42、エルサリオスとの戦い2
リーリアの周りを分裂した大量のエルサリオスが待ち構えている。
じりじりと距離を詰めて包囲網を作っている。
「ふふふ。では、先ほどのお礼にかわいがってあげるとしよう」
分裂エルサリオスがレイピアを構えながら3体ほど襲い掛かってきた。
大きく距離を取りたいところだが、四方八方に分裂エルサリオスが待ち構えている。
仕方無く剣を構えまとめて処理する事にした。
「オーラブレード!」
上級剣技を使用して強化させる。
切れ味が何倍にもなり、鉄をも簡単に切り裂く。
襲い掛かってくる分裂エルサリオスを舞うように一閃。
すると3体同時にしとめてみせた。
だが──
むくむくと斬り飛ばしたそばから分裂エルサリオスが6体に増えてしまった。
「くっ!」
「ふははは! 斬っても無駄だ無駄だ!」
今度は6体ばらばらに襲い掛かってくる。
リーリアはとりあえず一体ずつ順番に、流れるように斬り飛ばしその場をしのぐ。
だが1体が背後から不意をついてきた。
『リーリア!』
「──っ!」
ガンッ!
鈍い音がしたと思ったらいつの間にか盾がそこにあった。
「大丈夫か!」
「おじいちゃん!」
盾が1体を弾き飛ばすと盾はリーリアの周りをくるくると回った。
「これは?」
「オートガードじゃ。盾に魔力が殆ど通ってないから、弱い攻撃しか防いでくれん。じゃが無いよりはましじゃろ」
「ありがと!」
斬り飛ばした分裂エルサリオスはさらに倍にとなってしまった。
しかしリーリアは少し冷静になっている。
『お父さん!』
『ああ』
『増えちゃったけど、弱くなってる』
『だな、一体に対する魔力の量が半分になってるな』
『うん、だから数は問題じゃないかも』
『だけど油断するな。数の暴力という言葉もある』
『うん、気をつける!』
問題はどうやって核を見つけるかだ。
このまま分裂エルサリオスと戦っていてはリーリアの魔力がいずれ尽きてしまう。
その前に何とかしなければいけない。
スライムは核が本体であり頭脳だ。
遠く離れすぎていては分裂たちの精密な操作は難しい。
なのでこの城のどこかに隠れている確率が高いと思えた。
ならば──
『リーリア』
『うん』
『この城を吹き飛ばそう』
『え?』
『この城のどこかに核をもっているスライムがいるはずだ。だがじっくり探している暇はない。だから全てを吹き飛ばそう』
『なるほど!』
『この作戦をディランに伝えるんだ。しばらくは一人で戦うことになるがそれしかないだろう』
『わかった!』
一か八かだ。
そんな作戦をリーリアにやらせるのは俺も嫌だが、迷っていては魔力が減っていき、この作戦もいずれ使えなくなる。
ならば今現在の状況を打破できる作戦を実行するのが最善であると思えた。
そんな作戦を考えている間も分裂エルサリオスはレイピアを振り回してくる。
すべてを斬り飛ばし、魔法で燃やし、数を減らす。
だが床の隙間から次々と新しいスライムがやってくる。
やはりきりがない。
チャンスを窺い、攻撃をさけるフリをして転がり、ディランのそばまで近寄った。
(おじいちゃん)
小声で呼びかける。
ディランは意図に気がつき分裂エルサリオスの方を向いたまま、盾で口元を隠して同じく小声で話をした。
(どうしたんじゃ)
(みんなを連れて城の外へ逃げて。この城を吹き飛ばすから)
(なるほど、了解した)
(あ、それと! 何かあったらウインドボールだって)
(? わかった)
不自然にならないようにすぐに会話を終わらせ、リーリアは分裂エルサリオスとの戦いに戻る。
「私は負けない!!!」
ワザと大声で気合をいれリーリアに注視させる。
そして怒涛の連撃で分裂エルサリオスをなぎ払っていった。
「なんだ? ずいぶんとやる気だな。そんなに気迫で攻められたら興奮してしまうではないか」
「うるさいっ!」
「ふふふ、こわいこわい」
馬鹿にしたようにやれやれと手を上げる。
しかし、スライムのくせにやたらと人間味があるな。
エルサリオス本人みたいな反応をしやがる。
食べると本人の記憶でも受け継ぐのだろうか。
ここは注意を引く意味でも話を聞いてみてもいいかもしれない。
『リーリア……』
俺は自分の意図を伝える。
リーリアも気になるというので確かめることにした。
「……ねえ質問していい?」
「ほう。なんだ? 先ほどまで邪険にしていたのに……もしかして私のペットになる決心がついたのかね?」
「それは違うけど! ……魔獣は人を食べるとその人の記憶を受け継ぐの?」
「なるほど。死ぬ前に気になる事を聞いてみたいという訳か。いいだろう教えてやる」
分裂エルサリオスは饒舌に語りだした。
「私は特別なのだ! あそこにいるケツァルは人の記憶など持ち合わせていない。ただ体と魔力を手に入れただけだ。だが──私は違う!」
「どうちがうの?」
「ふふふ。慌てるな。私の優秀さを詳しく教えてやろう」
この悦に浸って高くとまる性格はまさにエルサリオスそのものだ。
相手が女子供のリーリアということもあり、語るのがよほど気持ちいいのだろう。
この男はそういうやつだった。
エルサリオスはさらに興が乗ったようでべらべらと語りだす。
「私はエルサリオスに寄生することに成功したのだ。そして食べるのではなくじわじわと体を乗っ取っていった。そして今や完全にエルサリオスと一体化し、そのおかげで奴の記憶も引き継いだ。ふふふ、私はスライムとしての能力を持った最強の人魔獣なのさ」
「人魔獣!?」
「ふふふ、そうだ! ちなみにあそこにいるケツァルは不完全体だ! だから私が最強であり最高傑作であるのだ!」
「クカカ! ……ほざいてやがる」
面白くなさそうにそっぽを向くケツァル。
「ふん! やはり不完全体は頭も悪い。さあリーリアよ! 私のペットとして人魔獣となり一緒に世界を統べようではないか」
「絶対にいや!」
「ふう……魔獣の素晴らしさを分からないとは可哀想に」
普通に考えてペットにしてやろうとか言われてもハイという奴なんていないだろう。
しかしエルサリオスは本気で可哀想な子を見るように哀れんでいた。
「じゃあなんでナルリースを必要としているの?」
「……それはだな。さっき言った事も本当のことなのだよ」
「世界の平和?」
「そうだ! カオスが復活したら全てが飲み込まれるだろう。それは私とて例外ではない……だが私はそんなのは嫌なのだ。だから私がカオスを倒す。そのためにも【セレアの種】が必要なのだ」
「そう……それは本当だったんだ」
なるほど。
納得がいった。
スライムとして生まれ、どういう訳か寄生する能力があった。
エルサリオスに寄生をしたおかげで世界の真相が分かった。
そして仲間を集めて……まあ仲間なのかわからないが、【セレアの種】を使い強化をして化物を倒そうと計画していた。
後は自分が統べる人魔獣の世界を作ろうと画策しているという訳か。
「そうだ。お前も私の体の一部を使うことで人魔獣となれよう。理性はそのまま残してやるぞ? どうだ、私と共にカオスと戦おうではないか」
言ってる事は理解できる。
やろうとしている事も理解した。
だがな。
「断る!」
「何故だ? お前も世界がカオスに飲まれてしまうのは嫌だろう? ならば私の元につき共に戦うのが最善のはずだ」
「そんなの決まってる!」
リーリアは先ほどから語っているエルサリオスに剣先を向けた。
「私はあなたの事が大ッ嫌いだから!」
リーリアはそう断言した。
何の迷いもない。
気持ちいいくらい真っ直ぐに。
「……なんだと……ああ、お前もそこらへんの低脳と同じか……せっかく最後のチャンスを与えてあげたのに……仕方ないからその体だけもらうとしよう。ああ、本当に残念だ」
「体もあげないから!」
リーリアは駆ける。
分裂エルサリオスの合間を縫うように。
すれ違いざまの一閃ですべての分裂エルサリオスは分断される。
「だから無駄だといっているだろう」
「どうかなっ!」
リーリアはやめない。
すでに最初いた時の6倍くらいに増えてしまっていた。
瓦礫で埋もれているとはいえ破壊された下のフロアは広い。そこが分裂エルサリオスでかなりの密度となってしまっていた。
「くくく、こんなに増やしてどうするのだね?」
「これでかなり弱くなったはず」
「ほう、気がついていたか……で? だからどうだというのだ? 全てを消しても私は痛くも痒くもないぞ?」
確かにその通りだ……だが、十分に時間は稼げた。
そして弱くした分、綺麗に一掃できるだろう。
リーリアは念のために魔力探知で確認をする。
大丈夫、皆の反応は城の外にある。
「私のすべての魔力をかけて勝負する!」
「……ほう」
リーリアは集中し魔力を高める。
その魔力はどんどん増え続け、この場の誰よりも膨大な量となる。
「お前……まさか! すべての私よ! 奴を倒すのだ!!」
とたんにエルサリオスの表情が変わり分裂エルサリオスを放ってくる。
だが極限まで弱くなった分裂エルサリオスはオートガードで弾かれる。
「ちい! 分裂よ! 合体す──」
「もう遅い!!!!」
リーリアは発声する。
今現在の自身が発動できる最強魔法を。
「スーパーノヴァ!!!」
リーリアの前に球体が現われ急速に凝縮されていく。
そして、時間が止まったと錯覚するほどの静寂のあと──
──全てを巻き込む大爆発が起きた。
リーリアを含むすべてのものが爆発に飲み込まれた。
その規模は城全て。
巨大な音は衝撃波となり近くの木々をなぎ倒す。
町は屋根が飛び窓は割れ軽いものは全て吹き飛んだ。
後に残ったのは大きくくぼんだクレーターのみ。
城の痕跡など欠片もなく、全てが無くなっていた。
そしてリーリアは……多少の火傷を負ったが無事である。
『ちょっと制御しくっちゃった』
『いや、よくあれを制御した……よくやった!』
リーリアは魔力操作で制御して自分の周りに爆風がこないようにした。
しかし完璧に制御するのは難しく、爆風にやられてしまったが、この場所の現状を見て、火傷だけで済んだのは偏に訓練の賜物だった。
『でも魔力ほとんどなくなっちゃった』
『……これで消えてくれればいいんだが』
『そうだとありがたいけど……そうは行かないみたい』
『みたいだな……』
ボコボコと地面が突起する。
そして一つのでかい塊が現われる。
「驚いたぞ……まさかこんな魔法を放ってくるとはな」




