え?」

「え?」


 水色髪の女は黒い炎に包まれながら、一瞬痛みも忘れて、「何言ってんだこいつ」みたいな顔をして驚いている。


 ……え? 俺もそんな反応で驚いているんですが。

 あれ? どこかで会った事あったっけ?


 脳をフル回転させて昔の記憶をたどる。

 宿屋の娘……酒場のねーちゃん……冒険者ギルドの受付……ってそもそもこいつ魔獣じゃねーか!

 脳内で一人突っ込みながらさらに考え抜く。

 あれ? 魔獣で話せるやつなんて……思い当たる節がやつしかいない。

 ……え? 嘘でしょ?


「あのーお父さん?」


 今まで様子をみていたリーリアがおずおずと挙手をしながら話しかけてきた。


「ああ、リーリア。お父さんは今混乱している」

「うん、そうなんだろうなって思った。多分ずっと気がついていないんだろうなって思ってみてたから」


 えー。

 リーリアは気がついていたんかーい。

 なるほど、だから逃げなかったのか……そう思うと納得だ。


「ねえお父さん。そろそろ黒い炎を解除してあげて」

「あ、ああ」


 パチンと指をはじく。

 すると水色髪の女の腹部に印されていた刻印は消えた。


「おお! 消えた! ……しかしベアルよ。我のこと忘れていたとは……正直負けたことよりそっちのほうがショックだぞ」


 ああ、そりゃそんな姿じゃわかんねーよ!

 ま、リーリアはすぐに分かったみたいだけどな……。

 ていうか女の姿って……。


「悪かったなリヴァイアサン。ていうか女の姿とかなんだよ。性別変えられたんじゃ余計に分からないじゃねえか」

「え?」

「……え?」


 あれ?

 リーリアもリヴァイアサンも何言ってんだこいつって顔で俺のこと見てるんですけど?

 あれれ?


「ベアルよ……我は悲しいぞ」

「お父さん、それはあんまりだよ」


 二人ともそんな顔で俺のことを見ないで!

 リーリアは見慣れてるからまだいいけど、リヴァイアサンは女の姿になってるから余計にその顔は辛い!

 まるで残念な者を見る目は俺の心をえぐった。


 ていうかだな……ってことはだ。

 

「リヴァイアサンってメスだったの?」

「「そうだが?」「そうだよ?」」


 二人の声がハモる。

 むしろ何で分からなかったのっていう非難の声に聞こえる。


「あー……なんかすまん」


 リーリアよ、そういうことに無頓着な父でごめん。

 リヴァイアサン。なんか今までごめん。

 

「ふふ、ふははは。おぬしが謝るとは本当に殊勝になったものだな」


 リヴァイアサンはそれが本当に可笑しかったようで腹を抱えて笑っていた。

 うーむ。

 本当にリヴァイアサンなのか……。

 魔獣の姿が人になるだけでこうも印象が変わるとは。

 なんとなくその姿をじっと見ていると服を引っ張られた。

 ……リーリアが頬を膨らませながら俺を睨んでいる。


「……浮気」


 どうやらまた勘違いをしているらしい。


「いやいや! ただ本当に人の姿になったんだと改めて思っていただけだぞ!」

「……でも女の人をじっと見るのはお父さんの悪い癖だと思う」

「……それは否定できん」


 なるほど。それは自重しよう。



 ていうか、問題はそこじゃないはずだ。

 まあメスだって分からなかったのは俺の駄目な問題だが、違う問題がある。

 リヴァイアサンが人の姿になれるってことは人を食べたってことだ・・・・・・・・・・


 魔獣が人を食べることは特段問題ないことだ。それが世界の一般常識であるからだ。

 だが……一緒にいるとなるとそれは問題となる。

 俺達の信用問題となるし、そのことによりリーリアが偏見の目で見られるのは俺の意に反することである。

 だから問わねばなるまい。


「リヴァイアサン。ちょっと聞きたいことがあるんだが」

「うむ、なんだ?」

「お前、人を食ったのか?」

「……ベアルよ、お前の言いたいことは分かった。答えは否だ……我はあれから魔獣しか食べておらん」

「そうなのか」

「うむ。少し話が長くなるんだがいいか?」

「ああ、聞こうか」



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