4、精霊契約
「おとうさん! ぶれすしたい! どうすればいいの?」
朝食時、焼いた魚を食べ終わると同時にそう話しを切り出すリーリア。
そう言うリーリアの目はキラキラと輝いている。諦めさせるのは難しいようである。
「一応できないことはないが……それには魔法の使い方をしっかりマスターしないといけないな」
「まほう!!!」
「ああ、そうだ。精霊と契約して魔法を使えるようにするところから始めるぞ」
「……せいれい?」
「そうだ精霊だ。火の近くにいるときや、海に入ってるときとかに何か感じた事あるだろう?」
リーリアは可愛らしく顔を傾げ、うーんうーんと唸ってから、ハッと何かに気がつくと目を輝かせた。
「いた! たきびしてるとき、たまにいる!」
「そう、それが精霊だ。そいつと契約をすれば魔法が使えるように──」
言うが早いかリーリアは焚き火に近づき話しかける。
「せいれいさんいるの?」
焚き火の周りをうろちょろと歩き回り、何度も話しかけたが何も変化がない。
「ふむ、まあ後でもう一度語りかけて見ればいいだろう」
そう急ぐものでもないとベアルは思ったが、リーリアはどうやら諦め切れないようだった。
「せいれいさんいるよね? はずかしいんだね。まってて──」
そう言うや否や、リーリアは焚き火に手を突っ込もうとする。
ベアルは慌ててその手を止めようとするが、すぐに思いとどまった。なんとリーリアの手を、火がまるで生きているかのように避けていたのだ。
「へいきだよ、これからなかよくしようね!」
そう微笑みながら言うと、焚き火がふっと一瞬大きくなり、ゆらゆらと穏やかにゆれだした。そしてリーリアの手を火が吸い付くように包み込む。どうやら契約は上手くいったようだ。
「すごいぞリーリア! こんな短期間で契約できるとは!」
「えへへ」
褒められて嬉しいのと契約できて嬉しいのとかが交ざって、満面の笑みで体をクネクネさせている。ベアルはそれを微笑ましく見ながらも、リーリアの才能について感嘆の声を出さずにはいられなかった。
「リーリア、お前は本当に才能がある。俺はお前がどこまで強くなれるのか楽しみだ」
■
リーリアに魔法の才能があるという事実に内心ほっとしていた。
最初、リーリアは人間族だと思っていた。
人間族には魔素が無いと言われている。何故だか俺にはわからないが、それがこの世界の常識だった。
子供のころにオリアスにそう教えられたし、実際に人間に会った事もあるが魔法を使えなかった。
……だとしたらリーリアは魔族ということになる。
ただ、人間と魔族には外見的に違いはさほど無い。まあ寿命は明確な差があるんだけどな。基本魔族は数百年生きて、人間族は数十年と言われている。
魔族の中にも種族は色々いて、獣人族や小人族、悪魔族や昆虫族などなど、さまざまな種類があり、そういうのをまとめて魔族と呼ばれていた。その他にもエルフやドワーフがいるのだが、エルフとドワーフは数も力も違い、それぞれ国を持っていることから魔族とは別の種族として数えられている。
ちなみに魔族の人族というのが俺の種族である。
要は魔族には魔素があり人間族には魔素がないということだ。
ここまで考えて、やはり有力なのはリーリアは魔族ということになる。
そして次に考られることは人間族と魔族のハーフなのかということだ。
だがそれは絶対にないはずだ。というのも人間族と魔族の間に子供はできないのだ。
昔、俺の知り合いに人間と愛し合った魔族がいた。二人は周りの反対も押し切って駆け落ちし結婚したが二人の間に子供ができることはなかった。
それはこの世界の常識であり、そういうものだと教えられてきた。もしかしたら俺が知らないだけで何か方法があるのかも知れないが可能性は低いだろう。
そう考えた時、リーリアは一体何なんだろうと思う。
魔素があるので魔族の人族とも考えたが、そうすると腑に落ちない部分もあった。
それは漂着したときにかけられていた法術だ。
法術というのは人間族にしか使えない術で、しかもかなり高位な法術となると使える人間は限られる。それこそ聖女クラスの人物でないと無理だろう。
リーリアに施されていた法術を解除するのに魔力をごっそりと使用した。この経験は昔したことがあった。
あれは300年前の戦いのとき、勇者アランの法術を破った時の感覚と似ていた。
つまりそれくらい高位の法術を使える人間に守られた存在という事になる。
人間族と魔族は仲がよくない……とはいえ戦争するほどの仲ではないが、人間族は魔素がないことでの疎外感からなのか世界から孤立してしまっている。
なので魔族の赤ちゃんをわざわざ高位の法術師が術を使ってまで生かしたとは考えにくい。
結局リーリアはどっちなのかわからないという結論に達した。
……すべては謎だが、まあそんなことは些細な問題だろう。
魔素があるから? 人間族か魔族か? なんで島に漂着したか? そんなことはどうだっていいじゃないか。
俺にとってはリーリアがいてくれる。それだけで十分だ。
この小さき女神様を立派に育て上げる。それこそが生きがいであるのだから。