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37、連携【ナルリース視点】



「ちょっと待ってくれんか!?」


 そう叫ぶディラン。

 無理もない。ホークだけならまだしも他のメンバーも魔獣と化してしまってしたのだ。

 それじゃあ戦闘して倒しますとは感情がついていかないのだ。


「なんだよじいさん、白けちゃうじゃないか」


 青年の姿をしたやつがつまらなそうにディランを睨む。


「おぬし達はその姿の者達を食らったということで間違いないのか?」

「だからそう言ってるじゃない……お・じ・い・ちゃ・ん、あははは」


 女の姿をしたやつが馬鹿にしたように嘲笑う。


「そうか、わかった……」


 ディラン目つきが変わった。それと同時に魔力がとてつもなく高まっていくのがわかった。

 この者達は以前のホークアイのメンバーではない。もう別の存在なのだ。

 戦う決意が固まるのにはそれで十分である。


「あはは! いいね! じゃあ始めようか!!」


 青年の姿をしたやつが臨戦態勢になると他のやつも同じようにポーズを取る。

 こちらもディランはもとよりジェラもやる気満々だ。


 だがナルリースは困惑する。

 こいつらと戦ってる場合じゃないのに!

 まだエルサリオスに聞きたいことはあった。


 母は無事なのか?

 なぜ私を狙うのか?

 この国はどうなってしまったのか?

 なぜ魔獣と手を組んでいるのか?


 知りたいことがいっぱいある。

 だがもう戦闘がいつ始まってもおかしくない。

 私も集中しなければいけない。

 …………それにしても先ほどからエルサリオスの視線が気になる。

 私を見ているのだが私を見ていないような感覚。

 体を透過し中身まで見られているような不快な感じ。

 

 ああ、もう!

 気持ち悪い!!


 さっさとこいつらを倒してエルサリオスに全ての疑問を洗いざらいはかせよう。

 そう決意するのだった。



 

 敵は三人。ケツァルは戦わないらしい。

 

「一応自己紹介しておきましょう。私はカイムと申します」


 私達を城門から案内したのもこいつだ。片眼鏡をかけていて白い髭をたくわえたまるで執事のようなご老体だ。


「私はナディよろしくね……まあ一瞬で殺しちゃうけどね」

 

 20代後半くらいの女だ。言葉通りの残忍さを表情から見て取れる。


「僕はサラン! 楽しませてね!」


 笑顔を浮かべるのは10代後半くらいの青年だ。

 この子は良く覚えている。

 若くして天才と呼ばれていた将来有望な子だった。

 それがこんなことになるとは誰も予想できなかっただろう。

 可愛かった笑顔も今は仮面のようである。



「ナルリース! ジェラ! くるぞ!!!」


 ディランの一喝。

 私はすぐに氷槍アイスランスを発動する。

 大量に分散させ一気に放つ。

 

 ──が


 ナディの放った火槍ファイアランスによって相殺される。

 だがそんなことは想定済みであるために驚かない。


 ジェラが動く。

 斧を構え、ナディへと突進した。


 私達は連携をして動く。島でもそういう風に特訓してきた。

 ディランさんともすでに打ち合わせをしてあった。


 ジェラはナディに斧での連撃を繰り出す。

 一撃一撃がするどく重い。

 ジェラの連撃の精度はベアルのお墨付きだ。

 ナディは防戦一方となるが、その状態を他の二人が黙って見ているはずがない。


「あはは! ナディ! 苦戦してるね!!」


 サランがジェラに向かって横槍を入れようと突進するが────


 ガキィィィン!


 その進路をまるで要塞のようにディランが立ちふさがる。

 ディランの持つ大盾はサランを覆い隠すほどであり、その大盾でサランを吹き飛ばした。


「ちぃ! じいさんのくせに素早いな!!」

「ならば私が行きましょう」


 今度はカイムがジェラへと襲い掛かる。

 ディランとは距離があるので確実に間に合わない距離だ。


 ジェラは一心不乱にナディへの連続攻撃をしている。カイムの攻撃を防ぐ手立ては無かった。

 カイムのナイフがジェラに襲い掛かる……だが──


 ガギィィンン!


 カイムは急に目の前に現われた盾によって弾き飛ばされる。

 

「なんですと!?」

「ふぉふぉふぉ、そんな攻撃ではわしを突破できんよ」


 ……やっぱりすごい。

 二人の攻撃はけして軽いものじゃなかった。昔の私だったら一撃で致命傷を受けるほどだ。

 だがディランさんは全てを防いでしまう。

 さすがは元Sランク冒険者で"鉄壁のディラン"の名は伊達じゃない。

 相手の攻撃すべてをディランさんに任せておけば後は私達が各個撃破すればいいだけなのだ。


「にゃにゃにゃにゃにゃにゃ!!!!」

「ちっ! しつこいわねあんた!!」


 ジェラの連撃は続く。

 体力だけはバカみたいに鍛えてきた。

 ちょっとやそっとじゃ止まらない。


 狙うなら今! 

 私は魔力を高める。

 力をセーブしようと考えるな。

 高めろ! 高めろ!! 魔力を高めろ!!!

 全てを灰燼に帰す一撃を!!!!

 

 狙いは────ジェラ!

 

「ライトニングボルト!!」


 一瞬の閃光、そして光が走る。

 それは一瞬の出来事だった。

 発動と同時にジェラは連撃から自然と流れるように横にそれた。

 そして驚くナディを雷撃が貫く。


「ぎゃああああぁぁぁああああ!!!!」


 ナディの全身を電撃が駆け巡り、細胞の一つ一つが焼かれ、一瞬のうちに跡形も無く灰となるのであった。


「なんでっ!?」

「…………」


 カイムとサランは呆然と立ち尽くした。

 あっさりとやられてしまったことが信じられないとでも言うように。


「リース、タイミングばっちしにゃ!」

「ふふ、ジェラも完璧だったじゃない!」


 私達は何度も練習を重ねてきた。今では阿吽の呼吸でこれくらいの連携なら朝飯前なのだ。


「うむ、予想以上に練度が高い……グッドじゃわい」


 ディランさんもこれには良い方向に予想外だったのだろうか。満面の笑みである。


「なんだよこいつら……敵はディランだけだと思っていたのに!!」

「どうやら私達は侮りすぎていたようですね。ナディは真の姿をだすこともできずに負けてしまいました……これは人化の弱点といえましょう」

「じゃあ真の姿に戻るの?」

「このままでは勝ち目がないですからそうするしかないでしょう」

「くそぉ……こんなやつらに本気をださないといけないなんて」

「恥ずかしいと思ってはいけません。それだけの相手なのですから」

「わかったよ」



 カイムとサランの体に異変が起きる。

 体から膨大な魔力があふれ出ている。

 

 これはまずい。

 私の体がそう告げているように震えた。

 ……本能で脅えていたのだ。


 僅かな時間、数秒だっただろう。

 カイムとサランの肉体は人のものから魔獣のものへと変わっていた。

 そして現われたのは鋭い爪をもち長い牙の生えた猫の魔獣と炎を身にまとった鳥の魔獣だった。


「む、こやつらは!」

「ディランさん知ってるの?」

「多分じゃが……どちらもSランク魔獣に近いといわれている凶悪な魔獣じゃ……この大陸にはいないはずじゃが」


 Sランクに近いって……魔獣のランクはA以上は正確には測れないと言われている。人側にそこまでの実力者が少ないからだ。

 なので暫定的なランク付けとなる魔獣も多い。この二頭もそんなところだろう。


「何百年前の話をしてるのさ! 魔獣だって移動くらいするよ」

「あなたは移動が楽ですけどね……私は苦労したのですが」

「え? ああ! 地べたを這い回るやつは大変だね! あはは!」

「まったく……そんなことより、倒してしまいますよ」

「僕がディランだからね!」

「それとこれとは別問題です……早い者勝ちですよ」

「えー!!」


 のん気な会話とは裏腹に、その圧倒的な魔力に私は怖気づく。

 これはもうSランクといわれても遜色ない相手だ。

 例えるなら……リヴァイアサンが二頭いる。そんな感じだ。


「ナルリースにジェラ、良く聞くのじゃ」


 カイムとサランが会話している途中、ディランが警戒をしつつも近くに寄って小声で話しかけてきた。


「なんですか?」

「作戦かにゃ?」

「そうじゃ時間がないので端的に話すぞ。今度はわしが一頭を倒す……その間、二人で一頭を押さえられるか?」


 どうやら作戦を変えようという話らしい。

 もちろん不服などはない。むしろそれが妙案だと思えた。


「はい、相手にするだけならいけると思います」

「同じくにゃ」

「そうか……ではわしは猫の魔獣をやる。鳥は任せたぞ」


 そういうと離れていく。そして自然と猫魔獣の近くに陣取った。

 

「ほほう、これは面白いですね」


 そんなディランの意図をカイムは読み取り、私のものだとばかりにディランに近づいた。


「あ、ずるいぞ!」

「ずるいもなにもディラン殿は私とやる気みたいですよ」

「なんだよっ! くそっ!」


 どうやらやつらには二人でディランを倒すという概念はないらしい。

 潔く私達の元へとやってきた。


「ちぇ! こんな猫魔族食べてもお腹が膨れないよ!」


 そうジェラに悪態をついた。


「あたしだってお前に食べられるつもりはないにゃ!」

「あんだと!?」

「やるかにゃ!?」


 こういう時のジェラは本当に勇ましい。

 私の心も自然と平常心となり、やれる気になってくる。

 大丈夫、私達ならやれる!


「いくにゃ!!」


 ジェラの一声が開戦の狼煙となった。




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