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49、ネックレス



 次の日、俺達はさっそく冒険者ギルドへとやってきた。

 案内してくれたのはランドだった。ちなみにギルド長はまだ帰ってきていないとの事だ。ギルド長のこととなるとランドは青筋を立て怒鳴るような口調となっていた。馬が合わないとかなんとか。


 奥の部屋へと案内される。

 まずは昨日のお礼をされた。そして報酬だ。

 この町の防衛は冒険者ギルドが行っているらしい。

 魔獣を前線で押さえるという役割をもっていることから、フォレストエッジから補助金という形で報酬がいくらかでるらしい。

 冒険者はそのお金で魔獣を倒したり防衛をして生計を立てている。


 なので今回は"緊急!Sランク魔獣からの防衛"という緊急依頼の報酬の半分をもらえる事になった。

 このことには誰も反対しなかったという。むしろ少しでももらえる事に感謝したそうだ。


「すまない。さすがに参加した冒険者にまったく出さないってことはできないんだ。そんな事をしたら今後、緊急依頼に参加してくれなくなる」


 そう言ってテーブルに置かれたのは大金貨50枚。つまり500万ゴールド。

 半分をもらえるという事だから元々は1000万ゴールドの依頼か。Sランクの依頼としてはまあまあだろう。

 むしろあの防衛戦にはランドを含め30名の冒険者が参加していた。500万ゴールドを30名で分けるとなると、命を張る割には安すぎる仕事だ。


「一つ聞きたいことがある」

「ん? なんだ?」

「今回の緊急依頼は強制だったのか?」

「……それは…………」


 ランドは言い渋った。

 俺はその反応ですべてを察した。


「戦った冒険者はこの町に家族がいたんだよな?」

「……ああ」


 そりゃそうだ。

 じゃなければSランクの魔獣と戦うなんて命知らずもいいとこだ。

 家族が逃げる時間を作る。そのために戦ったのだ。けして金のためではない。


 俺はテーブルから1枚だけ大金貨を取った。


「俺はこれで十分だ」

「え!? いや! しかし!」

「10万ゴールドもあれば生活には困らん。金の使い道なんて飯と酒が飲めれば十分だ」


 俺は出された茶をすする。


「美味いな……俺にはこういうのでいいんだ」

「はは! ずいぶん謙虚なんだな」

「ふふ、まあな。何もない生活には慣れているんだ」

「ははは! またまた!」


 冗談だと思われたようだ。 ……マジなんだけどな。


「しかし……本当にそれだけの報酬でいいのか?」

「帰ってきたら美味い酒おごってくれよ」

「ははは、ああ、約束する! ……本当にありがとう。感謝しても仕切れない」


 手に取った大金貨を腰の袋に入れると、横にいたリーリアと目があった。

 その瞳はまるで、尊い者を見るような、憧れの人を見るような瞳をしていた。

 俺は少し居心地が悪くなり、話題を変える事にした。


「しかし、ランドがこんなことまでしてるなんて、実質ギルド長じゃないか」

「う、それは言わないでくれ……俺もそう思っていたところなんだから」


 ガクンと肩を落とすランド。

 ふむ、ここのギルド長はそうとう曲者のようだな。まあ、会う事はなさそうだが。

 ギルドを任されているという事はランドが信頼されているということなのだろう。


「そういえばギルドカードを見せてくれないか? ポイントを加算しないといけないからな」

「ああ、そういえば見せてなかったな」


 腰の袋からギルドカードを取り出した。

 ふふ。

 こんなこともあろうかとディランに作ってもらったのだ。

 ランクはもちろん。


「やっぱりSランクだよな……てことはもうポイントは意味ないか」

「ああ」


 昔はSSランクだったんだけどな……今はもうないらしい。

 理由を聞いたら、「SSランクの依頼などないからな! 廃止となった! そもそもSランクでさえ殆どいないんだ。SSランクなどあってもしょうがあるまい」だそうだ。


 まあ、確かに。

 SSランクの依頼なんてなかった気がする。

 でもなんというか……称号というか……寂しいなあ。


「では本題に入らさせてもらうぞ。"魔獣区域の調査および、北部ドラゴン領にてニーズヘッグとの対談"の指名依頼だな」

「ああ、頼む」

「……とはいってもこのギルドでは魔獣区域の情報しかないけどな」

「北西に魔獣の巣があるって話しだったか」


 昨日の酒場での話が思い出される。

 殆ど情報はないとの事だったが……。


「その事なんだけどな……酒場ではいえない情報もあった」

「秘密情報か」


 するとランドは手の甲を口に添えるような感じで小声で話してきた。


「そうだ……いいか、驚かないでくれよ……実は魔獣の中には人の姿をしたものもいるらしい、最近魔獣の大群の中で平然と立っている人を見たっていう目撃情報がある」

「────!」


 ケツァル、真っ先に浮かんだ名前だった。

 あの時リーリアの魔法によって爆発に巻き込まれて消えた。

 だが奴はあれくらいで死ぬとは思えなかった。

 どこかに潜伏していると踏んでいたが、まさか?

 

「そいつはどんな容姿だったんだ?」

「詳しくは分からなかったらしいが……若い女らしいぞ」

「──へ?」


 若い女?

 予想もしなかった返答に思わず間抜けな声がでてしまう。


「そうなんだ……不気味だろ? 若い女が魔獣の大群の中で暴れていたらしい。もちろん冒険者ではないし、規格外の強さだったとか」

「そ、そうか」


 うーん。

 魔獣と戦っているとなると本格的に訳が分からないな。

 まあ、話半分におぼえとくとするか。

 

「ま、情報はこんなところだ。少なくて本当にすまん。ベアルが新しい情報を持ち帰ってくれる事を祈っているぞ」

「まかせとけ」


 俺達は自然と握手をかわした。

 



 ランドと別れの挨拶をして冒険者ギルドをでた。

 今日は明日からの調査に向けて買出しをすると決めていた。

 歩き出そうとした時、後ろから声をかけられた。


「あの! すみません!」


 振り返るとどこかで見たことがあるような顔の女性が立っていた。


「ん、俺か?」

「はい!」


 じっと見つめてくる女性。

 なんだ?

 どこかであったっけか?

 

「あの……あの時は助けていただいてありがとうございました!」


 ぺこりと大きくお辞儀をした。

 俺は何のことかわからず、


「すまない。俺は君を助けたことがあったか?」


 そう聞いてしまっていた。

 すると女性はショックを受けたような表情をしたが、すぐに笑顔となり、


「外壁でSランク魔獣のブレスから守っていただきました! あれがなかったら私達は死んでいたと思いますので……」


 ああ! 思い出した。

 あのとき俺に声をかけてきた魔法使い部隊の子か。


「いや、あの時も言ったが、目の前で死なせるのは目覚めが悪いから守っただけだ……それ以上でも以下でもないぞ」

「それでも! 守ってくれたことには変わりませんので……お礼を言いたかったんです! ……あとそれと……」


 魔法使いの女性はもじもじとしだす。

 なんだろう。何かいいたい事でもあるのだろうか。

 女性は何かを言いかけてはやめてを繰り返していた。


 その時、隣にいたリーリアが俺の腕に抱きついた。


お父さん・・・・! そろそろいかないと買い物の時間がなくなっちゃうよ」


 なにやらいつもより少し大きな声でそう切り出してきた。

 すると魔法使いの女性は目を丸くして、


「え……お父さん……え? あ……娘さんということは、結婚を……あはは、そっか……そうだよねこんな素敵な人……あ! 本当にありがとうございました! それだけ言いたかったんです! では!」


 落ち込んでいたかと思うと一変、急に一息に捲くし立てると走って去っていった。



 ………………。


 あ~なるほど、そういう事か。


 ちらりとリーリアを見ると、頬を膨らませてそっぽを向いていた。

 そうか嫉妬か。

 可愛いやつめ。

 俺はちょんとリーリアの頬をつっついた。

 するとジト目で睨んできた。


「お父さんの浮気者」

「おいおい、そんな言葉をどこで……」

「シャロがね、お父さんはすぐに女を惚れさせるから気をつけてねっていってた」

「ほう……シャロか。よし、フォレストエッジに帰ったら一発殴るか」

「でもやっぱり本当だったから私がしっかり監視するね」

「いや、監視って……ていうかやっぱりって……リーリアもそんな目でお父さんを見ていたのか?」

「だって実際にナルリースはそうなったし、今の女の人もそうだったし」

「これは不可抗力といってだな……」

「しらないもん」


 そう言って、ぷいっと顔はそむけるが、抱きついた腕には力を入れてきた。

 む、まずいぞ。

 不機嫌になると、機嫌が直るまで時間が掛かるんだよな……。

 よーし、ここは!

 

「まあ、買い物でもしよう。何でも好きなもの買ってあげるぞ」

「えっ! 本当!? やった!」


 目をらんらんと輝かせ舞い上がる。スキップなんかもしてご機嫌である。

 ふう……助かった。

 やはりこんな時はプレゼント作戦に限る。

 

「あのねお父さん。私ちょっと欲しいと思ってるのがあるんだ」

「おお、それはなんだ?」

「えっとね。露店にあるかも」


 明日の準備もかねて露店を見て回る。

 フォレストエッジほどの規模ではないが、それなりに楽しめるくらいにはあった。

 一つ一つを一喜一憂しながら店を回る。

 そしてリーリアの瞳が一段と輝く露店があった。


「お父さん! ここで買ってほしい」

「ほう……アクセサリーか」


 特別魔法の効果があるといった専門的なものではなく。一般的に町娘がオシャレをするといった類のものだった。


「ここでいいのか?」

「うん、ここがいい!」


 そうか。

 リーリアも女の子だもんな。

 むしろ今までそういうことを言ってこなかったのが不思議なくらいだ。


「へえ、色々あるんだな……で、どれがいいんだ?」

「お父さんに選んで欲しい」


 ううむ。アクセサリー系には疎いんだが……。

 でもリーリアが望むなら選ぶことにしよう。

 

 しかしいっぱいあるな。

 イヤリングにネックレス、リングにブレスレット……。

 まあイヤリングとリングは無しかな。何となくリーリアにはまだ早い気がした。

 となるとネックレスかブレスレットだが…………。


 俺は熟考じゅっこうのすえ、一つのものに手を伸ばした。

 それを購入するとリーリアに手渡した。


「これなんてどうだ? 俺達といえばこれだろ」

「え……わ! かわいい!」


 俺が渡したのは可愛い感じの魚のネックレスだ。

 自分のセンスは自信がないが、なんとなくこれが目を引いた。

 リーリアは早速それをつけると嬉しそうに俺に見せてくる。

 

「どうどう? 可愛い?」

「ああ、似合ってるし可愛いぞ」

「ありがとう! お父さん!」


 それから、やたらとテンションが高かったリーリアと、明日の準備はもちろん買い物も楽しんだのだった。



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