41、エルサリオスとの戦い1
「待たせたな、では始めるとしようか」
エルサリオスの魔力が高まる。
もう戦闘モードということだろう。
リーリアも負けじと魔力を高めた。
全力でいかなければすぐに負けてしまう相手だ。出し惜しみしている場合ではない。
「ほう……こんな逸材がいたとはな……お前リーリアといったか、今何歳だ?」
「……おしえない」
「生意気なガキだ。ふふふ、調教しがいがあるな。ディランを倒したらナルリースと共に私の元へきてもらうぞ」
エルサリオスは構えるが、ケツァルは腕を組んでつっ立ったまま完全に傍観スタイルである。
「戦うのはおぬし一人だけということでいいのか?」
「私は英雄王だぞ? お前らの相手は私一人で十分だ」
「そうか……それはよい事を聞いた」
ディランは元Sランク冒険者だが、英雄という存在はそのはるか上の存在だ。
世界を救ったものが英雄と呼ばれるようになる。
昔、俺もそう呼ばれていた時もあったな……今や懐かしい記憶だ。
こいつは俺を封印したことでそう名乗っているようだが。
「リーリア! わしがお主や後ろの二人を守る! だからおぬしは全力で攻めるのじゃ!」
「わかった!」
リーリアは後ろをチラリと見る。
そこには気を失っているジェラと満身創痍のナルリースがいる。
ここで踏ん張らねば明日はない。
リーリアは決意を固める。
「いつでもいいぞ?」
笑みを浮かべ余裕のエルサリオス。
あのむかつく顔に一発かましてやれ! リーリア!
「最初から全力でいくっ!! フレアバースト!」
全てを巻き込む超獄炎爆破。
俺の得意魔法でもあるそれをいきなりぶちかます。
玉座の間は光に包み込まれ爆音────そして消滅。
城の上部分はすっかりと消え去り、下の階に瓦礫が落ちる。
リーリアは瓦礫の山の上にすとんと降り立つ。
「あ、シャロのこと忘れてた……まあかなり下の階だし大丈夫……なハズ」
後ろを振り返るとディランの盾によって守られた二人の姿があった。
少し心配だったリーリアはほっと胸を撫で下ろした。
「リーリア! まだじゃぞ!!」
「……うん、これで倒せるとは思ってないよ!」
ふわふわと浮かぶ男が二人。
そのままゆっくりと降りてきて同じく瓦礫の上に着地する。
「クカカカカカ!! まさか吹っ飛ばされるとは思わなかったぜ……ぶっとんだガキだ!」
「笑い事ではない。玉座の間がなくなったのだぞ」
「いいじゃねえか、もうこんな城なんて」
「何を言っている! この城にはな……」
「あ? なんだ?」
「……ふん、なんでもない」
やつらは無傷のようであった。
残念な事にたいして魔力は全然減ってない。
……ダメージはなしか。
『リーリア! やつは火と風の魔法は効かないかも知れない』
『そうなの?』
『ああ、やつの最上級魔法は風属性……のはずだ。原理はわからんが物体の無い魔法はさんざん防がれた』
『お父さんも原理わからないの?』
『ああ、残念ながらな。300年前に戦ったときもそうだったがきっと今回も同じだろう』
『どうすればいいかな?』
『物理か土魔法が有効だ。実際に俺は殴って倒した……だが、やつの奥の手には気をつけろ、確実に避けれない攻撃がくる。対処法はウインドボールを作り中に入るんだ』
『ウインドボールね! わかった!』
『ただ、あいつはもう人ではないかもしれない。魔獣だと考えると予想外の攻撃もあるかもしれないからそこも十分に注意してくれ! とにかく攻めるんだ! そうすれば勝ち筋が見えてくるはずだ』
『うん!』
エルサリオスが魔獣であるという確証はない。
だが俺は十中八九、魔獣であると思っている。
だとしたら人であった頃のエルサリオスの戦い方を教えるのは意味が無いのかもしれない。
しかし先ほどの魔法を防いだのを見て、少なからずエルサリオスの魔法は継承している確率は高そうだった。
ならば警戒をするのは然るべきことだ。
と、するとだ。
風の最上級魔法が使える上に、魔獣として体も強化されているに違いない。
……今のリーリアには荷が重すぎる。
ディランのガードを頼りにするとしても攻撃が当たるかどうかわからない。
もし唯一勝てる見込みがあるとすれば俺の存在だろう。
エルサリオスは今回の事に俺がかかわっている事を知らない。
だからきっと奥の手を発動させれば必ず勝てると確信しているはずだ。
……そこがチャンスとなる。
油断しているところに強烈な一撃をお見舞いしてやるのだ。
「では今度は私からいくとしよう」
エルサリオスはレイピアを取り出し構えのポーズを取った。
リーリアも剣を構えてじりじりとすり足をする。
足場の悪い瓦礫の床を、グルグルと円を描きながら間合いをはかる。
足音も聞こえない静かな空間にリーリアの息づかいが顕著に聞こえた。
否応なしにも最初の一撃が届かなかったのを思い出してしまう。
悪いイメージを植えつけられてしまったのは手痛い誤算だ。
ふるふると頭を振りそれを振り払おうとした。
しかし良いイメージも浮かばない。
自然に額に玉汗がうかぶ。
それほど相手に隙が無かった。
「なんだ……もっと考えなしに来るタイプかと思ったが、なかなか良い読みをしているではないか」
そう言うとレイピアをくるくると回す。
「安心しろ今度はこのレイピアだけで勝負をしてやろう。ふふ、可愛い子には大サービスしてやるのが私の流儀よ」
「そんなのいらないよ!」
明らかな挑発だがリーリアはそれに乗った。
足に魔力を込め、一気に駆ける。
ジェラ直伝の流れるような連撃を繰り返しながら魔法を発動させた。
エルサリオスの逃げ道を塞ぐようにストーンウォールをめぐらせる。
一方通行となりエルサリオスはリーリアの剣を受けるしかなくなった。
「なかなか速いな!」
リーリアのスピードは一級品だ。
俺との訓練で今の限界まで鍛えている。
連撃しながらエルサリオスを追い詰める。そして、
「パワースラッシュ!」
絶対に避けられない計算された一撃。
エルサリオスはレイピアで受け止めようとするが……。
レイピアをへし折り、エルサリオスの右手を切り飛ばした。
「ぐっ!」
肩口から血が大量にあふれ出し、瓦礫の床を血で染めた。
リーリアは油断することなく、さらに追い討ちをかける。
かわそうとするが小さな傷を受けるたび、たまらず声を上げるエルサリオス。
「とどめ!!」
すでにぼろぼろであるその体に最後の一撃をお見舞いする。
リーリアの振るった剣はエルサリオスの体を切断した。
「インフェルノ!!」
さらに追い討ちをかけるように全てを燃やし尽くした。
その様子を神妙な面持ちで見つめるリーリア。
どう考えてもおかしい。
こんな弱いはずはない。
灰も残らなかったエルサリオスを見ながらも魔力探知での警戒は怠らなかった。
そこでずばりというか予想通りの反応があった。
リーリアの真下。
床の下から巨大な反応がっ!
ジャンプして近くの瓦礫の上へと移った。
すると──
ドガガガガァァァン!
でかい爆発音と共に床が崩れ落ちた。
玉座の間は吹き抜け状態となり、一つの大きな空間となってしまっている。
そんな下から浮かび上がってくる人物が一人。エルサリオスだ。
「なかなか痛かったぞ。だが私は倒せない」
魔力が殆ど減っていない。
どういうことなんだ?
『お父さん!』
『なにか分かったか?』
『さっき斬ったとき手応えが変だった』
『どんな感じだ?』
『まるで水を斬ってるような感じがした』
『水……水か』
ということは先ほどのエルサリオスはダミーということか?
エルサリオスは再びレイピアを構える。
ということはこいつも本体ではないのか?
こんなことができる魔獣は……。
俺は記憶を手繰り寄せる。
そして一つの可能性が浮かんだ。
『リーリア! 魔力探知の幅をもっと広げて見るんだ!』
『!? わかった!』
リーリアは急遽、急いで魔力探知の幅を拡大していく。
すると城全体、あちらこちらに反応があった。
「ふはは、魔力探知を広げたか。勘がいいようだな! そうだな、もう隠す必要もあるまい……私はエルサリオスであってエルサリオスでない。新たな存在となったのだ……そして──」
城のいたるところから魔力の存在が集まってくる。
そして壁の隙間から床の隙間までびっしりと水溜りのようなものが浮かび上がってきた。
『ち、やっかいだな』
『お父さんこれは!?』
『こいつはスライムという魔獣だ』
『スライム……昔お父さんが教えてくれたあの?』
『ああそうだ。原始の存在にして最強の一角。欲望のままに全てを飲み込むと言われている。分裂してダミーを作るのが得意で本体には核といわれる人の心臓と同じようなものがある。それを破壊しない限り永久的に倒せないぞ』
『とすると……』
リーリアはきょろきょろと辺りを見回す。
だがもちろん核を持ったスライムは見つからない。
「ふふふ、スライムは知っていたようだな。だがお前には核は見つけられないぞ」
スライム達はぷくりと膨らむともぞもぞと動き始めた。
そしてエルサリオスの姿をしたものが何十体とできあがった。
『……リーリア、すまないが訂正しないといけない事がある』
『うん……なんとなく想像ついたけど何?』
『スライムには物理も土魔法も殆ど効果がない』




