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46、心安らぐ場所



 俺はディランと共に三人娘が待っているエーデンガイムの街の中央へと向かう。

 あれほどの爆発があったというのに街は静まり返っていた。


 ちなみにリーリアは俺が抱っこしている。

 顔をのぞくと気持ちよさそうに眠っていた。


 石畳を歩いていると、前方に手を振っている娘達が見えた。

 おーいとはしゃいでいるシャロ、ぐったりしているジェラ、暗い顔で立っているナルリース。


「倒したんですね」


 神妙な面持ちでそう言ってくるのはナルリースだ。


「……そうだな、ある意味」

「ある意味?」

「一応生きてはいる。石壁ストーンウォールの中で苦しみながらな」

「そう……ですか」


 そう言うと複雑な顔をする。


「とどめを刺したかったら、やってくるといい。ほとんど魔法が使えないから簡単に倒せるはずだ」

「………………いえ、いいです」

「そうか」


 いろいろ思うことはあるだろう。

 俺はナルリースだったら止めを刺してもいいと思っていた。

 だがしないというならあのまま一生苦しんで後悔してもらおう。


「あー僕お腹すいちゃったよぉ! ねえ! フォレストエッジに帰ろうよぉ」


 この場のノリにふさわしくない明るい声が響く。

 シャロはお腹をさすってぶーたれていた。


「そうね。帰りましょう! 私達の町に!」

「そうだにゃ……っつ……帰ろうにゃ」


 ジェラはまだ傷が痛むのだろう。

 ナルリースの肩を借りながら立ち上がる。

 

「そうだな……帰ろう。リーリアをベッドの上で寝かせてあげたいしな」

「十分気持ちよさそうに寝てるけどにゃあ」

「本当にそうね……」


 なぜかじーっと見つめてくるナルリース。

 それを見たシャロが、


「もしかしてリース……ベーさんにお姫様抱っこして欲しいんじゃ……! ねえねえベーさん! リーちゃんの次はリースを抱っこしてあげてよぉ」

「は!!? シャロ! あなた何をいきなりいってるの!?」

「いやいや、そんな欲情した顔で見てたら誰だってそう思うってばぁ」


 そう指摘されたナルリースは顔を真っ赤にして、


「そ、そんな顔してないわ!! ただ、たくましい腕の中で寝られていいなって思っただけでしょ!!」

「……リースは正直だにゃあ」

「……いやあ……本当にかわいいねえ」


 ナルリースは自分が発言した言葉を改めて理解し、さらに真っ赤になってしまった。


「もぉぉぉ! いやあああああ!!!」


 閑散とした街にナルリースの悲鳴が響き渡るのだった。



 ■



 町へと帰ってきた俺達はギルド宿屋で思い思い部屋へと入りぐったりと横になっていた。

 俺もリーリアをベッドへと寝かしつけようとしたが、ベッドのきしむ音が予想以上に大きく、ふわっと目覚めてしまった。


「すまない、起こしてしまったか?」

「ううん、大丈夫……ねえお父さん、このままじゃダメ?」

「このままって、抱っこしたままか?」

「うん……ダメ?」


 そんな潤んだ瞳で見られたらダメだなんて言えるわけがない。


「まったく、甘えん坊だな」

「えへへ、甘えん坊だもーん」


 ぎゅっと抱きつかれ、本当に離れる気はないらしい。


「仕方ないな。今回は頑張ったから特別だぞ」

「うん!」


 俺はベッドに腰掛ける。

 リーリアはそのまま顔を胸に押し付け、ぎゅーっとさらに力を入れた。


「ねえお父さん」

「……なんだ?」

「私、死んじゃうかと思った」


 その言葉に胸が張り裂けそうになる。

 そんな思いをさせた自分が本当に情けなくなる。


「でも、でもやっぱりお父さんは私の神だよ」

「か、神?」


 突然の発言に困惑する。

 神という概念は教えたが……よりにもよって俺が?


「そうだよ! 私のピンチに駆けつけてくれて、私を救ってくれて……そして私を癒してくれるんだよ……だから神!」

「そ、そうか」


 父親から神へと一気に格が上がってしまった。

 今後、俺はまつられるのだろうか。


「じゃあ俺はもうお父さんは卒業なのか?」

「ううん! お父さんだし神!」

「はは、そうか」

「うん!」


 違うよリーリア。

 お前が俺の女神なんだ。

 だからどうか、いつまでも一緒にいてくれ。



 ■



 決着がついた数日後の夜。

 俺はギルド酒場にいた。

 酒場とは常ににぎわっているものだが、俺がいる場所は酒場の奥に入ったところの小部屋だ。冒険者が楽しんでいる声はあまり届かない。

 そんな小部屋にギルド長のディランと二人きりである。


「お前と酒を飲むのも久しぶりだな」

「そうじゃな……戦争の前くらいか?」

「ああ……」


 ゆっくりとグラスを傾ける。

 300年見ない間に酒もグラスもすっかりオシャレになっている。

 味もまた格別で。


「美味いなこれは」

「じゃろ? 今夜は特別じゃ」


 長年熟成された深い味わいがある。

 相当高い酒に違いない。

 あまりに美味くてもう飲んでしまった。


「もっと飲んでいいんじゃぞ」

「……やけに気前がいいな」

「ふぉふぉふぉ、なに……今回のお礼じゃ」


 とくとくとく。

 酒を注がれる。

 

「……つもる話はある。だが、重要な話があるんだろ?」

「ふぉふぉふぉ、お主せっかちなのは相変わらずだの」

「俺は話の後で美味い酒を飲みたいんだよ」

「なら仕方ないの」


 コトンとディランもグラスを置く。


「エルフ王国はもうダメじゃ。エーデンガイムの人々はどうやら魔獣に食われてしまったらしい。生き残った人々もいるが森の中はもう魔獣だらけ。この町やドワーフ王国方面へと逃げているらしい」

「……そうか」


 王が魔獣となってしまったのだ。何となくその結果は予想がついた。

 

「この町も魔獣の危機から守らねばならん。そのためにも強い冒険者が必要なのじゃ……わしも戦わなければなるまい」

「いや、ディランお前はやめておけ」

「なんじゃと!?」

「お前……弱くなっただろ?」

「ぐっ……」


 俺はずっと違和感を感じていた。

 ディランのあまりの弱さに。

 そりゃ冒険者Aと比較すれば強い。

 だが、あの戦いはお粗末にも程がある。


「認めたくなかったが……老いには勝てぬということじゃ」

「そうか、そうだったな。そういえばお前は昔からじじいだった」


 魔族八百年。

 年齢関係の話をするときに大体言われるフレーズだ。

 そりゃ種族や生活環境によって前後はする。

 でも平均すると大体これくらい生きますよねと皆が親しみをもって使うのだ。


 ディランももう800歳は超えているだろう。

 とっくに限界をむかえてても不思議ではない。


「でも戦わねばならぬときがあるのじゃ」

「……そうかもな」


 グラスを傾ける。口に広がる味が少し苦く感じた。


「それで? 俺に町を守れ……って話じゃないだろ?」

「うむ。ベアルよ、お主には北のドラゴン領へといって欲しいのじゃ」

「というと……ニーズヘッグか」

「そうだ。竜王ニーズヘッグから此度こたびの事を聞いてきてはくれまいか?」


 此度の事とは化物カオスのことだろう。

 エルサリオスの事件は確実に化物カオスの存在が裏にあった。

 そして魔獣の大量発生。

 この世界がどうなってしまうのか、確かめねばなるまい。

 それに【セレアの種】のこともある。

 精霊セレアは私が見えるということは種を持っていることと言っていた。

 だからリーリアも確実に持っているだろう。


 否が応でも世界の動乱に巻き込まれていくというならば……自分から動こう。

 真実を知り、考え、対応をして解決していくのだ。

 俺は今回のことで自分ひとりでは何もできないことを学んだ。

 竜王とは因縁があるが……素直に謝ろう。

 誠心誠意接するのだ。

 

 俺はリーリアのことを想う。

 それだけで俺は素直になれるし、なんでも頑張れる気がした。

 そして俺は必ずリーリアを守る。

 

「わかった。その大役、俺に任せてくれ」

「おお! 助かる! 頼めるのはお主だけだったのだ……あ、ついでに魔獣領の調査も頼んでええか?」

「ついでかよ!」

「ふぁふぁふぁ、嘘じゃ嘘! 正式にお願いしたいんじゃ! もちろん礼はさせてもらうぞ」

「当たり前だ! ったく……」


 俺達はグラスをこつんとあわせる。

 それからの時間、昔話に花を咲かせるのだった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] カオス、セレアの種、色々話が大きくなってきましたね! [一言] 1章読み終わりました!まだ流れに追いつけてなく、遅い感想ですみませんw
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