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39、静かな怒り



 リーリアは走る。

 爆発音が聞こえた場所は近かった。


 シャロはその場に残ってもらう事にした。

 なんとなく胸騒ぎがしたのだ。

 

「僕がいても足手まといだよねぇ……うん、待ってる」


 そういうシャロは少し寂しそうだった。


『リーリア急げ! 嫌な予感がする……爆発音はきっと玉座の間だ』

『うん! わかった!』


 玉座の間にはすぐに着いた。

 そして瞳に映る玉座の間の景色は酷いものだった。


 ジェラは無残にも手足がもげ、ナルリースは魔力を使い果たしたのか倒れている。

 ディランは猫の魔獣と戦っていて、玉座にふんぞり返ってこちらを見る人物が一人とその横に立っている男が一人。


 形勢はあきらかにこちらが不利である。

 なんてことだ。

 予想外にヤバイ状態だ。


「ちっ! なんなのさ! いきなり魔法を発動したと思ったら変なところに撃ってさ!」


 炎をまとった鳥の魔獣が横に空いた大穴を見て舌打ちをしている。

 あれはきっとナルリースは合図のためにあけた大穴だろう。


 だがいったいどういう状況なんだ!

 一番酷いことになっているのはジェラだ。一応生きてはいるみたいだがすぐに手当てをしないといけないだろう。

 

 するとディランが猫の魔獣をはじき大きく跳躍。こちらの近くに着地した。

 

「すまん……わしの作戦ミスだ。相手の強さを見誤った」

「おじいちゃんが? 本当に?」

「本当だ……ジェラはあの鳥にやられて、ナルリースは魔力を使い果たして倒れた」

「あいつに……」


 そんな二人の会話に割り込んでくるものがいた。


「え? 君はだれ? なんでこんなとこにいるの?」


 炎をまとった鳥の魔獣がこちらに興味をもったらしく語りかけてきた。


「私はリーリア……そんなことよりジェラやナルリースやったのはあなた?」

「うん! サランって言うんだ! 見ての通り火の鳥さ! ははーん、なるほど! 君が牢獄に侵入したやつか!」


 どうやらばれていたらしい。

 

「でも君がここにいるってことはゼブラはやられたのか。まあ弱虫ゼブラだから仕方ないか! あはは」

「…………」


 仲間じゃないのか?

 ゼブラが死んでもまったく気にした様子はない。それどころか愉快そうに笑っていた。


「……そんなことどうでもいい。ジェラを……ナルリースをやったのがあなたなら許さない」


 リーリアは静かにバゼラードを抜き構えた。

 すると慌てたディランが、


「まて! いくらリーリアでも一人ではきつい! わしが攻撃を防ぐから二人で連携を──」

「大丈夫、私なら倒せるから」

「なんじゃと!?」


 リーリアは自信満々に頷いて見せた。

 ディランは用心深くその佇まいを見ていたが、「そうか」と一言。


「また少し強くなったようだな」

「そう……かも。負ける気がしない」

「わしも頑張らんとな」


 ディランは軽く手をあげ、再びカイムの元へと歩き出した。

 リーリアもずかずかとサランの元へ大股で近づいていく。

 歩き方からすでに怒っているのがわかる。


『リーリア──』

『お父さん大丈夫。怒っているけど頭は冷静だよ』

『そうか、なら問題ない……それとあの鳥魔獣の事なんだが──』

『うん、それも大丈夫。しっかり見えてるから』


 どうやら俺の取り越し苦労だったらしい。

 セブラとの実戦が本来のリーリアの力を引き出してくれたようだ。

 

「聞き捨てならないね……僕を倒せるだって? ちょっと生意気だね……僕は生意気なやつが大嫌いなんだ」

「そう……私もあなたが嫌い。大事な人を傷つけるあなたは!」

「言わせておけばっ! 斬り刻んで燃やし尽くしてやる!」


 サランは大声で吼えると一瞬にして消えた。

 リーリアは剣を構えると、何の躊躇いもなく虚空に一閃する。

 

 ガギィン!


 リーリアの剣はサランを捉えていた。


「なに!? 止めただと!!?」


 爪と剣が火花を散らす。

 それを振り払うと距離を取るサラン。

 

「もっと、もっとだ! スピードを上げていく!」


 確かに目で追うのは困難であるほどの速度である。

 だが、リーリアの魔力探知が極限にまで研ぎ澄まされている。

 それは剣の腕にも直結していて、最速かつ無駄の無い動きでサランを圧倒していた。


「ちぃ!」


 サランは近接では分が悪いと判断し距離をとる。

 魔力を高め極大の火炎球ファイアーボールを放ってきた。

 

「燃え尽きろ!」

「そんなもの!! 氷球アイスボール!!」


 飛んできた極大火炎球に、同じくらい極大氷球をぶつけ蒸発させる。

 あたり一面白いもやで覆われた。

 目視では靄で見えないが、お互いに魔力探知で大体の位置は把握している。


 リーリアは石槍ストーンランスを発動、分散させ、逃げ場をなくすように数百もの石槍がサランを襲った。


「多いんだよくそっ!」


 自慢のスピードで避けようとするが避けきれず、体中に石槍が刺さっていた。


「ぐあぁ! くそガキがああああ!」


 狂ったように叫ぶと、体に刺さっていた石槍を魔力で吹き飛ばす。


 ──だがもう遅い。


 すでにリーリアはサランの背後にいた。

 そして一閃、いとも容易く翼を切り落とした。


「ぎゃああぁぁああ!」


 サランは苦しみ地面をのた打ち回った。


「くそっ! 人なんかに!! 下等生物のくせに!!」


 多分ここまでやられたことがなかったのだろう。

 憤怒と羞恥心で気が狂っているようだ。

 頭と翼をかきむしり、大量の毛や羽根が抜け落ちている。


「……ねえ、いいかげんその小芝居をやめたら? そうしないとこのまま倒すよ」


 リーリアの一言を聞いた途端、サランはぴたっと動きを止めた。


「……へえ、分かってたんだ?」

「あなたは火の鳥なんかじゃない。本当は風属性の鳥。 ……ていうか火の鳥だったら火炎球ファイアーボールの練度が低すぎだもん」

「…………つまんないの。あ~あ、やだやだ迫真の演技までしたのにさ。いい気になって油断していたところに致命傷を与えて、ぐちゃぐちゃにいたぶるのが好きだったのになあ……最悪だよ」


 どうやらこれがサランの本性のようだ。

 リーリアは思わず眉をひそめ、剣を握る手が一際強くなった。


 怒っている。


 きっとジェラもこうやっていたぶられたのではないか?

 ナルリースも殺せないぶんじわじわとやられたのではないか?


 頭が沸騰しそうになり深く深呼吸をして心を落ち着かせるが、リーリアの瞳には確かな決意が宿っていた。


 絶対にボコボコにする!


 そんな決意だった。

  


 サランはゆっくりと立ち上がり、体にまとっていた炎が消える。

 そして膨大な魔力と共に周囲に暴風が吹き荒れた。


「あはは! それじゃ仕方ないね! 僕の本気を見せてあげるよ! 君にはこの世でもっとも残酷な死をプレゼントをしてあげるね!!」


 一直線。

 そう、愚直にも一直線にサランは飛んできた。

 だがそれは自信の表れ。

 それで勝てるという事実に基づく行動。

 魔力の暴力という名の突進だ。

 体にまよう暴風で、かわしたにもかかわらず、その風圧でリーリアは吹き飛んだ。


「くっ!」


 なんとか足で壁を蹴り激突を免れる。

 だが、もう既に目の前にはサランの姿があった。


 速い!!


 先ほどまでとは比べ物にならない。

 それは一陣の風のごとく。

 かろうじて避けてもすぐに風圧で飛ばされ体勢を整える事もままならない。

 リーリアはまるで軽い羽根にでもなったように簡単に飛ばされる。


「あははは! どうしたどうした! 軽すぎるんじゃないか? さっきからちょっと近くを通っただけなのに飛びすぎだよ!! あはは!!」

「くっ! ストーンウォール!!」


 サランの動きを読み、進行上に石壁ストーンウォールを発動する。だが──


「無駄無駄無駄!!!」


 簡単に粉々に砕け散ってしまった。

 それからも次々と進行上に石壁ストーンウォールを発動させるがどれも粉々に砕け散る。


 だんだんとサランの突進が速度を増してくる。

 すでに何度か直撃寸前にまで追い込まれていた。


「ストーンウォール!!!」

「だからしつこいんだよおぉぉぉぉおお!!!! このクソボケがああああ!!!」


 当然の如く石壁はくだかれる。

 だがそれでもリーリアはやめなかった。


 何十回も繰り返したせいか、サランはイライラしていた。


「もういい加減に死ね!!!」

「ストーンウォール!!!!!」

「バカの一つ覚えが!!!!」


 この石壁にも当然のように突っ込んでくる。

 そして──



 ──サランはぐっちゃりとつぶれて肉の塊と化すのだった。



 

 一方その頃、ディランも決着がつこうとしていた。


 自力では完全にディランが押している。

 ただ決定打がないだけだ。


 カイムはすでにボロボロである。

 そして、こんなときではあるのだが、二人の間には不思議な感情が芽生えていた。


「ふむ、どうやらあっちはリーリアが勝ったようじゃな……こっちもそろそろ決着をつけるかの?」

「そうですね……少々名残惜しいのですが、さすがにあのお嬢さんと共闘されると一瞬で私は消えてしまうでしょうからね」

「敵ながらおぬしとはいい酒が飲めそうなんだがな」

「同感です。私は魔獣の中では異色ですから……でも感謝しますよ」

「わしも正直助かった。ジェラには悪いことをしたが……いや、あの二人なら勝ってくれると思っていたんだが……次の敵エルサリオスの事も考えるとここで昔のカンを取り戻さなければならなかった」

「私は全力で戦えたので満足です。 ……最後にあなたと戦えてよかった」

「うむ、わしもじゃ……ではいくぞ」


 3秒後、カイムの首がとんだ。




『どうやらディランの方も決着がついたようだな』

『うん』


 リーリアはジェラにエンシェントヒールを使用していた。

 命あるかぎりすべての傷を治す回復系上級魔法だ。

 無残な姿となっていたジェラは元の姿をとり戻す。

 だが体力までは回復できないため、気を失ったままであった。

 ジェラをそっと近くの柱にもたれ掛ける。

 

『しかし、見事だったぞ』

『本当!?』

『ああ、すごいぞ! 駆け引きも上手くなったな』

『お父さんのおかげだよ』

『いやいや、リーリアが頑張ったからだよ』


 実際、本当に見事だった。

 序盤に何度も発動していた石壁ストーンウォールはただのハリボテだ。

 本命は最後に発動した石壁だけ。

 あれを物凄くガチガチに強化して、あとはサランに思いっきりぶつかってもらうだけだった。

 そしてそれを成し遂げた。

 俺はリーリアの成長に涙がでそうだ。

 

 だが、本当の地獄はここからかもしれない。

 エルサリオスともう一人の男。

 この二人は別格であることがひしひしと伝わるのだった。



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