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38、絶望【ナルリース視点】



 すぐに動いたのはディランだ。

 盾を背負い、体の大きさに似合った剣を取り出しカイムに突撃する。

 一撃の重さはジェラの比ではない。空を切る音が振動して私にも伝わってきた。

 だがカイムも猫魔獣となりスピードがかなり上がっている。

 すべての攻撃を跳躍し、壁を蹴り、縦横無尽に動き回りながらかわす。

 

 速い!


 ジェラが獣化できるのだがその次元ではない。

 数段階、上の次元の速さである。

 

 どうしてディランがカイムと戦うことを選んだのかわかった。

 ジェラはともかく私ではあのスピードには対処できない。


 そんなディランの戦いを観戦しているのは私だけじゃなかった。


「あーあ、いいなぁ。僕はこんな弱い二人を相手にしないといけないなんて」


 そうつまらなそうに呟いているのはサランだ。

 先ほどまでジェラと口論していた元気はどこ吹く風か脱力していて、体の炎が多少弱くなっているような気がした。

 

 正直チャンスである。

 このまま戦わずに時間を稼げるならそっちのほうがいい。

 だがジェラは、


「なめるにゃ!」


 そう叫ぶとサランに突っ込んでいった。

 するとサランはやれやれと燃える翼を広げ、かかってこいと余裕のポーズ。


 ジェラは斧に魔力を溜めるとそれを解き放った。

 すると斧は魔力につつまれ黄色に光る。


「いくにゃ────メテオ代伐採!」

「──っ!」


 まともに食らうとまずいと思ったのか飛んで宙に逃げる。

 ……が、今度は大量の石つぶてがサランの上から降り注いだ。

 これにはたまらず燃える翼で体を囲いガードをする。


「リース!」

「わかってるわ!」


 ジェラがメテオ代伐採を使用すると分かったときから私は準備を進めていた。

 多分、これが最後のチャンスだろう。

 サランは火属性の鳥魔獣だから、私の得意な魔法で勝負ができる。

 だからこの一撃にすべてをかけるしかない!

 

 そして最大限に魔力を高めた今!!


「ウォータートルネード!!!」


 竜巻の中で水でできた竜が幾重にも重なり巨大な水竜となる。

 暴れ狂う水竜はサランに襲い掛かった。

 体の炎は鎮火し、翼を食らい、足が吹き飛ぶ。


 だが……倒れる気配はない。

 ウォータートルネードを食らいながらもなお、サランの肉体に残る魔力は健在であった。

 

「あはははは! これは驚いた! 技もすごいけど、こんな魔法も使えるなんてね! ちょっと舐めてたよ!!」


 そう言いながら負傷した部分が再生されていく。


「そんな……ダメージがあまり通らなかったっていうの……それに再生まで…………」

「まあね! すごかったけど僕の魔力バリアは突き破れなかったね! 残念残念!」


 すべて回復し終わったようで、くちばしを使って器用に毛づくろいをしていた。

 相変わらずの余裕だった。


 なんで?

 水が弱点じゃなかったの!?

 苦しんでもよさそうなのに!


「ねえ、もしかして今のが最強の攻撃なの? もっとなにかあるでしょ?」


 今の魔法で私は殆ど魔力を使い果たしていた。

 ……どうやら本当にリヴァイアサンほどの実力がありそうだ。

 いや、むしろこちらの方が強いのではないか?

 そう感じるほどに魔力のプレッシャーで押しつぶされそうだった。


 すると突然ジェラが斧を地面に投げ捨てた。

 そして魔力を高めていく。


「仕方ないからとっておきにゃ! これをするとあとで動けなくなるから嫌なんだけどにゃ……」

「もしかして獣化? 獣人ができるという奥の手? わあ! 僕初めて見るから楽しみだな」

「余裕でいられるのも今のうちにゃ!!」


 体はみるみる大きくなっていく。

 太く強靭な前足にしなやかで強い後ろ足。

 猫獣化したジェラが強力な魔力をたたえ、毛を逆撫でて立っていた。


「へえ~なかなかだけど、カイムには大分劣るね」

「うっさいにゃ!!」


 獲物を狙う獣の如く、一瞬にして距離を詰める。

 だがサランは跳躍して宙に浮き、あっさりとかわすのであった。

 

「あはは、つかまえてごらんよ!」

「くそっ!」


 壁を蹴り、その反動で一気に跳躍する。

 だがそれもひらりとかわされる。


「くそっ! 捉えられないにゃ!!」

「そりゃそうさ! 僕はカイムと結構長い間一緒にいるんだ! 獣の動きには慣れてるんだよ!」


 けしてジェラが弱いわけではない。

 身体能力はかなり強化されているし、魔力も元の体より高くなっている。


 ……だが相手がその上をいっている。

 それにカイムとは同じ猫であるため、攻撃の動作が似てしまう。

 だから動きが読まれてしまうのだ。


「そろそろ飽きちゃったかな」


 ──殺気!?


 あたりが凍りついたように冷える。

 それほどまでの魔力があたりを包み込んだ。


「いかん! 避けるんじゃ!!!」


 ディランが叫んだその瞬間。


「!?」


 ──え? 今何が?


 一瞬だった。


 目の前でジェラが手足を飛ばされ横たわっていた。

 じわりじわりと床が血で染まっていき、ジェラはピクリとも動かない。


「──ジェラ!!!」


 私は駆け寄ろうとするが、


「おっと、ここから先にはいかせないよ。今から僕が食べるからちゃんと見ててよね」

 

 サランが私の行く手をふさぐように燃える翼を広げ立ちはだかった。


「そこをどいて!!!」

「大丈夫、ナルリースさんには手出ししないから……怖いエルフが見てるからね」

「邪魔よ!!」


 こうなったらもう一度魔法を──


「────ぐっ!」


 体全体に鈍い衝撃が走る。

 いつの間にか私は床に叩きつけられた。


「手は出さないようにしようとしたんだけどね。大人しくしないからだよ」

「ぐ……」


 肺が苦しい。

 どうやらサランにやられたようだ。

 踏みつけられて息ができない。

 だけど私がなんとかしないとジェラが!


 発音しなくても出せる魔法を!

 だが私が発動しようとするたびに、なんどもなんども踏みつけられた。

 

「だから~僕があいつを食べるところをしっかり見てってば! 言うこと聞かない子はイライラするなあ」


 今度は私をまるでボールのように蹴り飛ばす。

 何度も床をバウンドし、壁に激突してようやく止まった。


 だが意識は飛ばなかった。

 エルサリオスの手前、私を殺す訳にはいかないから手加減をしているのだ。


 私は助けを求めるために痛みを我慢して顔を上げる。

 ディランは苦戦しているようだった。

 優勢ではあるようだが、相手の動きが速いせいか仕留めきれないでいる。


(ディランさんでも簡単に倒せない相手なんだ)


 心が折れそうになる。

 ……でも私が……私が何とかしないと!!

 ジェラの死は目前にせまっているのだ!


「うああぁぁぁぁああああ!!!!!」


 体に激痛が走るが気合を入れて立ち上がる。

 今はヒールの魔力も惜しい。

 最後の魔力を振り絞って攻撃するのだ。


「あ~面倒くさいなあ。殺しちゃいけないってこんなにも大変だったんだ」


 サランはゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。

 そうだ……こっちに来い。

 私の全力をくらわせてやる!!


 サランの手がもう少しで届く距離まで近づいたその時────


 

 ドガアアアァァァァァァァッァン!!!!!!!



 物凄い音と地響きが城全体に響き渡った。


「え? なにこれ!?」


 サランは突然の爆音に驚いている。

 この爆発音はまさかリーリア!?


 私はすぐに使おうと思っていた魔法を変更する。


 リーリア! ごめん……でもあなたならきっと!


 そして、魔力を一気に解き放った。


「エクスプロージョン!!!」


 先ほどと同じような爆発音が城全体に響き渡るのだった。




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