44、追憶【リーリア視点】
私は倒れていた。
もう指の一本も動かす事ができない。
体の中に入ったスライムが私の体を蝕んでいく。
悲鳴を上げすぎて、すでに喉はつぶれている。
スライムはもてあそぶようにゆっくりと体内を食らい続ける。
私は抵抗した。
残りの魔力を全て体内に集中させ、スライムの進行を食い止める。
……でも……もう限界が近い。
「ふふふ、なかなかしぶといな……果たしてどこまで持つかな?」
「…………」
「しかし綺麗な体だ……何者にも汚されていない……やはりそうでなくてはいかん! ふふふ、やはり私のものとして一生可愛がってやろう」
「…………………………」
…………。
やだ……。
嫌だよぉ。
お父さん、どうすればいいの?
……お父さんの声は聞こえなくなった。
ビジョンを使う余力さえない。
ああ、お父さんの声が聞きたいよ……。
私は大好きなお父さんを思い浮かべる。
毎日が幸せだった。
島のことしか知らないけれど、お父さんと一緒に過ごす日々は毎日楽しかった。
途中からリヴァイアサンっていう変わった子もきていっそう楽しくなった。
お父さんの話は面白くて、さまざまな事を知った。
この世界には他にもいろいろな種族がいるということ。
恐ろしい魔獣もいっぱいいるということ。
ダンジョンというものがあるということ。
ドラゴンの住む北の地や、人間っていう人たちが住む大陸や、お父さんの故郷でもある魔族大陸のこと。
世界はまだまだ広いんだなって。
いつか一緒に世界を旅しようっていつも言ってたっけ。
毎日笑って、美味しいものを食べて、強い敵と戦って。
大変な冒険をして、クエストをこなして。
時にはお父さんとデートしちゃったりして。
これからの人生を……お父さんと過ごす日々を、絶対楽しいものになるって信じてうたがわなかった。
ずっと……ずーっと一緒にいようねって、前に約束したよね。
ごめんねお父さん。
私はもう駄目みたい。
すでに痛みの感覚もない。
意識があるのかないのかもよくわかんない。
私、もう死んじゃうのかな。
どうせならお父さんの手に抱かれて死にたかったな。
あの大きくて温かい手に包まれるなら、たとえ死んだとしても笑っていられそう。
私は涙した。
せめて最後に…………
お父さんの声が聞きたかったな。
「───ア!」
どうやらもうダメらしい。
幻聴が聞こえてくる。
「──リア!!」
あれ……すごくはっきりと聞こえる。
それに体が温かい。
「リーリア!!! 起きろ! 大丈夫か!!!」
!!!
私は目を開いた。
目の前には私の大好きなお父さんがいる。
「……お……とう……さ……ん?」
「ああ! そうだ俺だ! お前の父親のベアルだ!」
これは幻だろうか。
死を待つ私に最後にプレゼントだろうか。
私は手を伸ばす。
顔に触れると少しごつごつとして、微妙にのびた髭がちくちくする。
これは夢じゃない。
その感覚はすごくリアルで……本物だった。
「おとうさああぁぁぁぁん!!!!!!」
「リーリア!」
私は大好きなお父さんに抱きついた。
落ち着く匂い。たくましい体。それに優しい声。
私の大好きなお父さんがそこにいた。




