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52、水色髪の女



 朝起きて、昨日の残りの肉をかぶりつきながら本日の予定を話し合う。


「ふぁて、んぐ……今日の昼には例の地点へとたどり着けるはずだ」

「いふぉいふぉだふぇ」


 覚悟とは裏腹に骨にしゃぶりつき、緊張感のかけらもない朝食を終えた。

 

「さてと……」


 手についた油を舐めとりながら、ゆっくりと立ち上がる。


「さてっと!」


 リーリアも俺の真似をして、指を舐めると立ち上がった。


「じゃあ俺は前方の魔獣をやるから後ろは頼むぞ」

「はーい、食後の運動だね」


 肉の焼けた匂いにつられたのか、俺達の匂いにつられたのかは分からない。いずれにせよ数十匹の犬魔獣に囲まれていた。

 実は朝食の間もずっといた。

 ある一定の距離を保ちながら、俺達の周りをグルグルと回り、今か今かと様子を窺っていたのだ。

 襲い掛かってきたら返り討ちにしてやろうと思っていたのだが、襲ってくる気配がなかったので食べ終わるまで放置していた。

 ……まあもう食べ終わったし、待っていても仕方ないのでこちらから仕掛けることにした。


 俺は走るとすぐに目の前の犬魔獣を手刀で切り裂く。

 突然のことに動けないでいるところを次々と倒していく。

 リーリアも同様に剣で一太刀。倒すのに2手もかからない。

 殲滅に掛かった時間はほぼ同時だった。

 二人とも息の乱れもなく、俺は手刀をリーリアは剣を納めた。

 周りには円をかくように犬魔獣の死体が並んでいる。


「運動にもならなかったな」

「弱い魔獣ほどやたらと襲ってくるね」

「相手の実力が分からないんだ、それは人とて同じだな」

「なるほど」

「……では、いこうか」


 魔法で飛ぶ俺に、リーリアは慌ててバッグを肩にかけると同じように魔法で飛んだ。

 俺はそれを確認するとゆっくりと飛んでいく。

 

「今日はこの速度で飛ぶの?」


 リーリアの疑問はもっともだ。前日の半分もでていない。


「多分この先はかなり強い魔獣がいる」

「わかるの!?」

 

 驚くリーリアを見て、俺はニヤリと笑う。


「実はリーリアが寝てから魔力探知で西の方角を探ったからな」

「そうだったんだ! さすがお父さん!」


 事前準備は万端である。

 かなり先まで探ってみたが、Aランク以上はもちろんSランクに匹敵すると思われる反応まであった。

 そんな強敵がゴロゴロといるこの魔獣区域は本当にヤバイ場所なんだと実感させてくれる。


 俺の見立て通り、行く手を阻む魔獣は多種多様おり、俺達を見つけては襲い掛かってきた。

 ウインドで飛んでいるのだが魔獣の跳躍力は高く、普通に届いてしまうほどだ。だがそのたびに返り討ちにし、地面に叩き落していた。


「一体なんなんだこいつらは……恐れを知らないのか?」

「なんか狂ってるのかな? ちょっとおかしいよね」


 そんな事を言っている間にも、また一匹襲い掛かってきた。今度はリーリアが剣で真っ二つにする。

 明らかに異常な状態だが、俺達は前に進む。

 そんな状態が数時間経ち、二人とも嫌気が差し始めた頃。

 少し先の方で何かとてつもない気配を感じた。

 それは目的地点で何か強大なモノがいるという事実だ。



 その場所まで行くと、遠目でもはっきりと分かった。 

 あからさまに異常な状態となっている。


 見渡す限り黒い物体が……いや、これは魔獣の死体か。

 それとドス黒い血が草に飛び散り、それが光と合わさって不気味な光景となっている。


 そんな中で激しく動き回る影がそこにあった。

 ……あれは……女か?


 返り血で黒くなっていたが人であることには間違いない。

 ちらりと見える水色の綺麗な髪がギャップとなって面妖な雰囲気をかもし出している。


 水色髪の女は次々と襲い掛かる魔獣を手で引き裂き、止めとばかりに喉元に噛み付くと勢いよく引きちぎっていた。

 そんな戦いを繰り広げながら、水色髪の女はよくよく見ると笑っているのが分かる。

 血の匂いにつられているのか、魔獣は途切れる事を知らない。

 水色髪の女は疲れなんてなんのその。引きちぎった魔獣の肉を咀嚼して飲み込むと魔力が回復しているのかさらに勢いを増す。

 喉が渇けば血を飲み、腹が空けば肉を食らう。

 たまに骨がつっかえたのか咳き込む事はあるが、そのうっぷんを晴らすようにさらに暴れた。

 気がつけば襲い掛かってくる魔獣の殆どは水色髪の女の腹へと納まっていく。


「あ……あれが……【若い女の魔獣】か……まあ、そうか」

「う、うん。若い女って聞いてあれだったけど……うん……」


 お互い語彙力を完全に失ってしまった。

 それくらい水色髪の女の戦いは人の常識を完全に逸脱いつだつしている。


 それと同時に俺の脳内では危険信号がなっていた。

 あれはやばいと。

 なぜ魔獣と戦っているのかは知らないが、いろいろな意味で敵にまわしたくない。

 逃げるなら今のうちだ。


「リーリア──」

「──っ!」


 そのときだった。

 水色髪の女がこちらを見た。

 そして……ニヤリと笑った。


「リーリア! 逃げろ!」

「お父さんっ!」


 跳躍したかと思ったらすでに目の前にいた。

 水色髪の女の手刀を俺は強化した手で受け止める。

 お互いに顔と顔の距離が近くなる。

 血が飛び散り酷い顔だが、水色の瞳だけは透き通ったように綺麗なのが妙に印象的だった。


「ベアルよ封印が解けたのか! めでたいから久しぶりに戦おうではないか!」

「な、なんだと!?」


 俺のことを知っている?

 でも俺はこんなやつ知らないぞ!?

 急な事に動揺していると。

 

「スキだらけだぞ!」


 腹部に強烈な衝撃が走る。

 ぐっ! ウォーターボールか!


 地面へと叩きつけられる前に気合でかき消すと、バランスを失いながらも着地に成功する。

 だが水色髪の女の猛追は止まらない。

 連続で放ってくる水球ウォーターボールを俺は全て手で弾いていた。地面に落ちると地面がえぐれ視界が悪くなるからだ。

 

「ふははは! さすがだベアルよ! 我も強くなったが底が知れぬ」

「くそっ! なめるなよ!」


 俺は特大の石球ストーンボールを発動してぶちかます。

 石球は水球を弾きながら水色髪の女へと向かっていくが、


「そんなのきかぬわ!」


 手刀で一刀両断。割れた石球は勢いを失い地面へと落ちていく。

 だが防がれる事は分かっていた。

 すぐさま次の魔法を発動させる。


「燃え尽きろ! インフェルノ!」

 

 業火が水色髪の女を包み込む。

 

 ──だが、そんな中でも不敵に笑っていた。


「ただの上級魔法など! 我には効かぬぞ!!」


 ふんと気合を入れたかと思うと、内側から膨大な魔力を発散した。すると炎は消え何事もなかったかのようにしている。

 

 く……一筋縄ではいかないか。

 横目でリーリアを確認するが逃げてはいないようだ。なにやら真剣な眼差しで水色髪の女を見ていた。

 何をしているんだ!?

 逃げるように促したいが水色髪の女はそんな隙を与えてはくれない。


「いくぞっ!」

「ちい!」


 飛びかかるように近接攻撃を繰り出してくる。

 中々速いな!

 一撃一撃が爆破魔法ほどの威力があり、ガードした場合の魔力消費はやばそうだ。

 魔力探知と目の魔力強化によってすべてをギリギリでかわす。

 

「お主は体術も桁違いにすごいではないか! 誰かに教わったのか?」


 殴りながらも余裕があるのかそんな事を聞いてきた。

 いやいや、結構大変だっつーの。

 それに何なんだこの女は。笑ってるし楽しんでいるのか?


「攻撃の軌道が見えるから避けられるんだ。体術は昔少し習っただけだ!」


 ってなんで俺は律儀に答えているんだ。

 こいつの言動はどこかで聞いたような感じがした。なのでついつい自然と質問に答えてしまったのだ。


「お主とこうやって殴る蹴るだの近接戦闘ができるのは楽しくて仕方ない! 魔獣だと数はこなせるがもろくてな!」

「俺は面倒くさいけどな!!」

「ふん! 相変わらずつれないやつだ!」


 いらっとしたのか、大振りのパンチをしてきた。

 機と見るや、それにカウンターを合わせて思い切り顔面をぶん殴った。


「ぐばっ!」


 水色髪の女は後方にぶっ飛びながら、地面に激突するともんぞりうつように倒れた。


 うむ、我ながらいいものが入った。

 まあ、大したダメージもないだろうけどな。


 思ったとおり、すぐに水色髪の女はぴょんと飛び起きる。


「くう。強烈な一撃だったぞ……近接はまだまだだな。もっと磨かなければなるまい」

「もう十分強いだろ」

「まだだ。現にお主に競り負けているではないか」


 水色髪の女はそう言うと、また襲い掛かってきた。


 ちいっ! これは長期戦になりそうだな!

 仕方ない……一気に片付けてしまうか?


 ──ならば!


 水色紙の女の突撃をかわすと、少し距離を取り、黒い炎を手のひらの上に出して見せた。


「む……なんだその黒い炎は……魔法か? しかし聞いた事ないぞ!?」


 水色髪の女は目を丸くして驚いている。

 

「そうか……300年前の魔族大陸では有名だったんだがな……さて、お前にこれを消す事ができるかな?」

「ふははは! いいだろう! 受けて立つ!」


 


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